〔67〕立ち止まるな、前を見ろ | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 京が片手でパソコンを抱え、デジタルゲートに座標を入力していく。
 その間に、大輔はブイモンに声をかけた。
「続けての戦いになるけど、いけるか?」
「任せろ、大輔。まだまだ戦える。ほら、完全体になった後だけど、チビモンに戻ってないだろ」
 胸を張るパートナーに、大輔はほっと肩の力を抜いた。余計な心配だった。
「みんな、準備できたわよ」
 京がパソコンを地面に置いた。数歩下がって仲間の隣に立つ。
 誰に言われるでもなく、全員がデジヴァイスを出し、パソコンに向ける。
 京が声を張り上げる。
「デジタルゲート、オープン! 選ばれし子ども達、十闘士、出動っ!」
 パソコンから白い光があふれだし、大輔達は画面の中に吸い込まれた。
 
 
 
 浮遊感のあるゲートを抜けて、足が地面につく。
 そこは、殺風景な暗い世界だった。
 建物どころか、草木一本ない平坦な地面。溶岩の固まった後のような、黒い石で覆われている。
 空も星一つない夜空の黒。明かりは何一つ見当たらない。
 それでいて、自分や仲間達の姿はくっきりと見える。気味の悪い光景だ。
 しかし、戸惑っている暇はない。
「デーモンは一体どこに」
 ヤマトが言い終わる前に、遠くから耳障りな羽ばたきの音が聞こえてきた。一つや二つではない。何十もの音が重なり合って、まるでノイズのようだ。
 そちらに目をやると、地平線の向こうからデジモンの黒い大群が飛んでくるのが見えた。
 太一が目をこらし、その正体を見分ける。
「デビモンにデビドラモン、イビルモン……俺達を足止めするために送り込んできたんだな」
 だが、逆にこれで分かった。
 輝二が敵の方角に一歩踏み出した。
「この方角に戦力を集めてるってことは、この先に行ってほしくないってことだ」
 伊織も遥かな地平線を見据える。
「つまり、あの敵を倒した向こうにデーモンがいる」
 大輔がこぶしを握り、よし!、と気合を入れた。
「行くぞ、みんな!」
 
「超・進化!」
「エアロブイドラモン!」
「ヒポグリフォモン!」
「ブラキモン!」
「ジュエルビーモン!」
 
「アーマー進化!」
「ネフェルティモン!」
 
「進化!」
「グレイモン!」
「ガルルモン!」
 
「スピリット・エボリューション!」
「アグニモン!」
「ヴォルフモン!」
「フェアリモン!」
 
「《Vウィングブレード》!」
 エアロブイドラモンの打ち出したエネルギー体が、敵陣をV字に切り裂く。
 それを合図に大輔達は駆け出した。
  地上から、空から、敵が迫って視界を覆い尽くす。
  それをデジモン達の技で蹴散らし、前に進んでいく。
「待って、お兄ちゃん達が!」

 ヒカリが悲鳴を上げた。

 大輔が振り返ると、太一とグレイモン、ヤマトとガルルモンが遅れていた。更に、大輔達と太一達の間に敵が入り込み、両者を分断する。

 助けなきゃ。大輔の足が止まりかける。

「立ち止まるな!」

 ヤマトの力強い声が響いた。その声に背中を押されて、大輔は走り続ける。

 背後からグレイモンとガルルモンの声が聞こえる。

「今の僕達は完全体に進化できない!」

「俺達を助けるよりも、完全体が一人でも先に進むんだ!」

 正論だ。でも、気持ちは納得できない。

「仲間を見捨てるなんて、俺には」

「見捨てるわけじゃない!」

 今度は太一の声が聞こえた。

「デーモンを倒して世界を元に戻せば、仲間は取り戻せる! だから行け!」

「っ、分かりました!」

 大輔はこぶしを強く握りしめ、走る速度を上げた。ヒカリも辛そうに一度振り返ったが、大輔に続いて速度を上げた。

 大輔の右で、誰かが傷つき苦しむ声が聞こえた。

 だが、そちらを見ても仲間の姿はない。声に聞き覚えはあったはずなのに、誰の声だったか思い出せない。

 京の言っていた通り、仲間の消滅が早まっている。

 その京が大声をあげた。

「みんな! この先に崩れた城みたいな建物が見える! 多分あそこに、あっ!」

 京が自分の手を見て息を呑んだ。京とヒポグリフォモンの姿が急激に薄れていく。
「急いで――」

 直後、少女と白いデジモンが消えた。

 残っているのは大輔とエアロブイドラモン、ヒカリとネフェルティモン、アグニモン、フェアリモンだけだ。
 敵が群がる向こうに、黒壁の城が見えた。

「《Vウィングブレード》!」

「《ロゼッタストーン》!」

「《バーニングサラマンダー》!」

「《ブレッザ・ペタロ》!」

 総攻撃で敵を蹴散らす。城への血路が開いた。

「行こう!」

 息は上がって太ももも痛いが、それでも気合で走り続ける。

 横でヒカリがつまずいた。とっさにその手を取って走る。

 だが、その感覚が変だ。体温が伝わってこない。手触りもぼんやりしていて、握り締めたら消えてしまいそうで。

 大輔ははっとして足を止め、ヒカリの顔を見た。その姿がだんだん透き通っていく。

「そんな――」

 彼女まで失いたくない。それなのに、名前を呼ぼうとしても思い出せない。

 大輔の横で、アグニモンも短く声をあげた。妖精デジモンも同じように消え始めている。

 妖精デジモンは一瞬おびえた表情を見せたが、すぐに優しく微笑んだ。

「大丈夫。存在が消えても、心は一緒に戦ってる。信じて」

 アグニモンは黙ったまま、頷いて答えに代える。

 少女が大輔にしがみついてきた。その姿はもうほとんど見えず、触れられている感覚も全くない。

 半泣きの声が大輔の耳に届く。

「大輔くんが取り戻してくれる世界で、待ってる」

 大輔が少女に手を伸ばす。

 が、大輔の手は触れることなく、宙を横切っただけだった。

 3人だけが残された。
「大輔、急ごう」

 エアロブイドラモンに促され、大輔は歯を食いしばって再び走り出した。

 

 じきに城の中庭らしき広場に出た。

 その中心に、1体のデジモンが立っているのが見えた。

 

 

 

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更新が遅くなってすみませんでした。資格試験と仕事のせいです←

なお、デーモンのいる世界のイメージは、リデジのダークエリアです。どこまで遠くに行っても背後には電車が見えていて、特定の方角に走り続けた時だけ目的の場所にたどり着けるっていうアレです。常識が通用しない独特の空間構成が、個人的にすごく印象的でした。

 

次回から最終決戦です。