アレルギーの予防・治療をめぐっては、まことしやかな“俗説”が存在している。そのひとつが「妊娠中の卵や牛乳で子どもがアレルギーになる?」というもの。専門医がズバリお答えする。
「私自身がアトピーだったので、子どもに遺伝して食物アレルギーにでもなったら、かわいそうだと思って……。妊娠中も卵や牛乳をとらないようにしていたんです」
昨年出産した都内の女性(30)は、最近そんな話を聞かされた。娘は生後6カ月。菜食中心の食事にこだわる保育園に通わせる予定だ。冒頭の発言はその保育園のママ友懇親会で飛び出した。
「不妊治療をしていたため妊娠前からベジタリアンなんです」
などなど、こだわりの食事スタイルを披露するママ友たちの話で盛り上がったという。
妊娠中に卵や牛乳をとると、子どもがアレルギーになる──そんな説を耳にしたことはないだろうか。前出の藤澤隆夫医師によると、あながち都市伝説とは言い切れず、2000年代初頭まではアレルギー専門医の間でも信じられていたという。
しかし、その後の研究で、この説に根拠はないことが判明。日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会が発表した「食物アレルギー診療ガイドライン2012」には、こう明記されている。
「食物アレルギーの発症予防のために妊娠中および授乳中に母親が食物除去を行うことは推奨されない。偏った食生活をしない」
菜食主義には、健康法、宗教、動物愛護など多様な背景があり、一概に否定すべきではないだろう。ただ、妊娠中に胎児のアレルギー予防の効果を期待して動物性たんぱく質を除去しても、効果がないばかりか弊害すらありうるというのが、現在の学界の共通認識のようだ。
逆に妊娠中に特定の食物を積極的に摂取することも、ガイドラインは推奨していない。
「また、母乳には多くの有益性があるものの、アレルギー疾患予防という点に限れば、母乳栄養が混合栄養に比べてすぐれているという十分なエビデンスはありません。基本的な考え方としては、妊娠中は特定の食物を除去すると栄養のバランスが偏るので、バランスのよい食事をすることが求められます」(日本小児アレルギー学会理事長・藤澤隆夫医師)
ガイドラインはさらに、「離乳食は生後5~6カ月の開始が奨められる」としたうえで、両親・きょうだいにアレルギー患者がいる「ハイリスク児」への低アレルゲン化ミルクの使用については、「医師の指導の下に行う」と規定している。