ツチダルモン隊長の判断で、ジオグレイモンは丘の町に入れないことになった。
広場での騒ぎを見ていたデジモンは多く、ジオグレイモンが危険にさらされる可能性が高い。
というわけで、ジオグレイモンは隊商のキャンプの見張りに就いた。
その間、ピヨモンは単独行動。馴染みの店に納品に行くことになった。
丁寧に商品を詰めたリュックサックを背負う。自分の半分くらいある荷物が体にのしかかる。
同年代のデジモンならこれくらいの荷物も軽く担げるのだろう。ピヨモンの中でも小柄な体は、荷運びには不向きだ。
荷車を悠々と引くグリズモンを横目に、ピヨモンは馴染みの店へと歩き出す。
そこは、赤レンガで作られた建物だった。戸を押すと、ベルが耳触りの良い音を立てて、来客を告げた。
内装もまた、全て赤で統一されていた。レンガの壁床はもちろんのこと、カーテンも、棚も全て赤い。それが揺れるランプの明かりに照らされ、来客は全体が燃えているかのような錯覚を覚える。
家の主も、赤い服に赤い三角帽という服装。この奇抜な趣味が、「赤い魔女の店」と呼ばれるゆえんだった。本当の名前は「薬師ウィッチモンの爽健亭」と言うのだが、誰もその名で呼ばない。
店主のウィッチモンは、入ってきたピヨモンを見て目を輝かせた。
「久しぶりだね、チビちゃん! 三か月ぶりかな?」
「お久しぶりです! ウィッチモンさんも元気そうで」
答えながら、ピヨモンはリュックサックを下ろした。
ピヨモンが机に商品を並べている間に、ウィッチモンは台所からお茶とお菓子を持ってきた。フルーツフレーバーの香りが部屋に広がる。
向かい合わせに座り、フルーツティーをいただく。
一服したところで、商品の説明に入った。
「こちらが、いつも頼まれてるハーブ一式。それから、海辺の町で小粒のルビーが一粒、手に入ったのでいかがでしょうか」
「へえ、これが」
ウィッチモンはルビーをつまんで、透かし見た。その輝きに、興味深そうに眼を細める。
「私がこないだ言ったこと、覚えてたんだ」
「はい。ルビーという赤い宝石があるらしいから、買えるなら買いたい、と」
ウィッチモンは様々な角度でルビーを見た後、ピヨモンに視線を戻した。
「で、あなたはいくらの値をつけるの?」
ピヨモンは一度息を吸って、答える。
「三千ビット」
ウィッチモンはひゅっと口笛を吹いた。
「チビちゃん、強気だね」
「この大陸では、鉱物は希少ですから」
デジタルワールドで、鉱物が豊富に手に入る場所は限られている。鋼鉄砂漠を擁する、ハテノ大陸だけだ。
それ以外の土地では、鉱物は輸入に頼らざるを得ず、値段は跳ね上がる。
「二千五百にまけられない?」
「お得意様なので、二千八百なら」
ピヨモンの返答に、ウィッチモンは不機嫌になるどころか、楽しそうにハーブティーをすすった。
「いいねえ、可愛いふりしてこういうところあるから、チビちゃんのこと好きだよ」
「そうやって褒めてくれるウィッチモンさんのこと、好きです」
ピヨモンはにっこり笑って答えた。
それじゃあ、とウィッチモンが身を乗り出した。
「チビちゃんが聞いたら喜びそうな話を、二つ聞かせてあげよう」
「あ、それは聞きたいです」
ピヨモンも身を乗り出した。
ウィッチモンが長い指を一本伸ばした。
「一つ目。こないだ草原の町で、ヒューマンデジモンの指導者グレイドモンが死んだのは知ってるだろ。それを聞いて、ビーストデジモンが色めき立っている」
「うんうん、それで?」
「ガルダモンはこれを機に反撃に出ようとしているみたいだね。物資を買い込む動きがみられる――っていうのが、西から来たデジモンの話だ。最も、具体的な動きに出るまでは、まだ時間がかかりそうだけど」
ピヨモンは何度か頷いて、情報を頭に入れた。 ビーストデジモンの勢力は大きいし、指導者の指示が末端に下りるまでは時間がかかるだろう。
ウィッチモンがもう一本指を立てた。
「二つ目。この近くに、新しく菓子屋ができたよ。このクッキーも、その店で買って来たんだけど」
言いながら、皿のクッキーを手に取る。
「どうも、その店主がきな臭い奴らと通じているらしい。出入りしている奴らが堅気に見えないんだ。ただ、向こうも注意深く動いてて、私も確信までは持ててない」
そこまで言ったところで、ウィッチモンは意味ありげな視線をピヨモンに向けた。
「ここまで言えば、あとはチビちゃんひとりでやれるだろ?」
「ちょうど隊商へのおみやげが欲しいなって思ってたところです」
ピヨモンはクッキーをかじりながら笑顔を見せた。
「じゃあ、ルビーは二千六百にします」
「はいよ。ハーブの分も入れとくよ」
ウィッチモンから渡されたお金をしまって、ピヨモンは平たくなったリュックサックを背負った。
「それじゃ、また来ます」
「ああ、元気で」
ウィッチモンに見送られて、ピヨモンは店から出る。
そして、教えてもらった菓子屋へと足を向けた。
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ジオグレイモンが実質謹慎を食らったところで、ピヨモン単独行動です。
ピヨモンの隊商での立ち位置というか、役割の話になります。ただの無邪気なチビちゃんじゃないんだぜ。
菓子屋の話まで書こうと思ってたのに、長くなった……。というわけで、次回もピヨモンの単独パートです。