炎の章〔2〕自分の信じる正義のままに | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「どうしてダメなんだよ、町長!」

 町長の家で、ジオグレイモンはいらだった声を上げた。
 それを町長のスターモンが両手でなだめる。
「大声を出すな。あの方々に聞こえるだろう。はす向かいの宿屋に泊まっているんだぞ」
「バシャの奴らのことか」
「こら、口が悪いぞ」
 ジオグレイモンに対して、スターモンが顔をしかめる。
 ティラノモンがふたりの間に割って入った。
「町長もジオグレイモンも落ち着いて。町長がこれだけ気を遣ってるってことは、彼らはかなり身分の高いデジモンってことですね?」
 ティラノモンの質問に、スターモンは動揺して目を泳がせた。その反応だけで答えを聞いたも同然だ。
 ジオグレイモンが身を乗りだす。
「つまり、町長は偉い奴らの怒りを買うのが怖いから、王様にグルルモン達のことを告げ口したくない、と。そう言いたいのか」
「ジオグレイモン。この草原の町は、色んな地方から行商が来ることで成り立っているんだ。ヒューマンは個体数も勢力も大きい種族――その有力者に嫌われたら、この町は立ち行かなくなる」
 スターモンの言葉に、ティラノモンが「まあ、そうなりますよね……」と頭を掻く。
 ジオグレイモンが机を叩いた。その勢いに、木製の机がミシリと音を立てた。
「だからって、グルルモン達を見捨てるのか!? あんな扱いされてたら、じきに死んでしまう!」
「世の中、正義感ではどうにもならないこともあるんだ。グルルモン達のことは忘れろ」
 ジオグレイモンがこぶしを震わせる。今にも炎を吐きそうな形相だ。
 スターモンが慌てて声をかける。
「ふたりとも、今日は町の外を回ってこい。一周だ」
「っ! まだ話は」
「これは町長命令だ」
「話をそらすな!」
「あーもう、分かりました。ちょっとコイツ連れて歩いて、頭冷やしてきます」
 ティラノモンがジオグレイモンの首に腕を回し、強引に外へと引きずり出す。
 ジオグレイモンはのどを抑えられながらも、声を出そうとする。
「ティラ、ノモン、お前っ」
「はいはい、ちょっとお出かけしような」
 ずるずると引きずられていくジオグレイモンを、町のデジモン達が変なものを見る目で見送った。



 町の外を巡回しながらも、ジオグレイモンはふて腐れた顔をしていた。
「何で俺を連れ出したんだ。世の中はデジモンの種族差別をなくそうって考えが広まってきてるし、この町は前から色んな種族が集まる場所だろ。それが、あんな差別を許していいはずがない」
 いきり立つジオグレイモンの肩を、ティラノモンがなだめるように叩く。
「お前の言ってることは正しいよ。町長だって、本当はグルルモン達のことを助けたいと思ってる。でも、世の中には違う考え方がたくさんあるし、自分が正しいと思ったことが通用しないこともあるんだよ」
 と、町の反対側から歓声と花火の音が聞こえてきた。ティラノモンがそちらに目を向ける。
「おっ、少年王のお着きかな」
 市場として発達したこの町は、草原のど真ん中にありながら規模が大きい。それでも反対側の歓声が聞こえてくるということは、町中のデジモン達が少年王を一目見るために集まっているからだ。
「ジオグレイモン!? どこに行くんだよ!」
 ティラノモンが気づいた時には、ジオグレイモンは町中に向かって歩き始めていた。
 通りを早足に進みながら、ジオグレイモンは答える。
「今なら町中の目は王様に向いている。その隙に、グルルモン達を逃がす」
 ティラノモンは呆れたように両手で頭を抱えた。
「お前なあ。警備隊員が犯罪やらかしてどうするんだ!」
 それでも歩みを止めないジオグレイモンに、ティラノモンが嫌そうについてくる。
 ジオグレイモンがティラノモンの方を振り返って言う。
「俺のやる事が犯罪だって言うなら言えばいいさ。でも、デジモンが同じデジモンを痛めつけて、こき使うなんて間違っている。俺は自分が正しいと思うことをやる」
「さっき、俺が言ったこと聞いてたか?」
「聞こえていたし、理解もしたけど、納得はしていない」
「俺、お前を牢屋にぶち込みたくないよ」
「お前が『ずっと二人で巡回してました』と言ってくれればぶち込まれずに済む」
「言ってることが完全に犯罪者だぞ……」
 そう言いながらも止めずに付いてきてくれるティラノモンを、ジオグレイモンは心底ありがたいと思った。


 ジオグレイモンの予想通り、町にはほとんどデジモンの姿がない。目当ての宿屋横にある車庫の戸を開ける。
 昨日見た豪華なバシャが停められていた。この一台だけで車庫を占拠している。
 そして、車庫の隅に押し込められるように二体のグルルモンがうずくまっていた。首に巻かれた鎖は、相変わらずバシャに繋がれている。
 入ってきたジオグレイモン達に、グルルモン達が怯えた目を向ける。
 その目を見て、ジオグレイモンは優しく声をかける。
「安心しろ。お前達を助けに来たんだ」
 グルルモン達の疲れ切った目に、驚きと希望の表情が浮かんだ。
 バシャを調べていたティラノモンが、ジオグレイモンに声をかける。
「見ろよ、ここに鎖の留め具がある。これなら外せそうだ」
 御者台を見ると、確かに二つの留め具がついている。ケモノ型が外せないように複雑な仕組みになっているようだ。リュウ型のジオグレイモンとティラノモンも器用な種ではないが、これくらいなら扱える。
 ふたりで数分格闘した末、バシャから鎖が外れた。
 急いで鎖を巻き取って、グルルモン達の首にかける。重いだろうが、鎖が切れない以上仕方がない。
 グルルモンの一方がジオグレイモン達に顔を向けた。のどを切られてろくに話せないのに、懸命に口を動かす。
「ぁ……ぁぃ」
 ありがとう、か。
 ジオグレイモンは二体を誘導しながら答える。
「感謝されるほどのことじゃないさ。それに、町を出るまでは安心できない」
 車庫を出て、町の外へ向けて早足に進む。大通りの方から賑やかな声が近づいてきた。そろそろ、町のデジモン達が戻ってくる。
 だがジオグレイモンも、この町のことなら隅々まで知り尽くしている。
 路地の階段を下りて、枯れた用水路を進む。数年前まで地下水を引いていたのだが、それが枯れてからは放置されている。枯葉が積もった悪路ではあるが、住民がのぞき込まなければそこにデジモンがいるとは気づかれない。
 苦しそうにしているグルルモンの背をそっと撫でる。
「もう少しだ。頑張れ。必ず自由にしてみせる」
 グルルモンはうなずき、懸命に歩み続けた。



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グルルモン達の指が全て横並びであるのに対して、ジオグレイモンとティラノモンの指は親指と他2本の指が向き合っているから、グルルモン達に比べて複雑な動きができるようになっている、はず。(現実において、霊長類に見られるこの特徴を「母指対向性(ぼしたいこうせい)」といいます)
……って、自分は何で二次創作書くのに母指対向性のことなんか考えてるんだ(笑)