水の章〔6〕公平な取引 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「海賊! 戦いをやめて! 提案がある!」

 ピヨモンの言葉に、マーメイモンはジオグレイモンを抑え込む手を緩めた。

 とは言え、辛うじてジオグレイモンの鼻が水面に出るかどうかという程度。マーメイモンが少しでも力を込めれば、また呼吸のできない水中に引きずり込める。

 一方、ガワッパモンは叫んだピヨモンの翼をつかみあげた。

「さっきまでおれ達をからかってた癖に、今さら命乞いか?」

「違う! 商売をやってるデジモンとして、あなた達にも、私達にも得になる提案があるの」

 ピヨモンはまっすぐにマーメイモンを見つめてきた。その目つきは、先程までの海賊をあざ笑う目と違い、真剣だった。

 マーメイモンは同じように真剣に見つめ返した。

「一応聞いてやるよ」

 ピヨモンは、つかまれていない方の翼でマーメイモンを指した。

「その、毛先についている飾り。ルビーじゃない?」

 マーメイモンは自分の三つ編みの毛先に目をやった。

 そこには、大ぶりなガラス石のついた髪ゴムがついている。ガニモンが赤石谷で採ってきたガラス石で作ってくれたものだ。

「何だ、そのるびいってのは」

 ガワッパモンの問いに、ピヨモンは「やっぱ知らないんだ」とつぶやいた。

「それ、この辺りではほとんど採れない鉱物なの。その上人気があるから、すごく高いお金で売れる」

 マーメイモンの目が髪ゴムとピヨモンの間を忙しく動いた。

「そんなことあるもんか。あたしらが取引してるデジモンは、この石のことたった5ビットだって言ってたぞ」

 マーメイモンの言葉に、ピヨモンは呆れたように目を細めた。

「うわ、最低。どうせ、他に誰もいないような場所で商売やってる密売屋でしょ? あなた達が何も知らないのをいいことに、買い叩いてたのね」

 その言葉に、マーメイモンは考え込んだ。

 錨で抑え込んでいたジオグレイモンを放す。

 ジオグレイモンは残った体力でどうにか砂浜に上がると、その場に倒れこんだ。体力の限界なのか、その体にデジコードが浮かぶ。

 マーメイモンはそれを無視して、ピヨモンに歩み寄った。

 髪ゴムを毛先から外し、ピヨモンの顔面に突き出す。

「今の話が本当だとして、あんたはこれをいくらで買ってくれるんだい?」

 ピヨモンは赤い鉱石をじっと見つめた。

 見積もりを終えて、マーメイモンに視線を移す。

「最低でも2万ビット」

「に……まん?」

 マーメイモンは瞬きした。聞いたことのない数字だ。きっと、千より大きいのだろう。

 反応が鈍いのを察して、ピヨモンが言い直す。

「千が10個集まると万だよ。その石1個で、100ビット銅貨200枚になるって言った方が分かりやすいかな」

「銅貨200枚ももらえるのか!?」

 マーメイモンもガワッパモンも開いた口が塞がらなくなった。

 密売屋では、盗品を全部売っても銅貨40枚程度。

 それが、近所で採れるこんな石1個で200枚もくれると言う。

 ガワッパモンがピヨモンを揺すった。

「おい、命が惜しいから適当なこと言ってるんじゃないだろうな」

 ピヨモンは顔をしかめた。

「さっきも言ったけど、私はいざという時の捨て駒なの。ここで死んでも仕方がないと思ってる。でも、隊商の得になる取引ができるのなら別。そのルビーを私達に売ってくれたら、あなた達は暮らしが楽になるし、海賊行為をしなくてもよくなる。私達はルビーを売って儲けられるし、海賊に襲われるリスクが減る。お互いにとって、すごいチャンスなの」

「命より金儲けか。ほんと、気に食わない奴」

 マーメイモンは、そう言いながらにやりと笑った。

「でも、あんたの言うことは少しだけ信じる価値がある」

 ガワッパモンに合図すると、ガワッパモンはピヨモンをそっと砂浜に放した。

 マーメイモンが、ピヨモンに髪ゴムを手渡した。

「これと引き換えに銅貨200枚を持っておいで。そうしたら、あんたの言うことを信じてやる」

 マーメイモンは横目でジオグレイモンを見る。ジオグレイモンの体からはデジコードが消えたが、激しく咳きこんでおり、すぐには動けそうにない。

「あのリュウ型デジモンは捕虜として預かる。3日以内にあんたが戻ってこなければ殺す」

「分かった」

 ピヨモンは髪ゴムを握ってうなずいた。

 それから、少し迷ってから言葉を続ける。

「ジオグレイモンを捕虜にするなら、手当てしてやって。その、3日以内に死んだら取引に支障が出るから」

「いいだろう」

「あと……あの図体だから結構大飯食らいなの。あなた達の食料も少ないだろうけど、死なない程度に食べさせてあげて」

 マーメイモンは一瞬答えに詰まった。貴重な食料を消費するのは嫌だ。死なない程度と言っても、うちのイッカクモンくらいは食べるだろう。

 食料の消費量を考えるのなら、ピヨモンを捕虜にした方がましだ。だが、取引を隊商に持ちかけられるのもピヨモンだけだ。

「……いいだろう。あいつに、死なない程度に食べさせる」

 結局、絞り出すような声で了承した。

 

 

 

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1月以来10か月ぶりの更新……。本当に、遅々としていて申し訳ないです。

久しぶり過ぎて伏線なんて忘れ去られていそうなので、ここで供養。

①この地域において、ルビーは生産量が少なく、高額で取引されている(「風の章〔5〕卸しと仕入れ」より)

②マーメイモン達は近所の赤石谷でよく見つかる「赤いガラス石」を拾い、密売屋に安価で売っていた(「水の章〔2〕忘れられた村の隠された取引」より)

③マーメイモンは「赤いガラス石」のついた髪ゴムをつけて行動していた(「水の章〔2〕忘れられた村の隠された取引」より)

マーメイモン達はルビーの市場価値を知らないので、2万ビットもするルビーを5ビットのガラス石として売ってしまってたわけです。要するに、フェアトレードって大事だよね、って話です。