夜寝ていて、突然こむら返りが起きたらどうしよう。まあ、どうすることもできないのだが、そんな不安におびえながら暮らす人がいる。
安らかであるはずの眠りを瞬時に打ち砕く激痛。夜明け前、寝室から聞こえてくるうめき声、ああ…。
1日を終えて布団に入る時、普通の人は安堵(あんど)の表情で眠りにつくもの。しかしMさん(49)は違う。恐怖におびえ、冷や汗をかきながら寝る毎日。何と気の毒な睡眠だろう。
Mさんは高校教師。以前は学校の近くのマンションで、奥さんと娘2人と暮らしていたが、痴呆が進んだ奥さんの父親の面倒を見るため、1年前に彼女の実家の近くに引っ越した。
片道2時間。朝の電車は座れるが、帰りはなかなか座れない。剣道部の顧問をしているため、家に着く頃には疲労困憊(こんぱい)。
朝は6時前に家を出るので、寝るために帰るようなもの。しかし、その睡眠に恐怖が待っている。
明け方近くになると脚がつる。夢の中で気配を感じ、急いで目を覚ますのだが、何もできない。あっという間にふくらはぎがけいれんして、激痛にのた打ち回る。
それでも妻を起こさないよう、ベッドの下に降りてからのた打ち回るあたりは、美しき夫婦愛だ。
「疲労がたまってけいれんが起きているのでしょう」と語るのは、川崎市麻生区にある麻生総合病院スポーツ整形外科部長の鈴木一秀医師。そのメカニズムを次のように解説する。
「脚のけいれんが起きる背景にはいくつかの理由が考えられます。
乳酸の蓄積はもちろん、ナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどの電解質の低下でバランスが崩れても、けいれんは起きやすくなる。いずれも“強い疲労”がベースにあるのは明らか」
鈴木医師によると、気温が低い時のほうが起きやすいが、夏でも疲れや発汗、脱水などが原因で起きるという。対策は、脚の血流改善と電解質の補給だ。
「風呂でゆっくり脚を温め、寝る前にストレッチをして脚の血行を良くすると効果的。寝る時は脚を高い位置に上げたり、ふくらはぎを締め付けるストッキングを使ってもいいでしょう。またスポーツ飲料などの摂取も必要です」
いくらストレス社会とはいえ、睡眠中も不安から逃れられないなんて、あんまりだ。