ブラキモンが長い頭をもたげる。たったそれだけで、ぐんと高度を増し、15メートル上空のレディーデビモンと同じ目線になる。
「何が――!?」
予想しない事態に、レディーデビモンが唖然として動きを止める。
ブラキモンが首を大きく横に振る。風を切る音とともに、レディーデビモンが吹き飛ばされた。
レディーデビモンは羽を広げて、地面にぶつかる手前で踏みとどまった。
しかし、すぐに重い地響きが聞こえる。空を見上げれば、四肢で地面を踏みしめながら迫るブラキモンの姿。レディーデビモンは一瞬気おされるが、すぐに表情を引き締める。
「くっ、《ダークネスウェーブ》!」
無数のコウモリの群れがブラキモンに迫る。
が、ブラキモンの足元を駆け抜けて、グレイモンとガルルモンが前に出る。
「《メガフレイム》!」
「《フォックスファイアー》!」
赤と青の炎がコウモリを焼き払う。
全てのコウモリが地面に落ちた時、既にレディーデビモンの姿はなかった。
「逃げたのか!?」
「いや、まだ近くにいるはずだ!」
太一の言葉に、ヤマトが素早く返し、辺りを見回す。
ブラキモンのそばの茂みが音を立てる。
「そこか!」
ジュエルビーモンが素早く槍を突き出す。
しかし、槍を引き出してみると、力尽きたコウモリがぶら下がっているだけ。
「しまった、囮だ!」
賢が叫ぶやいなや、別の茂みからレディーデビモンが飛び出した。
無防備な伊織に向かって。
レディーデビモンの鋭い爪が光る。伊織はとっさに顔を腕でかばった。
白い服の袖が、破れて地面に落ちる。
「――っ、貴様!」
レディーデビモンが顔をゆがめた。
伊織を切り裂く寸前、テイルモンの《ネコパンチ》が爪を弾き飛ばしていた。
伊織の頭に乗り、テイルモンがふふんと勝ち誇る。
「あんたが伊織とブラキモンに執着しているのは分かってたからね。ブラキモンに歯が立たないなら伊織を狙うと思ってたのよ」
「あ、ありがとうございます」
頭に乗られて重そうな顔をしながら、伊織がお礼を言う。袖は破れたが、肌には傷一つない。
ジュエルビーモンが伊織とテイルモンを抱きかかえ、安全な場所に避難させる。
レディーデビモンがすぐに後を追おうとするが、鮮やかな光が間を遮った。
光の正体は大きなシャボン玉だった。直径が1メートルくらいあり、日の光を反射して虹色の光を放っている。
場違いなほど、のどかな光。それが、一つ、二つと数を増していく。
シャボン玉を吐き出しているのはブラキモンだった。シャボン玉とは真逆に、怒りのこもった目をレディーデビモンに向ける。
「伊織を傷つけようとした罪、オレは許さんぞ!」
シャボン玉が次々に吐き出され、レディーデビモンに向かっていく。
レディーデビモンが近くのシャボン玉を引き裂いた。が、すぐに悲鳴を上げて自分の手を押さえる。レディーデビモンの手からは煙が上がり、データが分解されかけていた。
逃げようとするが、既に四方も空もシャボン玉で埋め尽くされている。
「《ブラキオバブル》!」
ブラキモンの咆哮で、シャボン玉が次々と破裂した。虹色の光が美しく跳ねる中で、レディーデビモンの悲鳴が聞こえる。
その輝きが消えた後には、データの欠片さえ残っていなかった。
戦いを終えたブラキモンに、伊織が駆け寄る。ブラキモンの体が縮み、幼年期のウパモンまで退化した。
その丸っこい体を、伊織が優しく抱き上げる。
「お疲れさま」
「いおり、ケガしてないか?」
「うん」
ほほえましいやり取りに、仲間達もほっと息を吐く。
「レディーデビモンは倒せた。後は」
ヒカリがテレビの方に目を向ける。ノイズの混じったテレビ画面では、現実世界の様子は分からない。
「大輔くん達、大丈夫かな……」
「俺達も渋谷に行こう」
太一の言葉に、全員がテレビの前に戻る。一戦交えた後だが、休んでいる暇はない。
デジヴァイスでゲートを開き、一同は現実世界に飛んだ。
◇◆◇◆◇◆
少し短めですが、キリが良いのでここまで。
《ブラキオバブル》の解説には「アワ」って書いてあるんですが、シャボン玉の方がきれいだし、伊織の良心の紋章の表れにもなるかな、と思ってシャボン玉としてみました。公式であまりブラキオモンの技描写がないのをいいことに←
クリスマスイブ? 何の予定もなかったので、家事と小説執筆とゲームがはかどって、とっても楽しい一日でした☆