〔68〕魂を重ねて奇跡を起こせ | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 城の中庭らしき広場。
 その中心に、一体のデジモンが立っていた。
 2本の足で立ってはいるが、その体は獣のような赤黒い毛で覆われ、手足には巨大な爪が生えている。背には禍々しい黒い羽が一対。頭に生えた2本の角と凶悪な形相は、まさに悪魔そのもの。
 立っているだけで、背筋の冷えるような邪気を放っている。
 目の前にいるのが元凶だと、本能で理解する。
 大輔は腹の底に力を入れ、声を張る。
「デーモン! もうお前の思い通りにはさせないぞ!」
 その威勢に続いて、エアロブイドラモンが飛ぶ。
「《Vウィングブレード》!」
 エネルギー体の刃をまとった翼を、デーモン目がけて振り下ろす。
 その翼を、デーモンは素手でつかんだ。
「なっ――!」
 驚愕するエアロブイドラモンに対して、デーモンは薄ら笑いを浮かべる。
 翼をつかんだ手に力を込める。痛々しい音を立てて、翼がきしむ。
「ぐっ、うあああ!」
 エアロブイドラモンが身をよじらせる。
 アグニモンがデーモン目がけて飛ぶ。
「俺の仲間を離せ! 《サラマンダーブレイク》!」
 アグニモンの回し蹴りがデーモンに迫る。
 対して、デーモンは無造作にエアロブイドラモンを投げた。
 エアロブイドラモンとアグニモンが衝突し、そのまま壁に叩きつけられる。盛大ながれきと土埃が舞い、大輔は両腕で頭をかばった。
 顔を上げると、がれきの中に仰向けで倒れるパートナー達が見えた。
「っ……!」
 エアロブイドラモンの片翼はおかしな方向に折れ、力なく下がっている。アグニモンの方は、仲間とぶつかった衝撃で鎧が何か所も凹んでいる。
「久しぶりだな、選ばれし子どもとそのパートナーデジモン」
 デーモンの低い声に、大輔は振り返る。戦える仲間は倒れたままだが、それをかばうように立つ。精いっぱいこぶしを握り、敵をにらみつける。
 そんな大輔の勇気を、デーモンはせせら笑う。
「私を封印した時でさえ究極体がいたぞ。完全体ごとき、それもたった2匹で勝つ気でいるのか」
「お前の独り言に付き合ってる時間はない!」
 大輔は答えながら、デジヴァイスを握る手に力を込める。
 大輔の想いに応えて、エアロブイドラモンが頭をもたげる。残っている体力の全てを込めて、全身を白炎に包む。
「うおぉぉぉ! 《ドラゴンインパルス》!」
 白炎は竜に姿を変え、デーモンに食らいつく。
「《バーニングサラマンダー》!」
 アグニモンも片膝をついたまま、両腕から火炎弾を打ち出す。
 白と赤の炎がデーモンを包み、全身を焼き焦がす。
 自分達の出せる、全力の一撃。
「これでどうだ!」
 大輔の言葉は、デーモンのくつくつという笑い声にかき消された。
「ぬるい。攻撃すると言うのなら、これくらいの炎を出してみろ!」
 デーモンが右手を掲げると、赤黒い火球が生まれた。それは見る間に勢いを増し、大輔達に向かって放たれる。
「《フレイムインフェルノ》!」
 火炎が地面をえぐりながら迫りくる。視界を覆いつくす獄炎に、大輔は立ちすくんだ。
「くっ、大輔!」
 エアロブイドラモンが尻尾を振るい、大輔を弾き飛ばした。吹き飛ぶ大輔の目の前で、パートナーとアグニモンが獄炎に飲み込まれる。
 大輔は、ただ息を呑むことしかできなかった。
 
