炎の章 〔3〕大粛清の町の生き残り | 星流の二番目のたな

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 カーブを曲がると、枯れた用水路から地上に上がる坂が見えた。

 ジオグレイモンは表情を明るくして、横を歩くグルルモンの肩を叩く。

「あと少しで町の外だぞ」

 グルルモンが顔を上げ、足を早める。

 後ろを振り返ると、ティラノモンともう一体のグルルモンも急ぎ足でやってくるのが見えた。

 自分の横で、グルルモンが足を滑らせる。ジオグレイモンはとっさにその肩を支えた。

「大丈夫か?」

 ジオグレイモンが聞くと、グルルモンは恥ずかしそうに小さく笑みを見せた。

 

 

 ジオグレイモンの記憶は、そこで途切れている。

 

 

 

 気づいた時には、ジオグレイモンは地面にうつぶせに倒れていた。身に覚えのない傷が、体のあちこちでしくしく痛みを発している。

 何が起きたんだ。

 体を動かそうとして、背中に重みを感じた。

 背中に何かがのしかかっている。 

 両手を地面に付き、精一杯の力で体を起こす。全身についた傷が一斉に悲鳴を上げる。

 背中に乗っていたものが、ゴロリと転がり落ちる。

 それは、ついさっきまで隣を歩いていたグルルモンだった。その四肢に力はなく、胴には銀色のデジコードが浮かんでいる。

 唖然とするジオグレイモンの前で、グルルモンの体はデジコードに包まれ、デジタマになって天へと飛び去った。

 町中が炎を上げ、デジコードが千切れ飛んでいく。デジモンの悲鳴と、家の崩れる音ばかりが聞こえる。

 誰かがジオグレイモンの足を叩いた。見ると、もう一体のグルルモンが焦った表情でジオグレイモンを見上げている。

 目が合うとすぐに、グルルモンは用水路の奥へと駆け出した。ジオグレイモンが後を追う。

「! ティラノモン!」

 ティラノモンがあお向けに倒れている。誰かの攻撃を受けたのか、右足の一部と右腕がデジコード化している。

「しっかりしろ!」

 ティラノモンがうなされているような声を上げる。

「グルルモン、運ぶのを手伝ってくれ」

 ふたりでティラノモンを担ぎ、町の外へと運び出す。

 どうしてこんな事態になっているのか分からない。ただ、目の前の命を助けることに必死だった。

 草原にティラノモンを下ろしたところで、ジオグレイモンは町を振り返った。

 草原の町は赤い炎を上げ、太陽よりも強烈な光を放っていた。炎の中から純白のデジタマが浮き上がり、次々と天に飛んでいく。彩るように、銀色のデジコードが舞う。

 町の中心に一体のデジモンが羽ばたいているのを、確かに見た。

 六対十二枚の羽を背中にもつ、小柄な天使型デジモン。遠くて表情は分からない。それは中空に浮いたまま、ゆっくりと町を見回している、ように見えた。

 その姿を、炎とデジタマの光とデジコードの輝きが、不規則に照らし出す。

 神々しく、同時におぞましく思えた。

 ジオグレイモンは、それがこの惨劇の元凶だと直感した。

 自分の目で見たのは初めてだった。だが、その名前は知っている。

「少年王、ルーチェモン……」

 直後、その姿から巨大な音が響き渡った。

 絶叫にも、咆哮にも聞こえる声だった。

 そして、ルーチェモンは彼方へと飛び去った。

 

 

 これが、後に「大粛清」と呼ばれる事件である。

 犠牲となったデジモンは、二〇〇〇体以上といわれている。

 

 

 

―――

 

 

 

 それから三日間、ジオグレイモンは生き残ったデジモン達の救助に全力を尽くした。

 助け出せたのは、ジオグレイモン達のようにたまたま物陰や地下室にいたデジモン、四十体少々。

 そのうち十二体はケガが重く、数日後にデジタマへと還った。

 十七体は命は取り留めたものの、体に治らない傷を負った。親友のティラノモンも、その一体だった。

「ジオグレイモン!」

 呼ばれて振り返ると、ティラノモンがゆっくりと歩いてくるところだった。右足を引きずっており、右ひじから先はなくなっている。横にはグルルモンがいて、時々ティラノモンがよろめくのを支えている。

