お正月特別編 二百年の彼方 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

みなさま、あけましておめでとうございます! 今年も星流と「デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~」と「デジモンユナイト」をよろしくお願いいたします。


さて、毎年恒例のお正月小説をUPします。初めて元日に間に合いました(泣)


信也「そして二度と間に合うことはない、と」


……正月からうちの主人公がひどい……(泣)


こほん、気を取り直して。

毎年お正月小説はギャグなのですが、今回は割とシリアスです。どうしても書きたい番外編があったので。

猿デジモンである必要性皆無の話になってしまいましたが、ご容赦ください。

それではどうぞ。




―――




 十闘士がディノビーモンを討った。その知らせは瞬く間に反乱軍陣営に駆け巡った。

 でもボクには、喜んでいる暇なんてなかった。

「ゴツモン、今助けてあげるから! カメモン、返事してよ!」

 積み上がったがれきを必死にどけながら、ボクは幼なじみ達に呼びかけた。周りのデジモンはまだ戦いの最中で、ボクを手伝う余裕はない。

「町を出る時に約束したよね! 三人で、みんなのカタキを討つんだ、って……」

 ボクの手から、がれきがゴロリと落ちた。

 そこにあったのは、二つのデジタマだった。




 城の主だったディノビーモンがいなくなり、ルーチェモン側の兵士達は降伏するか、光の城の方に逃げていった。この永遠の城は反乱軍に明け渡された。

 城の前や中庭は勝利を祝うデジモン達に埋め尽くされていた。夜はたき火と歓声にいろどられて、しばらく落ち着きそうにない。

 ボクは二つのデジタマを抱えて、中庭近くの廊下に座っていた。勝てたのは嬉しいけど、一緒に盛り上がる気分にはなれなかった。食べ物も食べる気分になれない。デジタマを強く抱き寄せる。

「となり、いいか?」

 急に声をかけられて、ボクは顔を上げた。白いかぶとがボクをのぞき込んでいる。

「エンシェントグレイモン」

 反乱軍を率いる十人の闘士の一人。究極ともいわれる進化を果たした方達。尊敬の念を込めて、エンシェント――長老、指導者を表す称号で呼ばれている。

 遠くから姿を見てはいたけど、直接話しかけられたのは初めてだ。

 驚いて返事のできないボクの横に、エンシェントグレイモンは無造作に伏せた。四足の体にまとった赤い鎧が、がちゃがちゃと音を立てる。

「最前線の陣営に、コエモン、お前のような幼いデジモンが加わっていたとは知らなかった」

 ボクは黙ってデジタマを抱きしめる。エンシェントグレイモンの目がデジタマに向いた。

「戦友か」

「親友です」

 ボクは小さな声で答えた。

「ボク達は同じ町で育ったんです。でも、六年ちょっと前に、町はルーチェモンに焼き尽くされて」

「大粛清……そうか、あの時の生き残りか」

 エンシェントグレイモンは悲しそうな目をボクに向けた。ボクの住んでいた町は、たったひとりの手で滅ぼされた。理由は今も分からない。ただ、ルーチェモンが空から放った光はデジモンごと町を蒸発させた。デジタマになれなかった住人さえいた。

