第197話・最終話 冒険と成長を経て! 十一回目の、そして初めての誕生日 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよび
デジモンアドベンチャー02の
二次創作(小説)中心に稼働します。

注)『デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~』は
管理人が勝手に想像するフロンティアのその後の物語です。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。


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 エンジェモンの城に戻ってきたのは、俺が最後だった。闇のエリアはトレイルモンの線路があまり通っていなくて、移動に時間がかかった。
 長旅でこわばった体をほぐすために、城の廊下を歩く。
 と、反対側から輝二が来るのが見えた。何故か小走りで、誰かを探すように部屋や窓の外を見回っている。
「どうしたんだ?」
 声をかけると、輝二は足を止めて、戸惑った顔で答える。
「ネプトゥーンモンとユニモンが部屋にいないんだ」
「森の中の村じゃないか? ほら、生き残ったみんなが作ってる」
「いや、ネプトゥーンモンは、民には自分が生きてることを言うなって口うるさく言ってたから、それはない」
「そう、だよな」
 一応言ってみたけど、ネプトゥーンモンが厳重に口止めしてたのは事実だ。今更、村のデジモンに会うはずない。
 ただ、輝二が改めて考え込む。
「……でも、村を心配して、隠れて様子を見る可能性はあるな」
 それなら、俺に一ヶ所心当たりがある。

 エンジェモンの城がある高台。門のある側はデジモンの出入りがあるけど、裏側は人気ひとけがない。
 そして、ここから遥か下の村を見下ろすことができる。
 俺の思った通り、青い鎧の海神と白馬が立っていた。俺達の足音に気づいて振り向く。
 輝二がほっとして肩の力を抜く。
「良かった。俺達に何も言わずにいなくなったのかと思った」
 その言葉と逆に、ネプトゥーンモンは気まずそうに視線をそらした。
「いやあ、バレちゃいましたね。村の様子を見たら、そのままこの城を離れるつもりだったんですよ」
 ユニモンがあっさり白状してペロッと舌を出した。
「……そうか」
 輝二が寂しそうに眉尻を下げた。
 数秒、沈黙が流れる。
 俺は思い切って聞いてみた。
「村を心配してるなら、どうして村に行かないんだ? みんなも、ネプトゥーンモンが生きているのを知ったら喜ぶと思うけど」
 ネプトゥーンモンは静かに首を横に振った。
「彼らは神の言葉に依存し、悲劇に見舞われた。そしてようやく、神に頼らず自分達で生きていこうとしている。私が行けばその決意を邪魔してしまう」
「悲劇を起こしたのはユピテルモンだろ。ネプトゥーンモンは、あいつと違ってちゃんと民のことを考えられる」
 輝二が言うと、ネプトゥーンモンは辛そうに表情をゆがめた。
「お前達には信じられないかもしれないが、ユピテルモンもかつては民のことを正しく考えられるデジモンだったのだ。それが、デジモンにあるまじき寿命を生きたために狂気に陥った。私もいつか、同じようになってしまうかもしれない」
 俺は反論しようと口を開きかけた。
 でも、その前にユニモンが苦笑して話す。
「説得しようとしても無駄ですよ。昔から、一度決めたら曲げないですから。八百年物。今さら治りませんって」
あるじを骨董品みたいに言うな」
 ネプトゥーンモンが頭を抱えて、ユニモンが心底楽しそうに笑った。
 輝二が口を引き結んで、仕方なさそうに何度か頷いた。
「分かった。でも、ここを離れたら、どこに行くつもりなんだ」
「この世界でも、十二神族の世界でもないどこか。誰もいない、誰にも迷惑のかからない世界で独り生きようと思う」
「何度も言ってますけど、僕もついていきますからね。置いていこうったってそうはいきませんから」
 ユニモンがまた口を挟んで、ネプトゥーンモンがため息をついた。
「お前の頑固さも八百年物だな」
「お互い様ですね」
 ユニモンが笑って、ネプトゥーンモンも少しだけ笑った。
 ふと、下の森で誰かが動くのが見えた。
 信也と拓也だ。二人で森の小道を歩いている。
 みんなも俺の見ているものに気づいて、視線を向ける。
 ネプトゥーンモンが独り言のようにつぶやく。
「ある意味、ノゾムが願った通りになったのかもしれない」
「え?」
 思いがけない発言に、俺は聞き返した。
 ネプトゥーンモンは言葉を選ぶように数秒黙った後、言い直す。
「もちろん、最も良い形にはならなかったが……あれなら、ずっと一緒にいられる」



