パソコンの起動が済むと、自動的にゲートが開いた。仲間達の後ろ姿も見える。
「こっちは渋谷に着いたぞ!」
大輔の声に、仲間達が振り向く。
京が画面に近づいてアップになる。
『そっちはどんな状況?』
「黒い鳥デジモンが暴れてるんだ。多分、ダスクモンが進化したんだと思う」
『分かった。行くから下がってて』
言われた通りに下がると、ゲートが開いて京達がビルの屋上に現れる。
泉、京、ホークモン、空、ピヨモンだけだ。
「太一さん達は?」
大輔が聞くと、泉達は顔を曇らせた。
空が説明する。
「それが、デジタルワールドでもレディーデビモンが襲ってきたの。太一達は残って戦ってる」
ピヨモンが続けて口を開く。
「人間世界の方は飛ぶデジモンが相手だって聞いたから、飛べるわたし達がこっちに来たの」
「そっか……」
太一達の戦いも気になるが、今は渋谷での戦いに集中するしかない。
泉、京、空がデジヴァイスを構える。
「スピリット・エボリューション!」
「フェアリモン!」
「ホークモン、アーマー進化!」
「羽ばたく愛情、ホルスモン!」
「ピヨモン、進化ー!」
「バードラモン!」
黒い怪鳥めがけて、新たに三体のデジモンが飛んだ。
―――
コウモリの群れが子ども達に襲いかかる。
「ほらほら、よそ見してる暇はないよ!」
いち早く飛び出したグレイモンとガルルモンが、炎でコウモリを焼き払う。が、数が多く次第に押されていく。
ヤマトが顔をしかめた。
「まずいぞ、相手は完全体だ。こっちも完全体じゃないと」
「それなら僕達がいきます。ワームモン!」
賢のデジヴァイスと紋章が光り、パートナーをジュエルビーモンに進化させる。
「《スパイクバスター》!」
ジュエルビーモンの突き出す槍の衝撃波に、レディーデビモンが上空へと逃れる。 ジュエルビーモンがその後を追う。
15メートルほど上空でレディーデビモンが止まり、追いついてきたジュエルビーモンと戦い始めた。地上からの援護が届く距離ではなく、グレイモンとガルルモンは歯がゆそうに空を見上げている。敵の方も、地上から援護が来ないことを見越してあの高さまで飛んだのだろう。
アーマー進化したネフェルティモンが《ロゼッタストーン》を撃ちながら援護に飛ぶ。が、レディーデビモンの放つコウモリに押され、地面に叩きつけられた。
「エンジェウーモンになれれば、あんな敵……」
進化の解けたテイルモンが、悔しそうにこぶしを握る。
上空でレディーデビモンが叫ぶ。
「あんたらにいつまでもかまっていられないのよ! あの一番小さい子どもとパートナーデジモンを、泣き叫ぶまでいたぶりに来たんだから! 私の顔をつぶした礼に、骨まで引き裂いてやる!」
伊織の肩がびくりと動いた。アルマジモンに向けようとしていたデジヴァイスを取り落とす。
アルマジモンがデジヴァイスを拾いあげて、伊織に差し出す。
「安心するぎゃ、伊織はオレが守る」
しかし伊織は浮かない顔のまま、デジヴァイスを受け取ろうとしない。
「いえ、そうではなくて……あんなに他人を怒らせたのは初めてで、なんだか、悪いことをした気分なんです」
「あいつはオレ達の命を狙ってきてたぎゃ。伊織は何にも悪いことしとらん」
「それは、分かってるんだけど……」
パートナーに励まされても、伊織は納得できないのか顔をしかめる。
そんな伊織を見て、アルマジモンが半ば呆れた、半ば嬉しそうな表情になる。
「まあ、そこが伊織のええとこだぎゃ」
「そうかな……」
「相手が敵でも、それと自分がしたことのいい悪いを別に考えられるのはええことだぎゃ」
アルマジモンに肯定されて、伊織が少し表情を緩めた。
「でもな」
アルマジモンが言葉を続ける。
「今ここで伊織が戦わなかったらどうなる?」
「戦わなかったら……」
伊織が上空の戦いを見上げる。
「僕達は世界から消えてしまう。そうなったら、デーモン軍団に対抗できる人はいなくなる。デジタルワールドも人間世界も、破壊されてしまう」
レディーデビモンに対して良心の呵責を感じるかどうかは伊織の自由だ。だが、戦いをためらうことは、自分や自分の住む世界の破滅にもつながりかねない。それだけの責任がのしかかっていることを、伊織は自覚させられた。
「アルマジモン」
「ん?」
「命を狙われていたとはいえ、レディーデビモンの顔を焼いてしまったことは申し訳なかったと思う。でも、彼らがやろうとしていることはやっぱり間違ってる。今僕がやるべきことは、レディーデビモンと戦うことだ。僕はそれが正しいと思う!」
伊織はアルマジモンからデジヴァイスを受け取った。
同時に、伊織が胸に下げている紋章が白い光を放ちだした。
「進化だ、アルマジモン!」
「アルマジモン、進化ー!」
「アンキロモン!」
アルマジモンの小柄な体が、背中にとげを張り巡らした頑丈な姿に成長を遂げる。
更に、その体は巨大になり、首は長く天へと伸びていく。
「アンキロモン、超・進化ー!」
「ブラキモン!」
象より太い足で立つそのデジモンを見上げるだけで、伊織は首が痛くなりそうだった。
四つの足に支えられた胴体は屋根のよう。そこからキリンのように長く伸びた首は、学校の屋上にだって届きそうなくらい長い。
「これが、アルマジモンの完全体――!」
その姿だけで、伊織は驚きを隠せなかった。
◇◆◇◆◇◆
多いキャラをどう効率的に動かすかで悩んでいたら書きあがるまでに時間がかかってしまいました。あと名古屋弁! きつい! ここはアルマジモンにしゃべってもらいたいところなのに! 名古屋弁翻訳サイトとかも試してみたけど、あまり性能良くないし。というわけで、今回も怪しげなセリフが飛び交っています。
そんなこんなで、アルマジモンの完全体登場です。トリケラモンと迷ったんですが、よりダイナミックなブラキモンにしてみました。色はブラキモンの方が近いですし。
そして、次回から戦闘だって前回言ってた割に、まだほとんど戦闘してない件。じっ、次回こそ戦闘するよ!