 ボク達は、偶然あの日地下室で遊んでいて助かった。

 地上の残骸の向こうに見えた、犯人の黒々とした影を、ボクは一生忘れない。誓ったんだ。絶対に三人でカタキを討つんだって。

 なのに。ボクの目から涙がこぼれる。

 デジタマは、普通ならすぐに始まりの町に旅立つ。だけど、思い残していることがあるとその場に残る。ゴツモンとカメモンも、死にきれないからここにいる。

「エンシェントグレイモン」

 別の声が近づいてきた。白い鎧に身を包んだ大柄の剣士。エンシェントガルルモンだ。

「今回の戦いの立て役者が見当たらないっていうんで探されてたぞ」

「俺はディノビーモンを追い詰めただけだ。とどめを刺したのはエンシェントボルケーモンだろう」

「あいにく、奴はここの貯蔵庫で酒を見つけてしまった」

 エンシェントガルルモンの言葉に、炎の闘士はあからさまに呆れ顔をした。

「それでは誰も近づかないな」

「エンシェントメガテリウモンが相手をさせられてるよ」

 光の闘士はやれやれと首を横に振った。土の闘士の酒癖の悪さは、ボクのような下っ端のデジモンにも知れ渡っている。

 エンシェントガルルモンの目がボクに向いた。

「そいつは?」

「今日の戦いで親友を二人失ったそうだ」

 炎の闘士の説明に、エンシェントガルルモンが目を細めた。鋭い視線がボクを突く。

「カタキ討ちか正義感かは知らないが、無謀な真似をした結果だな」

 ボクはびくりと肩をすくめた。反乱軍に加わる時も、無謀だと言われた。

「で、でも、どうしても自分達の手でルーチェモンを倒したかったから」

「こいつの気持ちは買ってやれよ」

 エンシェントグレイモンがやんわりとボクに味方してくれる。エンシェントガルルモンは鼻を鳴らした。

「ふん。気持ちでルーチェモンに勝てるのなら苦労しないさ」

「そんな言い方ないだろ! コエモンは今、傷ついてるんだ」

 炎の闘士がかっとなって立ち上がった。二人がにらみあう。その視線だけで、横にいるボクは体が縮みあがった。

「エンシェントグレイモン。お前も分かっているはずだ。コエモンの実力じゃとても最前線では戦えない。二三日中には光の城を攻めるんだ。こいつじゃあっという間に親友と同じ目に遭う」

「でもボク、何もしないでいるのは嫌なんです!」

 怖かったけど、ボクは思い切って声を出した。言われっぱなしは悔しいから。

 エンシェントガルルモンがボクをにらむ。僕はデジタマを両脇に抱えて、精一杯にらみ返した。弱くたって、動かずにはいられなかったんだ。たとえ十闘士相手だからって、ボクや親友を馬鹿にされてたまるか。

 その間に、エンシェントグレイモンが割って入った。

「分かった分かった。つまり、コエモンを戦場に出さずに何か役に立つことをさせればいいんだろ」

 一呼吸置いて、言葉を続ける。

「こいつに山の鍵を託す」

「本気か?」

「試す価値はある」

 山の鍵?

 ボクが飲みこめないうちに、エンシェントガルルモンがうなずいた。話がまとまったみたいだ。

「コエモン、君に未来を託したい。ついてきなさい」

 エンシェントグレイモンが歩き出す。ボクが戸惑って光の闘士を見上げると、彼は肩をすくめて道を開けた。ボクは少し迷ってから、デジタマを抱えて後を追った。



 エンシェントグレイモンは大柄で歩幅も大きい。ボクは早足でついていく。

 宴会で盛り上がっている中庭を避けて、廊下を歩く。途中、傷病者の収容所を通った。戦いに勝ったといっても、ゴツモンやカメモンのように犠牲になったデジモンもいる。

 ベッドの間を歩くデジモンを見て、ボクははっとした。エンシェントイリスモンとエンシェントマーメイモンだ。寝ているデジモン一人ひとりに声をかけている。二人も今日の戦いで疲れているはずなのに。

「こっちだ」

 エンシェントグレイモンが立ち止まってボクを待っている。走って追いついた。

 客室の扉が一つ開いていた。炎の闘士が部屋の中をのぞきこむ。

「入っていいか?」

「君か。もちろんだ」

 中から返事が返ってきた。エンシェントグレイモンに続いて、ボクも部屋に入る。

 二体のデジモンが、床に食べ物を広げていた。

 一体はエンシェントビートモン。カブテリモンのような上半身とクワガーモンのような下半身のデジモンだ。この部屋のイスは小さすぎるのか、床に直接座っている。

 もう一体はエンシェントワイズモン。体は一枚の長い鏡になっていて、緑のローブを羽織っている。あまり人前に出てこない十闘士だ。雷の闘士につきあって床にちんまり座っている。

