『わたし・黒…真紅』- 詩・いえす- わたしは冬の黒い雪より真夏の真紅の激情を愛します色のない透明なやさしさより黒と真紅のぐちゃ混ぜになった春の衝動を慕いますもしかしたらわたしのセロトニンとかドーパミンとか脳内物質も胆石のような黒と鮮血のような真紅とほんの少しの少年のような憧れでできているのかも知れませんそしてひとつまみの青白い怒りも混ざっているのかも知れませんそして一滴の白く淡い哀しみの涙も…わたしの心魂の底に沈んでいるのかも知れません- いえす『わたし・黒…真紅』8月9日 闘病の床にて。
『- 生 - 石原吉郎氏に捧ぐオマージュ2』- 詩・いえす- わたしが立つこの位置はわたしだけにさだめられた断念のあかしわたしが立ちすくむこの位置はわたしだけに与えられた失語の傷の生々しさあなたがうずくまっているその位置はわたしとあなたの人生の平行線上の一点あなたが横たわっているその位置はわたしには知りえないあなたの生そのものに刻まれた条件あなたとわたしがけっして交わることのない位置で神は厳しく打ちすえ、慰め、そしてあなたとわたしがけっして交換不能なその位置で神はさらにわたしに一筋の果てないどこへつづくとも知れない道を与えたもう。あなたにも。それを甘受するもまた呪うもあなたとわたしにはもはや何の関連性をももたない。それが位置というものだそれが生きるということであり断念の連続のなかにわたしがわたし自身でしかありえない生を刻んでゆくということなのだ-『- 生 - 石原吉郎氏に捧ぐオマージュ2』8月18日 闘病の床にて。
『- 私信 - 閉鎖病棟の一室にて』- 詩・いえす雑踏に拡散していくかに見えし刹那にあらわれたひとかぶの切株それはさだめのあらゆる側面を瑠璃色に照射し続けるヤハウェの妙光永遠へのまちがいのような道程を不安に震えつつ待ち望む個を導く一頭の驢馬地平線ぎりぎりの薄明を曲がりうねりながらなお虚空に透けた半身を浮かべ逍遥するものに新しい臨終の予兆を告知するたしかに一種のまばゆさをまとってきょうはやってくるしかしわたしよ忘れてはならぬ陽光の裏側に待ちかまえるはるかな危うさを。きのうのかすかな希みはもはや錆びついた使徒の軌跡にひとしいそれよりもわたしよ確かな私信を受けとめよそして覚えるがいいあしたはいつ訪れるか知れない最終列車であることを。おまえはひとたび手にした主観的な片道切符のインクの匂いに安堵してはならぬ安堵してはならぬと。いえす『- 私信 - 閉鎖病棟の一室にて』9月3日 闘病の床にて。