風の章〔5〕卸しと仕入れ | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 ツチダルモン隊長の判断で、ジオグレイモンは丘の町に入れないことになった。

 広場での騒ぎを見ていたデジモンは多く、ジオグレイモンが危険にさらされる可能性が高い。

 というわけで、ジオグレイモンは隊商のキャンプの見張りに就いた。

 その間、ピヨモンは単独行動。馴染みの店に納品に行くことになった。

 丁寧に商品を詰めたリュックサックを背負う。自分の半分くらいある荷物が体にのしかかる。

 同年代のデジモンならこれくらいの荷物も軽く担げるのだろう。ピヨモンの中でも小柄な体は、荷運びには不向きだ。

 荷車を悠々と引くグリズモンを横目に、ピヨモンは馴染みの店へと歩き出す。

 

 

 

 そこは、赤レンガで作られた建物だった。戸を押すと、ベルが耳触りの良い音を立てて、来客を告げた。

 内装もまた、全て赤で統一されていた。レンガの壁床はもちろんのこと、カーテンも、棚も全て赤い。それが揺れるランプの明かりに照らされ、来客は全体が燃えているかのような錯覚を覚える。

 家の主も、赤い服に赤い三角帽という服装。この奇抜な趣味が、「赤い魔女の店」と呼ばれるゆえんだった。本当の名前は「薬師ウィッチモンの爽健亭」と言うのだが、誰もその名で呼ばない。

 店主のウィッチモンは、入ってきたピヨモンを見て目を輝かせた。

「久しぶりだね、チビちゃん! 三か月ぶりかな?」

「お久しぶりです! ウィッチモンさんも元気そうで」

 答えながら、ピヨモンはリュックサックを下ろした。

 ピヨモンが机に商品を並べている間に、ウィッチモンは台所からお茶とお菓子を持ってきた。フルーツフレーバーの香りが部屋に広がる。

 向かい合わせに座り、フルーツティーをいただく。

 一服したところで、商品の説明に入った。

「こちらが、いつも頼まれてるハーブ一式。それから、海辺の町で小粒のルビーが一粒、手に入ったのでいかがでしょうか」

「へえ、これが」

 ウィッチモンはルビーをつまんで、透かし見た。その輝きに、興味深そうに眼を細める。

「私がこないだ言ったこと、覚えてたんだ」

「はい。ルビーという赤い宝石があるらしいから、買えるなら買いたい、と」

 ウィッチモンは様々な角度でルビーを見た後、ピヨモンに視線を戻した。

「で、あなたはいくらの値をつけるの?」

 ピヨモンは一度息を吸って、答える。

「三千ビット」

 ウィッチモンはひゅっと口笛を吹いた。

「チビちゃん、強気だね」

「この大陸では、鉱物は希少ですから」

 デジタルワールドで、鉱物が豊富に手に入る場所は限られている。鋼鉄砂漠を擁する、ハテノ大陸だけだ。

 それ以外の土地では、鉱物は輸入に頼らざるを得ず、値段は跳ね上がる。

「二千五百にまけられない?」

「お得意様なので、二千八百なら」

 ピヨモンの返答に、ウィッチモンは不機嫌になるどころか、楽しそうにハーブティーをすすった。

「いいねえ、可愛いふりしてこういうところあるから、チビちゃんのこと好きだよ」

「そうやって褒めてくれるウィッチモンさんのこと、好きです」

 ピヨモンはにっこり笑って答えた。

 それじゃあ、とウィッチモンが身を乗り出した。

「チビちゃんが聞いたら喜びそうな話を、二つ聞かせてあげよう」

「あ、それは聞きたいです」

 ピヨモンも身を乗り出した。

 ウィッチモンが長い指を一本伸ばした。

「一つ目。こないだ草原の町で、ヒューマンデジモンの指導者グレイドモンが死んだのは知ってるだろ。それを聞いて、ビーストデジモンが色めき立っている」

「うんうん、それで?」

「ガルダモンはこれを機に反撃に出ようとしているみたいだね。物資を買い込む動きがみられる――っていうのが、西から来たデジモンの話だ。最も、具体的な動きに出るまでは、まだ時間がかかりそうだけど」

 ピヨモンは何度か頷いて、情報を頭に入れた。 ビーストデジモンの勢力は大きいし、指導者の指示が末端に下りるまでは時間がかかるだろう。

 ウィッチモンがもう一本指を立てた。

「二つ目。この近くに、新しく菓子屋ができたよ。このクッキーも、その店で買って来たんだけど」

 言いながら、皿のクッキーを手に取る。

「どうも、その店主がきな臭い奴らと通じているらしい。出入りしている奴らが堅気に見えないんだ。ただ、向こうも注意深く動いてて、私も確信までは持ててない」

 そこまで言ったところで、ウィッチモンは意味ありげな視線をピヨモンに向けた。

「ここまで言えば、あとはチビちゃんひとりでやれるだろ?」

「ちょうど隊商へのおみやげが欲しいなって思ってたところです」

 ピヨモンはクッキーをかじりながら笑顔を見せた。

「じゃあ、ルビーは二千六百にします」

「はいよ。ハーブの分も入れとくよ」

 ウィッチモンから渡されたお金をしまって、ピヨモンは平たくなったリュックサックを背負った。

「それじゃ、また来ます」

「ああ、元気で」

 ウィッチモンに見送られて、ピヨモンは店から出る。

 そして、教えてもらった菓子屋へと足を向けた。

 

 

 

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ジオグレイモンが実質謹慎を食らったところで、ピヨモン単独行動です。

ピヨモンの隊商での立ち位置というか、役割の話になります。ただの無邪気なチビちゃんじゃないんだぜ。

菓子屋の話まで書こうと思ってたのに、長くなった……。というわけで、次回もピヨモンの単独パートです。