 直後、背中から地面に落ちた。
 一瞬息が止まった。が、構わずに体を起こす。こんな痛み、気にしている場合じゃない。
 顔を上げると、獄炎は既に消えていた。そこにあったはずの城は高熱で溶け落ちていた。まだ残っている熱で、景色がかげろうのように揺らいでいる。
 その中に、青い小さなデジモンと、同い年の少年が倒れている。
「チコモン! 拓也!」
 大輔は歯を食いしばって、2人に駆け寄った。
 パートナーを抱きかかえ、拓也に肩を貸す。2人とも満身創痍だが、なんとか気を失ってはいなかった。
 チコモンは、大輔を見上げてほっと息をついた。
「よかった……だいすけ、ぶじで」
 大輔はチコモンを強く抱きしめる。
 拓也が悔しそうに右手を握りしめた。
「俺は、炎の闘士なんだ。なのに、俺の炎は全然通じなかった……! あいつの炎が全然防げなかった……!」
「諦めるな。まだ勝つ手段はあるはずだ」
 拓也に、チコモンに、そして大輔自身に言い聞かせる。自分達が負けたら、誰も救えない。
「『諦めるな』、か。以前に人間の世界で会った時も、同じことを言っていたな」
 デーモンの言葉に、大輔は一瞬怪訝な顔をする。が、すぐに気づいて口にする。
「未来の俺がお前を封印した時か」
「そうだ。お前等は諦めずに方法を探し、わしを暗黒の海に封印することができた。だが結局、わしに新たな力を与えたに過ぎない」
 デーモンは両手を広げ、怪物じみた姿を見せつけた。
「暗黒の海でダゴモンを取り込み、更なる闇の力を得た結果がこの姿だ。お前等は上手く敵を追い払ったつもりで、自分の首を絞めたわけだ」 
 大輔に視線を向けたデーモンが何かに気づき、意地悪い笑みを浮かべる。
 チコモンに目を向けた大輔は息を飲んだ。
 チコモンの体が消えかけている。チコモンを抱えている自分の腕も、そばにいる拓也も。
 デーモンは攻撃してくる様子もなく、大輔達を見下ろしている。
「力を与えてくれた礼に、とどめを刺さずにおいてやる。仲間と同じように、自分の存在が消えるまでの時間を噛み締めるがいい」
 仲間。その言葉に、大輔はキッと顔を上げた。
「俺は絶対諦めない。未来の俺のやったことも、間違いだったとは思わない。俺は、仲間は、その時一番いい方法を選んだんだ。今の俺も、絶対に諦めない!」
 拓也の体にも力が籠った。ふらつく足に気合を入れて、どうにか立ち上がる。
「俺がいるのも忘れるな。お前の策略でも、俺達は大輔達と出会って、絆ができた。記憶が消えても、俺達には仲間がいたってことは絶対に忘れない。俺達は仲間を取り戻すために、最後まで戦う!」
 
 直後、大輔と拓也のデジヴァイスが光を放った。
 虹のように様々な色を持つそれは、デジヴァイスから飛び出し、大輔と拓也の前で円を描く。
 その輝きに、デーモンが初めて動揺した。
「聖なるデヴァイスの光――!? 何故今更!?」
 二人の前で円を描いた光は、それぞれの色に分かれ、紋様をかたどる。
 大輔の前に十一個。
「これは、紋章?」
 拓也の前に五個。
「十闘士のエレメントだ……!」
 それぞれの紋様が誰のものかは思い出せない。
 だが、暖かい光を放つそれが、仲間の力だということは分かる。
 大輔に抱えられていたチコモンが、紋様を見て笑顔になった。
「たたかってるのは、おれたちだけじゃない」
「ああ。みんなで力を合わせてデーモンを倒すんだ!」
 大輔が輪の中心にデジヴァイスを向ける。
 画面に奇跡の紋章が浮かんだ。
 拓也も輪の中心にデジヴァイスを突きだす。
「俺達全員の力があれば、きっと勝てる!」
 画面に炎の闘士のエレメントが浮かぶ。
 仲間達の紋様も輝きを増し、大輔達を包み込んだ。

「チコモン、ワープ進化!」
 全ての紋章の力を得て、大輔のパートナーは蒼鎧の騎士へと姿を変える。
「アルフォースブイドラモン!」

「エンシェントスピリット・エボリューション!」
 十闘士の力を一つに重ねて、拓也は赤と青の鎧をまとい、日輪を背負いし神に進化する。
「スサノオモン!」

 デーモンを前に、二体の究極体が並び立った。



◇◆◇◆◇◆
 


大変お待たせしました(汗) 
最終戦ということで気合を入れて書いたのでご容赦くださいm(__)m