俺を見下ろすユピテルモンをにらんだ。そうやって、神剣の刺さっている自分のももから必死に意識をそらす。
「誰が……お前なんかの……言いなりに、なるかよ……」
歯の隙間から言葉を絞り出す。デジコードを吸収しないように、スーリヤモンのスピリットに必死に念じる。
ユピテルモンは残念そうに息を吐いた。神剣を握る手をひねり、無造作に俺のももをえぐる。
「つああああっ! ぐっっがあっ!」
視界が真っ白になった。
遠くで兄貴達が戦う音も、全て俺の絶叫にかき消される。
えぐられるもも。
自分の叫び。
その刺激だけで、頭が、破裂しそうだ。
「ぐあああああっ!」
俺の耳に音が割り込んできた。
この音は、背中の下から聞こえてくる。俺は、どこにいるんだっけ、そうだ、ライノカブテリモンの上に倒れてるんだ。
これは、ライノカブテリモンの声?
焦点の合わない目を、自分のももに向ける。
傷口にデジコードが流れ込んでいる。噴水を逆回しにしたように、吹き上がったデジコードが傷口になだれ込み、傷を癒していく。
ライノカブテリモンの体をボロボロと崩し、デジコードに変えて。
「っ! やめ――」
俺が体を起こすより速く、ユピテルモンが神剣をねじった。何度目か分からない激痛に、俺は再びうめき、倒れる。
新しい傷をデジコードが塞ぎ、また神剣がえぐり、できた傷をデジコードが塞ぐ。
悪夢の無限ループに、もがく体力も、叫ぶ気力も失われていく。
体がぐらりと傾いた。ライノカブテリモンの進化が解けた。俺もライノカブテリモンの背から落ちて、地面に打ちつけられる。
体がデジコードに包まれ、俺の進化も解けた。俺の横に、ノゾムが転げ落ちる。
そこでようやく、ももから神剣が抜けたことに気づいた。さっき、落ちた時に抜けたのか。
事態は何も良くなっていないのに、ほっと気が抜けてしまった。体がすごく重い。
ノゾム、純平。
ノゾムに手を伸ばしたいのに、指一本動かす力も残っていない。
純平の状況を確認したいのに、頭を起こすこともできない。
誰かが近づいてくる気配がした。俺の視界に金色の鎧が現れる。
ユピテルモンの声が頭上から降ってくる。
「第二審議の判決を申し渡す。お前は雷の闘士に神罰を与える役目を果たした。また、ここで死なすには惜しい能力の持ち主だ。よって執行猶予を与える」
ユピテルモンはハンマーを縦向きに振り上げ、俺の胸に振り下ろした。
電流が走り、体が勝手に跳ね上がった。
痛かった、と思う。もう感覚が麻痺して分からない。胸が熱い、とだけ感じる。
虚ろな目で、ユピテルモンの目を見上げる。感情のない、赤いY字の目。
「心臓に雷の刻印を打ち込んだ。私の意志一つで刻印は発動し、大電流でお前の心臓を跡形もなく蒸発させる」
そうなったら、俺、死ぬな。
意識の飛びかけた頭で、それだけは理解する。
「プルートモンになる道を選ぶか、なおも私に逆らって死ぬ道を選ぶか。丸二日考える時間を与えよう。賢明な判断を期待している」
ユピテルモンの姿が視界から消える。
入れ替わりに、兄貴が俺を呼ぶ声が近づいてきた。
「信也! しっかりしろ!」
俺の体は担ぎ上げられて、運ばれていく。
「純平! ……駄目だ、意識がない」
輝一の焦ったつぶやき。
慌ただしい足音。ボコモンとネーモンが声を張る。
「これで全員車両に乗ったぞい!」
「発車して~!」
トレイルモンが動き出してすぐに、俺は意識を失った。
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お待たせいたしました。短めですが、敗北による逃走で一区切りです。
星流は小説を書く時、主人公の五感や感情をイメージして、自分が感じた感覚を文字化しています。時には、部屋の中で実際に動いてみたり、考えているセリフを言ったりします。傍から見たら間違いなく変人です(苦笑)
今回の話を書いた直後、左ももが上手く動かせなくなりました。痛い痛いと思っていると、本当に体に影響出るんですね……。(今はもう大丈夫です)