―――



 兄貴が「散歩に行こう」って言いだしたんだ。
 だから俺と二人で話したいことがあるんだと思ったのに、どれだけ歩いても兄貴からは何も切り出そうとしない。
 聞きたいことはいくつもあるはずなのに、俺の方から話し出すのを待っている。
 ふと、トゥルイエモンと話した時のことを思い返した。今の俺が人間世界に帰ったら、体に何が起きるか分からない。それでも俺は自分の家に帰ることを選んだ。
 父さんと母さんに事情を話すかは、まだ決めていない。でもどっちにしても、きっと兄貴には迷惑をかけることになる。
 これまでも散々兄貴を困らせてきたのに、これからも手のかかる弟でいるのは嫌だ。
 俺は足を止めた。兄貴も立ち止まって、俺の方へ振り向く。
 息を吸って、話し出す。
「俺、兄貴に渡すものがあるんだ」
 兄貴が不思議そうな顔で俺を見ている。
 俺は頭からゴーグルを外した。片手を伸ばして、兄貴に差し出す。
「これ、ずっと借りっぱなしだったから、返すよ」
 兄貴がマルスモンにさらわれた後、俺が拾ったゴーグル。
 これをつけていると、兄貴のような決意と気合が湧いてくる気がした。
 でも、もう、これがなくても大丈夫だ。
「この冒険で俺は十分に成長した。兄貴に助けてもらわなくても、やっていける。だから返す」
 兄貴はゴーグルと俺の顔を見比べて、なんだか辛そうな顔をした。
 手を伸ばして、俺からゴーグルを受け取る。
 と、素早く俺の後ろに回って、首に腕を回された。
「なっ、ちょっ、やめろよ!」
 俺が焦っている間に、ゴーグルを雑に頭に乗せられた。更に、髪をわしゃわしゃと掻き回される。
「バーカ。お前まだ十一だろ? 五年生だろ? なに大人ぶってるんだよっ」
「別に、大人ぶってるとかじゃ、だから離せって!」
 俺が暴れると、兄貴は首に回してた腕を離した。
 今度は急に優しい手になって、ぐしゃぐしゃにした髪を整えて、ゴーグルを元の位置につけ直した。
 できあがり、っていうみたいに俺の頭を軽く叩く。
「これ以上、無理して成長しなくていいんだよ。どんな強力なスピリットを抱えてたって、お前は俺の弟なんだから。これからも頼ってくれていいんだ」
 その言葉で、緊張の糸がぷつんと切れた。
 デジタルワールドに来て、俺はすごい勢いで色んなことを経験して、急に成長した。だから、これからもこのペースで成長しなきゃいけないような気がしていた。
 でも、兄貴は俺が弟でいていいって、頼っていいって言ってくれた。
「……ありがと、兄貴」
 そう言った途端に、目から涙があふれだした。次から次へとこぼれてきて止まらない。
 俺は体を回して、兄貴にしがみついた。兄貴が優しく受け止めてくれた。
「本当は、ノゾムがいなくなって、すごく寂しい」
「うん」
「本当は、自分の胸に手を当てて、心臓の音がしなくて、恐い」
「そうか」
「こんな体で、生きていけるのか、分からない」
「心配するな」
「一人で、生きていける自信、全然、ない」
「俺がいる。父さんと母さんも、友樹達も」
 俺の言葉に、兄貴は何度でも応えてくれる。
 ノゾムが死んで初めて、俺は思いっきり泣いた。



