炎の章〔1〕草原の町の警備隊員ジオグレイモン | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

注)

本著では、十闘士がルーチェモンを封印し、三大天使の統治が始まった年を紀元1年とする新進暦を用いる。

 

炎の章
〔1〕 草原の町の警備隊員ジオグレイモン

 紀元前7年。草原の町に、ジオグレイモンというデジモンが住んでいた。後に炎の闘士として歴史に名を遺すデジモンだ。

 だが、この頃のジオグレイモンは町の警備隊の一体に過ぎなかった。

 その日も、ジオグレイモンは町の入り口で同僚のティラノモンと番をしていた。

 時刻は夕方で、中央広場からは市場の店じまいの音が聞こえてくる。土製の家々からは、夕食の匂いが漂ってくる。

 町への出入りもほとんどない。いつもと変わらない平和な夕暮れに、ジオグレイモンはあくびを噛み殺した。

 それを見て、ティラノモンが苦笑する。

「おいおい、たるんでいる所を少年王に見られたら、クビにされるぞ」

 ジオグレイモンは笑ってそれを受け流す。

「王様がこの町に来るのは明日だろ。それに、案内は町長がするし、見るのは市場や家のあるところ。王様がここを通る時だけびしっとしとけば問題ないさ」

 と、遠くから車輪の音が聞こえてきた。ふたりは笑顔を引っ込めて、音の方を見る。

 草原の道を、1台のバシャが進んでくる。市場に来る商人が使う簡素なバシャとは違う、見たことのないバシャだ。

 金属製で、屋根と扉がつき、装飾まで施されている豪華なものだ。しかも、ジオグレイモンと同じくらい大きい。

 ジオグレイモンは慌てて背筋を伸ばす。

「待ってくれよ、来るのは明日じゃなかったのか」

「俺もそう聞いていたけど、あんな乗り物で来るのはお偉いさんだろ」

 早口の会話を交わしているうちに、バシャはふたりの前まで近づいてきた。御者のエンジェモンがティラノモンに目を向ける。

「おい、門番。町長の家はどこだ」

 上から目線の言い方に、ティラノモンが少し顔をしかめる。が、そこは気持ちを押さえて話し始める。

 一方のジオグレイモンは、バシャを引いてきたデジモンに目を奪われていた。

 デジモンが乗り物を引いていること自体は不思議ではない。たくましいデジモンは、よくそういう仕事をやっている。

 しかし、この二体のグルルモンは様子が違う。毛並みは荒れているし、二体とものどに布を巻きつけている。バシャと繋がっている綱は、よく見れば細い鎖を編んだものだ。グルルモン達がどんなに力を入れても、この鎖は切れないだろう。

 片方のグルルモンが、ジオグレイモンの視線に気づいて顔を向けた。弱り切り、助けを求めるような瞳。グルルモンが口を開けると、ヒューヒューと空気の漏れるような音がした。

 ジオグレイモンは、グルルモン達に近寄ろうとした。

「はっ!」

 エンジェモンがグルルモン達にムチを打った。グルルモン達の足が地面を蹴り、バシャは町長の家の方へ走り出す。

 ジオグレイモンは苦い顔でそれを見送った。

 

 

 

―――

 

 

 

 その晩、ジオグレイモンは警備隊の宿舎で夕飯を食べていた。

 向かいに座るティラノモンが、肉リンゴを飲み込み、心配そうに話しかけてくる。

「珍しいじゃないか、お前が肉リンゴに食いつかないなんて」

「え? ああ」

 そう言われて、自分の食べる手が止まっていたことに気づく。

 適当にかじり、噛み砕く。大好物の肉リンゴなのに、今日は味を感じない。

「ティラノモン、夕方に来たバシャのことだけど。お前、あのグルルモン達を見てどう思った」

「俺はエンジェモンの相手をしてたから、グルルモン達の方はあまり見なかったな。……でも、嫌な感じはしたな」

 ティラノモンが顔をしかめる。

「あのエンジェモン、バシャに乗ってるのが誰なのか、最後まで言わなかったんだぜ。俺が聞いたら、『ケモノまがい』がそんなこと知る必要はないってさ。久しぶりに聞いたよ、『ケモノまがい』とか。いまだに言う奴いるんだな」

 ティラノモンの話を聞いて、グルルモン達の扱いにも納得がいった。

 要するに、あのバシャの主はしつこく残っている、ヒューマンデジモンが一番偉いと思ってる連中なのだ。そして、捕まえたビーストデジモンを奴隷のように使っている。

 その話をティラノモンにすると、ティラノモンも深いため息をついた。

「きっとグルルモン達は、声が出せないようにのどを切られてるんだ。俺も昔、そういうデジモンを見たことがある」

 ジオグレイモンが身を乗り出す。

「グルルモン達を助ける方法、何か思いつかないか? あんなの可哀想すぎる」

「そういうまっすぐなところがお前のいいところだけど、俺らが言ったってあいつら聞きやしないさ」

 そこまで言ったところで、ティラノモンがぱっと表情を明るくした。

「そうだ! せっかく明日少年王が来るんだ、町長から少年王に言ってもらおうぜ」

 ジオグレイモンもうなずく。本当は自分があの鎖を外して逃がしてやりたいくらいだが、きっとまた、別のビーストデジモンが代わりに繋がれるだけだ。

 明日の朝一番に町長に話しに行こう。それが町の警備隊員の自分ができる、精一杯のことだ。

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

まえがきを投稿してから間が空いてしまいましたが、1話を投稿しました!

最初は炎の章ということで、将来炎の闘士と呼ばれるようになる、ジオグレイモンを中心に展開していきます。

今回は短めですが、この後を続けると長くなるのでここまでにします。

次回をお楽しみに!