 エンシェントワイズモンとボクの目が合った。相手がびくっとした。ひょっとして、ボクを怖がってるのかな。

 エンシェントワイズモンが炎の闘士に体を向けた。長い鏡に文字が浮かび上がる。ボクは字が読めない。困るボクの横で、エンシェントグレイモンが小さく笑った。

「ああ、こいつはコエモンだ。こいつに、あのデジメンタルを託そうと思ってな。コエモン、エンシェントワイズモンは滅多に口をきかないんだ。気にしないでくれ」

「あ、はい」

 十闘士も色んな性格のデジモンがいるんだな、とこっそり思う。

 炎の闘士がエンシェントビートモンに顔を向けた。

「木の闘士を探しているんだが、どこにいるか知らないか?」

「エンシェントトロイアモンか。彼なら門の外だ。どうしても門をくぐれなかったから」

「そうか。ここの門は大きいからてっきり通れたと思ったんだが」

「たてがみの部分がつかえた」

 エンシェントトロイアモンは大きくて、ゴツモンの憧れの的だったけど。大きすぎて不便もあるみたいだ。

 ふと気づくと、エンシェントワイズモンがボクを見つめていた。正確には、ボクの抱えている二つのデジタマを見ている。

「あの、何か?」

 ボクが聞くと、鋼の闘士はまた鏡に文字を映した。ボクが首を横に振ると、困ったようにエンシェントビートモンを見る。エンシェントビートモンが文字に目を通して、ボクを見る。

「そのデジタマを貸してくれないか、と言っている」

「え、いや、これは」

 ボクはデジタマを抱えて一歩後ずさった。

 エンシェントワイズモンが困ったように体を揺らして、もう一度雷の闘士に向けて文字を出す。

「そのデジタマは、未来で十闘士を継ぐ者にに関わる可能性が高い。詳しく見てみたい、と言っている」

 またエンシェントビートモンが代弁してくれた。本人は横で激しくうなずいている。

 ボクは両脇のデジタマを見下ろした。親友のデジタマが、今後十闘士に関わる?

「貸してやってくれないか。エンシェントワイズモンのいうことならまず間違いない。傷つけるような真似はしないから」

 エンシェントグレイモンからも言われる。

 ボクは黙って考えてから、デジタマを床に置いた。

「ありがとう。君が戻ってきたらお返しするよ」

 雷の闘士からお礼を言われた。ボクは思わず背筋が伸びて、「こちらこそありがとうございます」なんて変な返事をした。

「じゃあコエモン、エンシェントトロイアモンのところに行こう」

 炎の闘士に連れられて、ボクは部屋を出る。振り返ると、鋼の闘士がいそいそとデジタマに近づくのが見えた。



 門の外の広場は、中庭に負けない勢いで盛り上がっていた。ここにはボクが見上げなきゃならないほどの大きなデジモンが多い。きっと彼らには中庭は狭すぎるんだろう。

 そのデジモン達を更に見下ろすようにそびえているのがエンシェントトロイアモンだ。一歩歩くだけで民家をぺしゃんこにしてしまう、生きた要塞だ。

 ボク達が近寄ると、長い首が軽やかな機械音を立てて動いた。赤い目がボク達を見下ろす。

「エンシェントグレイモン。横ノ少年ハ一体?」

 妙にカクカクした声で木の闘士が聞いてくる。

「彼に聖なる山の鍵を託したいんだ。出してくれ」

 仲間の言葉に、エンシェントトロイアモンの目がボクに向いた。ボクは精一杯背伸びしてその顔を見上げた。巨大で表情のない彼は怖いけど、おびえていると思われたくなかった。炎の闘士がボクに何をさせたいのかは分からない。けれど、十闘士に期待されているならそれに応えたかった。

 赤い目が素早く点滅した。笑ったように見えた。

「イイダロウ」

 左前脚のつま先近くが両開きで開いた。隠し扉だ。中からデジタマくらいの丸いものが転がり出る。

 エンシェントグレイモンが近づき、前足の爪でつかんだ。途端にそれが黄色い光に包まれた。炎の闘士はボクのそばに戻ってきて、それを地面に置く。エンシェントグレイモンが離れると、光は消えた。

 ボクは置かれたそれを見下ろした。赤地に黄色い炎の模様がついている。形や大きさはデジタマに似ているけど、正面に刃物が一本、角のように生えている。

「これはまさか、デジメンタル、ですか?」

 デジモンを進化させる力を持つ道具、デジメンタル。普通なら進化は、長生きしたり戦いの経験を積んだりしないとできない。でも、この道具があればすぐに強くなることができる。山奥の工場村で作られる高級品だ。

 でも、ルーチェモンとの戦いのためにその全てが失われた。不利な戦いの中でデジメンタルは兵器として使われた。そして危険視された結果、製造元の工場ごと滅ぼされた。だから、今は一つも残っていないと思っていた。

