草原の町を全滅させてから、ガルルモンは少年王と一度も話していない。それどころか、間近で姿を見ることもなかった。
それでいて、ガルルモンへのいたずらは過激になった。
ガルルモンが城の廊下を歩いていると、反対側からララモンが飛んできた。
ララモンはガルルモンを見つけて「あっ」と声を上げた。ガルルモンが足を止める。
「ララモン様、俺に何か?」
「ううん、別に」
ガルルモンが聞くと、ララモンはそう答えながらも、何か迷っているような表情を見せた。自分が来た方向を、そっと振り返る。
ララモンの様子に、ガルルモンはおおよその事態を察した。
ララモンが不安そうに見守る中、ガルルモンは周囲に注意を払いながら歩きだす。
窓と窓の間、他に比べてやや暗い場所。その床に、何か光るものが落ちている。
ガラスの破片だ。気づかずに踏んでいたら、足の裏が悲惨なことになっていただろう。
ララモンが寄ってきて、一生懸命に訴える。
「ボクは危ないからやめようって言ったんだ。でも殿下が」
「心配しなくても、怒りませんよ」
ガルルモンは静かに答えた。
ララモンはいたずら好きだが、デジモンを傷つけるようないたずらはしない。
それは、少年王も同じだったはずなのだが。ガルルモンは小さく嘆息する。
通りかかった掃除係を呼び止めて、ガラスの破片を片付けるように言いつける。
それから、改めてララモンに向き直る。
「殿下はどこに?」
「この後は、テラスでケンタルモンの授業を受けるはずだけど」
「では、一緒に行きましょう」
ララモンの先導で、ふたりはテラスに向かった。
テラスでは、ケンタルモンが浮かない顔で待っていた。
「ケンタルモン様、殿下を探しているのですが」
ガルルモンが聞くと、ケンタルモンはため息をついた。
「私もです。ここ最近、殿下は授業を欠席してばかり。探しても逃げ回ってしまって、話もろくにできないのです」
「ケンタルモン様でさえ、お話ししていないのですか……」
ガルルモンだけならまだしも、教育係のケンタルモンとすら関わりを断っているとは。
少年王の心持ちは、ガルルモンが思っているよりも深刻のようだ。
ケンタルモンが口を開く。
「ガルルモン、よろしければ貴方が殿下と話してくださいませんか」
「俺が」
ガルルモンは内心尻込みした。
少年王に随行せず、手を汚させた自分に、今さら何ができるというのだろう。
ガルルモンの心境を知らずに、ケンタルモンは言葉を続ける。
「貴方が相手ならば、殿下も遠慮なく何かを話せるかもしれません」
遠慮なく。
自分も少年王に対して遠慮していたのかもしれない、とガルルモンは思った。
少年王に手を汚させたという自責の念が、少年王から距離を取る原因になっていたのではないか。
ガルルモン自身も、草原の町の一件に向き合う時が来たのか。
ガルルモンは腹をくくった。
力強く顔を上げて、答える。
「分かりました。殿下を探して話してみます」
少年王にどんな言葉をぶつけられても、自分にはそれを受け止める義務がある。
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2020年最初の小説更新。改めまして、今年もよろしくお願いします。
1000字程度と短くなってしまいましたが、この後のガルルモンとルーチェモンの会話が丸っと1話分かかりそうなので、ふたりの会話を1話にまとめるためにここで切ります。
本当は、今回の話とふたりの会話で1話になる予定だったのですが、星流のいつもの長くなる病が発症しまして(汗)
これだけ書いていて、いまだに執筆した時の文章量が予測できないとなると、もう一生予測できない気がします(泣)
余談ですが、アイコンとヘッダーを変え(て)ました。
アイコンは星流の特撮オタクの相棒が作ってくれたものです(感謝!)。
これをアイコンにするのに伴い、アイコンで使っていた十闘士の紋様とドット絵をヘッダーに移しました。