今、世界のアスリートに広がる植物性食品 栄養面から考えるメリット&デメリットとは | ~たけし、タモリも…「1日1食」で熟睡&疲れナシ~

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FC2 Analyzer公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「プラントベースド」

 Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。

 

通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「プラントベースド」について。

今、プラントベースドの食事は世界的に増加傾向にあり、世界のアスリートの間でも広がっています。

 プラントベースドの食事とは、植物性の食品を中心とした食事です(※)。人、あるいは団体によって実践の方法や何を食べるかは異なり、少量の動物性食品をよしとする人もいれば、一切摂らない考えの人もいます。

 

また、食材を丸ごと摂らないと必要な栄養素が摂れないという考えから、ホールフーズ(Whole foods)を食べることを重視する考えもあります。

 そして動物愛護や環境保護、信仰する宗教の観点から実践する方もいれば、一般論として肉や卵といった動物性食品よりも植物性のほうが、カロリー、脂質、コレステロールが少ないので健康にいいと考える人まで、プラントベースドの食事を実践する理由も実に多様です。
 
 現在、プラントベースドの食事がアスリートにとって妥当か否かの結論は出ていません。

 

ただし、観察研究及び短期介入研究に基づく最近のレビューによると、最大12週間、ベジタリアン食を非ベジタリアン食の代わりに実践しても、筋力、パワー、パフォーマンスは有利にも不利にもならないことが報告されています。

現時点では、ベジタリアンの食事がアスリートのパフォーマンスに与える影響についての研究は数少ないものの、植物性の食事に切り替えたとしても、明らかにパフォーマンスが低下するとも言い切れません。

 恐らく日本人アスリートのなかにも、プラントベースドの食事に興味を持っている方はいると思います。そこで、栄養素の観点からプラントベースドのプラス・マイナス面を考えてみましょう。

自然と多くなる炭水化物の量、一方のデメリットは…
 植物性の食事にすると、まず炭水化物の量が自然と多くなります。そのため、摂る食品次第で、持久性スポーツに必要なエネルギーは十分、摂取できると考えられます。

 

また、野菜や果物からはビタミンやミネラルといった栄養素、そして抗酸化物質が豊富に摂れ、上気道感染症のリスクが高いことされる持久性アスリートにとってメリットになるのではと考えられています。

プラントベースドの食事を実践すると「何となく調子がよい」という実感を得られるアスリートがいる理由は、そのためではないかともいわれています。一方、デメリットについてですが、1つは食物繊維が多いことが挙げられます。

食物繊維の多い食事は、肉や魚などに比べてエネルギーが少ないだけでなく、良く噛むことにより満腹感が得られるうえ、食後の満腹感を長引かせることも報告されています。多くの場合、プラントベースドの食事では、食物繊維が豊富な精製されていない米やパン、パスタの他、野菜や果物、豆類を中心に食べます。そのため、空腹感を得られにくいことで競技者として十分なエネルギー量を摂取できない恐れがあります。

 2つ目は、不足しやすい栄養素が多い点です。

 

特に魚などに含まれる良質な油、オメガ3系の油や、血液や骨、免疫などに関わる鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンD、ビタミンB12は、かなり意識をしないと必要量が摂れないというデータがあります。

 以上のことから、アスリートがプラントベースド食を実践する場合、肉や魚、卵、牛乳・乳製品の代わりに食べる食品や食事量をしっかり考え、コントロールしないと、栄養不足に陥りやすい恐れがあります。

ですから、動物性食品を一気に断つのではなく、例えば週1、2回、メインのおかずを肉ではなく、大豆製品や大豆ミートの料理にするなど、コンディションをみながら少しずつ摂り入れていくというのはいかがでしょうか。

 

この際、先に上げた2つのデメリットを意識しながら、食材や量をコントロールすることも必要です。

アスリートは大豆ミートを使用した外食を日常的に摂るのは注意
 またアスリートの場合、大豆ミートを使用したファストフードや外食を日常的に摂るのは注意が必要です。

 大豆ミートはその名の通り、調理の方法によって肉と大きく変わらない味や食感を楽しめます。そのため、体脂肪を増やしたくない、減量によさそうという理由で、大豆ミートを使った食事を試したい方もいると思います。

 

しかし、現在、日本で手軽に食べられる大豆ミートを使ったハムやハンバーグ(ファストフードなど外食の商品を含む)のなかには、肉を使用した食品と脂質量やカロリー数がさほど変わらないものもあります。

 以上のことから必ずしもヘルシーとは言い切れないので、植物性という言葉から受けるイメージを妄信せず、原材料名と栄養成分表示の両方をチェックして、自分の目的に合っているかどうかを考えたり、食べる頻度を調整したりしましょう。

 

注意点はあるものの、プラントベースド食の選択は、アスリートの一人ひとりが環境のため、或いは動物性食品の摂り過ぎを防ぐためにできることの一つです。

 精製されていない穀物や野菜、果物、豆・豆製品を積極的に摂ることは、アスリートだけでなく現代人に不足しがちな食品(栄養素)を摂取することに繋がります。

 

肉や魚を極端に減らすというよりも、まずは、植物性食品を多めに摂取することで、動物性食品の量を自然に減らせるのが理想ではないかと思います。

 

(※)プラントベースドの食事は植物性を中心とした食事全般を指すため、ヴィーガンやベジタリアン(ヴィーガン、ラクトベジタリアン、オボベジタリアンなど)らが実践する食事も含む。

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。

橋本 玲子
 ラグビーワールドカップ(W杯)2019で栄養コンサルティング業務を担当。2003年ラグビーW杯日本代表、サッカーJ1横浜F・マリノス(1999年~2017年)、ラグビートップリーグ・パナソニック ワイルドナイツ(2005年~現在)ほか、車いす陸上選手らトップアスリートのコンディション管理を「食と栄養面」からサポート。また、ジュニア世代と保護者に向けての食育活動も行う。アメリカ栄養士会スポーツ循環器栄養グループ(SCAN)並びに、スポーツ栄養の国際的組織PINESのメンバー。アメリカ栄養士会インターナショナルメンバー日本代表(IAAND)として、海外の栄養士との交流も多い。近著に『スポ食~世界で戦うアスリートを目ざす子どもたちに~』(ベースボールマガジン社)