「十闘士でも持っているのはこれだけだ」

「そんな大事なものを、どうしてボクに」

「説明ノ前ニ、資格ガアルカ確カメル。触レテミルンダ」

 エンシェントトロイアモンの声が降ってきた。感情がなくて、反論しても許してくれそうにない声だ。

 ボクは緊張しながらしゃがんで、デジメンタルに手を伸ばす。ゆっくりと両手でつかんだ。

 デジメンタルは赤い光に包まれた。

 ボクはそっと二人の闘士を見上げた。二人は黙ってボクを見ている。

「あの、これは……」

「合格だ」

「良カッタ。直前ニナッテ、ヨウヤク見ツカッタ」

 炎の闘士がほほえんだ。木の闘士の声もほっとしているように聞こえた。

 エンシェントグレイモンが真剣な顔に戻って、ボクを見た。

「これは聖なる山の鍵だ」

「聖なる、山? デジメンタルじゃないんですか?」

「正確には、最後に残ったデジメンタルに鍵としての仕組みを埋め込んである。最初から説明しよう」

 炎の闘士が語る。

「聖なる山というのは、南にあるデジメンタルの産地の跡だ。我々はその山の中に記憶の保管庫――アーカイブを密かに作った」

「鋼ノ闘士ノ能力ヲ一部切リ出シテナ。ソコニ行ケバ、コノ世界ト十闘士ノ辿ッテキタ歴史ヲ見ラレル」

「そのアーカイブに入るための鍵が、このデジメンタルですか?」

「ああ。だが特殊な処理をしたためにデジメンタルを扱えるデジモンが限られてしまった。鍵の役目に加えて、かなりの長命を得られるようにしてしまったから。それでずっと適正者を探していたんだ」

「じゃあ、今の赤い光が」

「その証だ」

「でも、ボクはそんなすごい場所の鍵なんて預かれるデジモンじゃありません!」

 ボクは必死に二人に訴えた。戦う力はないし、頭だってよくない。カタキ討ちがしたいって気持ちだけで戦場に飛び込んで、親友二人も死んでしまった。帰る町もないひとりぼっちだ。

 ボクが止めれば、二人はカタキ討ちをやめたかもしれない。そうしたら、戦いにくることもなかった。二人はボクが死なせたようなもんじゃないか。

 そんなボクに、十闘士からの頼まれごとなんてできるわけがない。

 涙目になったボクを、エンシェントグレイモンがまっすぐに見つめた。

「戦いの怖さを知っている君だから頼めるんだ。アーカイブは十闘士がいなくなった後、新たな戦いを防ぐためのものだ」

 十闘士がいなくなる? バカな。

 ボクの気持ちに気づいて、エンシェントグレイモンが顔を伏せた。

「最後ノ戦イハ激シサヲ極メル。我々モ無事デハ済マナイダロウ」

「そして、それでもルーチェモンは倒せない。封印するのが精いっぱいだ」

「そんな」

 十闘士なら、きっとルーチェモンを倒せると思っていたのに。だから信じてついてきてたのに。十闘士でもあいつを滅ぼせないなんて。ボクの足が震える。

 僕の肩に、炎の闘士が前足を乗せた。

「だからこそアーカイブを託したいんだ。遠い未来、ルーチェモンが復活するかもしれない。その頃には我々の戦いの詳細は忘れ去られ、ルーチェモンがまだ生きていることすら忘れられているだろう。その時のために、過去に何があったのか覚えているデジモンが必要だ。その時代に戦いを生まないように。再びルーチェモンとの戦いがあっても、その時の戦士の助けとなれるように」

 未来のためにできること。

 コエモンは悩みすぎるのが欠点だな。知識は行動に生かさなきゃ意味がないよ。ゴツモンならそう言う。

 コエモンのしたいことをすればいいんじゃない? カメモンならあくびをしながらそう言う。

 親友二人はこれから生まれ変わって、新しいデジモンとして生きていく。そして、十闘士を継ぐ者に出会う。戦いに巻き込まれることもあるだろう。来世でも同じ目にあわせたくない。そのためにできることが目の前にある。

 ボクはデジメンタルを握り、闘士二人を見上げた。

「分かりました。アーカイブはボクが守ります」



 デジメンタルを大事にかばんにしまって、一人で雷と鋼の闘士の部屋に戻った。

 開いた扉の向こうから早口が聞こえる。初めて聞く声だ。

「現在の技術では十闘士の力を二分割しないとデジモンに組み込めないけど、理論上は二つのスピリットを同時に組み込むこともできると思う。あたしはその形態にも仮称をつけてるんだ。炎の闘士にアルダモン、光の闘士はベオウルフモン――」