―――



 俺達が人間世界に帰る日が来た。
 帰る日は、全員が城に揃った二日後、と決めていた。そうしないと、別れが辛くなって帰れなくなるから。
 まだ戦いの跡が残る森のターミナルに、客車を引いたトレイルモンのワームが止まっている。
 ホームには、俺達七人と、見送りに来たボコモンとネーモン、元・三大天使が立っている。
 テイルモンが俺達の顔を見上げ、深々とお辞儀をする。
「十年前に続き今回も、あなた方に助けていただきました。本当に感謝しています」
 純平が照れ臭そうに頬を掻いた。
「いいじゃん、そんな改まらなくたって。俺達は自分達で来たいと思って来たんだから」
「そうそう。デジタルワールドは私達のもう一つの故郷だもの。故郷を守るのは当然よ」
 泉も笑顔で答える。
 逆に、トゥルイエモンは真顔で考え込む。
「しかし、デジタルワールドが危機になるたびに君達に体を張らせるのは申し訳ない。十闘士の結界の強化を始め、もう平和が乱されないよう我々も頑張らなくては」
「僕もそれがいいと思う。……でも、そしたら僕達が呼ばれるのも、これで最後になっちゃうのかな」
 友樹の言葉に、重い空気が流れる。
 エンジェモンがそっと口を開く。
「本来、異世界への線路はむやみに通すべきではないのです。特に、あなた方の世界はデジモンやデジタルワールドのデータに触れることで不安定になりやすい」
 俺はとっさにこぶしを握って、表情が変わらないように頑張った。
 運よくエンジェモンには気づかれなかったらしく、話が続く。
「しかし、時が経てばその影響も元に戻ります。何年後になるか分かりませんが、また人間世界と繋げられる日が来るでしょう」
 これで最後じゃない。きっとまた会える。全員の表情が明るくなった。
 特に、ボコモンとネーモンのテンションが上がった。
「今度は、平和なデジタルワールドに来れば良いハラ! 戦いもせず、好きなようにデジタルワールドを見て回るマキ!」
「今回は、おれ達あんまり一緒に旅できなかったからね~」
 輝一が二人の背の高さまで腰を落として、笑顔を見せる。
「そうだね。俺もふたりと一緒に、のんびりデジタルワールドを旅してみたいな」
「この世界には、まだ俺達の知らない場所がたくさんありそうだな」
 輝二も気合の入った表情でうなずいた。
 
 トレイルモンが汽笛を上げた。出発の時間だ。
 俺達が客車に乗り込むと、トレイルモンはすぐに走り出した。急いで窓を開けて、身を乗り出す。
「じゃあなー!」
「元気でねー!」
 お互い、精一杯に声を張る。ちぎれそうなくらい手を振る。
 ボコモン達は最後まで大きく手を振っていたけど、やがてトンネルの向こうに消えた。
 このトンネルを抜けたら、俺達は人間世界に着く。
 誰からともなく窓を離れて、みんな席に座る。デジタルワールドのことを思い出しているのか、静かになった。
 俺は席に膝立ちになったまま、トレイルモンの進む方を見つめていた。右手を胸に当てる。
 
 ノゾム。
 人間世界に戻ったら、見せたいものがたくさんあるんだ。
 家族、毎日食べてるご飯、通ってる小学校、住んでる町、毎週行ってるサッカーチーム、ノゾムが興味を持っていた色んなもの。
 俺もノゾムも出会った時とは変わってしまったけど、相棒だってことは今でも変わらない。
 俺達はデジタルワールドで、二人一緒に生まれ直した。
 この半分人間で半分デジモンの体で、俺はノゾムと一緒に生きていく。
「そうだ」
 兄貴が急に声を出した。全員の視線が兄貴に向く。
「なあみんな、人間世界に戻ったら、みんなで泉の言ってた店に行こうぜ。そこで、信也の誕生日パーティしよう!」
「そうだった! 拓也、よく覚えてたわね」
 泉が思い出した、というように手を叩いた。そういえば、デジタルワールドに来る前にそんな話をしていた。
「いいよな、信也?」
 兄貴が言って、みんなが俺を見る。
 俺はみんなの笑顔を見回して、素直に笑った。
「もちろん。ありがとう、みんな!」
 
 今日は俺の十一回目の、そして初めての誕生日。
 
 
 
〈終わり〉
 
 
 
 
 
☆★☆★☆★
 
 
 
2012年5月20日に第1話をインターネットに送り出してから、約6年5か月。
197話をもって、「デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~」が完結しました。
ここまで書き上げられたのは、ひとえに読み続けてくださった、そして応援してくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございました!
完結した思いとか裏設定とか裏事情とか、色々書きたいことはあるのですが、長くなるので、後日、別記事にまとめます。
 
今後の執筆予定ですが、書きたいと思っている短編が三つあるのでまずそれを書きます。
その後は、また長編を書こうと思っています。『古代十闘士伝(仮題)』、みたいなのを考えています。
改めて、ここまでお読みいただきありがとうございました!
今後とも、星流と、星流の小説をよろしくお願いいたしますっ!

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