「モノクロモンが子ども達を全員連れて出発したよ」

「そうか。これで、後は俺達だけだな」

 ジオグレイモンはつぶやいて、草原の町に目を向けた。

 残っているのは、えぐれた地面と建物の焼け跡だけだ。中心部に至っては、地面も建物もデジコードになって散り、底の見えない大きな穴が開いている。とても再興できるような状態ではなく、生き残ったデジモン達は新しい住み家を求めて散り散りになっていった。

 何故この町が滅ぼされたのか、理由はいまだに分からない。

 ただ、この事件によって、グルルモンを逃がした罪はうやむやになった。グルルモンの持ち主も、御者のエンジェモンも、町長のスターモンも、全員死んだからだ。

 ジオグレイモンの心は全く晴れなかった。自分の正義感では、グルルモンやティラノモンを救うのが精いっぱいだった。強大な力に打ちのめされて、自分の育った町が滅びていくのを、ただ見ていることしかできなかった。

 警備隊員が聞いてあきれる。こんな無意味な暴力から町を守れなくてどうするんだ。

 じっと町の跡を見つめるジオグレイモンに、ティラノモンが努めて明るい声をかける。

「なあ、ジオグレイモンはこれからどうするんだ?」

 話しかけられて、ジオグレイモンはティラノモンに向き直った。

「ああ……隊商が護衛として雇ってくれたんだ。前の護衛が今回の件で死んだらしくて。だから、それにくっついて内陸の方に行くよ」

 振り返ると、隊商が出発の準備をしているのが見える。五十体近くいる、中規模の隊商だ。事件の時、町の外に野営していたおかげで助かったらしい。

 ティラノモンもそれを見て、なら生活は安心だな、とつぶやいた。

「お前こそ、これからどうするんだ。その……」

 そんな体で、とは言えなかった。

 ティラノモンは気丈に笑った。

「海辺の町に、昔世話になったデジモンが住んでるんだ。そこを頼ってみる。ケモノの多い町だから、グルルモンも連れていく。きっと良くしてくれるよ」

 グルルモンはジオグレイモンに鼻面を寄せた。お礼のつもりか、別れを惜しんでいるのか。

「そうか。じゃあ……ここでさよならだな」

 ジオグレイモンが言うと、しんみりした空気が流れた。つい一週間前まで、二体でのんびりと門番をしていたはずなのに。こんな風に別れるなんて、想像もしていなかった。

 ティラノモンが先に口を開く。

「まあ、なんだ。お前の隊商が海辺の町に来ることがあったら、顔出してくれよ。旅の土産話、いっぱい用意してきてくれ」

「分かった。お前も、俺に一杯おごるくらいはしてくれよ」

「おう」

 それじゃ。どちらからともなく言って、反対の方へと歩き出した。

 

 こうして、ジオグレイモンは故郷の町を旅だった。

 胸には、少年王に対する怒りと、自分の無力さに対する悔しさがくすぶっていた。それが闘志の炎となって燃えるのは、もう少し後の話だ。

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

というわけで、星流の書く古代十闘士の歴史では欠かせない事件、「大粛清」です。

フロ02の第167話申年のお正月小説で話題に上がっていた事件ですね。

今回は事件直後の被害者達に焦点を当てた話でしたが、ルーチェモン陣営はもちろん、社会に与えた影響も今後書いていくつもりです。

 

ティラノモンは、死亡ルートも考えたのですが、結局生き残りました。またどこかで出てくる、と思います。でもまあ、五体満足で生き延びると大粛清の恐ろしさが伝わらないので、はい。こうなりました。

 

ここで炎の章は小休止。次は別の闘士の話を書きますよっ。

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