 中をのぞくと、エンシェントワイズモンが壁に向かって三角座りしていた。熱心に話している。

「おやコエモン、戻ったのか」

 エンシェントビートモンが中に手招きして、小声で話しかけてきた。楽しそうな声だ。

「エンシェントワイズモンとは長い付き合いだが、あんなによく話すのを見るのは始めてだ。聞き手が熱心だからだな、恐らく」

「聞き手って」

 ボクはエンシェントワイズモンの目の前を見直した。

 親友二人のデジタマが並んでいた。灰色のデジタマは鋼の闘士の方に傾いている。話に聞き入ってる時のゴツモンの癖だ。時々小さく揺れて頷いている。青い水玉のデジタマは横向きに転がっている。あれは間違いなくカメモンだ。難しくて長い話の時は、必ず寝る。

「本当は試験をしてから実用にしたいところだけど、時間の余裕もないから」

 鋼の闘士はそこまで話して、はっとボクを振り向いた。流れるようなおしゃべりが一瞬で止まった。

「あの、大丈夫です。気にせず続けてください。ゴツモンも楽しそうだし」

 ボクが言うと、エンシェントワイズモンは恥ずかしそうに顔を伏せた。鏡に文字が出てくる。

「自分のスピリット理論を熱心に聞いてくれるから、つい話し過ぎてしまった。一通りは話したからもういい、と言っている」

 仲間の代弁の後、エンシェントワイズモンはますます縮こまった。

 でもボクは安心した。デジタマになっても二人は二人なんだって思ったから。きっと生まれた後もこんな調子でやっていくんだろう。

 廊下から足音が聞こえた。見ると、暗い廊下から同じ黒色をした四足のデジモンが現れた。背中には金色の金属の羽がある。

 エンシェントスフィンクモンだ。十闘士として最前線に出る戦士であり。

「旅立とうとする者の気配を感じた」

 道に迷ったデジタマを始まりの町へ導く案内人でもある。

 ボクは自然と二つのデジタマに歩み寄っていた。デジタマを抱えて、闇の闘士の前に差し出す。

「二人をよろしくお願いします」

 腕の中のデジタマが温かい。

 気持ちの余裕ができて分かった。二人は残されたボクを心配して、そばにいてくれたんだ。

 もう大丈夫。ボクは新しい道を見つけられた。聖なる山で、デジメンタルの力で生きていく。遠い未来に記憶をつなぐために。


 エンシェントスフィンクモンに連れられて城の外に出る。宴会はいつの間にか終わって、しんと静まり返っている。空にはうっすらと青みがかかっている。夜明けが近い。

 闇の闘士が、前足でデジタマに触れた。デジタマは白い光に包まれて舞い上がる。

 二つの光が空の中に消えるのを、ボクは黙って見届けた。

 静かに息を吐くボクに、エンシェントスフィンクモンが視線を向けた。

 ボクは何も言わずにうなずいた。

 闇の闘士は、それだけで満足したのかボクに背を向けて、城に戻っていった。

 ボクはかばんからデジメンタルを出した。胸に当てて、そっとつぶやく。


「デジメンタルアップ」


「バロモン」



 デジメンタルの力を身に宿し、一人、自分のいるべき場所へと歩き出す。

 親友の来世を、この世界の未来を守れるように。




―――




というわけで過去編でした。コエモン(というかバロモン)も書きたかったし古代十闘士も書きたかったですが、一番書きたかったのはデジタマです。

原点は「初めて生まれたダブルスピリットの名前を知っているのは何故か」です。プラスαで色んな要素が組み合わさってこの話になりました。考証をきちんとする暇もなく書いてしまったので、どこかおかしいところがあるかもしれません(汗)

古代十闘士の名前については、当時から「エンシェント」ってつくのも変な感じだなと思ったので、理由づけしました。実際「老人」という意味もあるようですし。



ひとまず小説はねじ込めましたが、コメントする余裕が出るにはもう少しかかりそうです(汗)ほうぼうの更新は見ているのですが……すみません。この小説へのコメントにも返信が遅くなると思います。ゆっくりお待ちいただければ幸いです。

ではっ。