「タケル!」
タケルが渋谷駅の改札から駆け出してすぐ、兄のヤマトの声がした。
エレベータ前で手を上げているのを見つけて、すぐさま近寄る。
「これか? 大輔達が乗ったエレベータっていうのは」
「うん。この下に、拓也くん達のデジタルワールドにつながる場所があるんだって。この駅を調べに行った大輔くん達と連絡がつかなくなって、もう1時間半も経ってる。このエレベータで下りて、なにか事件に巻き込まれたんだと思う」
そこまで言って、エレベータの一基の前に「点検中」の黄色い看板が出ているのに気づいた。
タケルの視線に気づいたヤマトが顔をしかめる。
「俺がここについてすぐ、駅員が急いで設置していった。会話に聞き耳立ててみたら、エレベータのかご……つまり乗る箱が、手品みたいに消えたらしい」
タケルは目を丸くして、エレベータの扉を見つめた。かごが消えるなんて、普通ではありえない。大輔達はそのかごに乗っていて、丸ごと消えた?
タケルの腕の中で、パタモンが小声で話す。
「エレベータごとデジタルワールドに行ったってことはない?」
「それならD-ターミナルで連絡がつくはずだよ」
タケルが否定すると、パタモンは残念そうに羽をすぼめた。
その横でヤマトが考え込む。
「パタモンの意見も一理あるかもな。他の異世界、デーモンの本拠地にさらわれたとも考えられる」
「そんな!」
タケルの表情が青ざめる。ヤマトが指摘したのは最悪の可能性だ。敵の本拠地となれば、仲間を助け出すのは極めて困難だ。
いや、まだそうと決まったわけじゃない。大輔達のためになにかできることを探さないと。
不意に、タケルのポケットから電子音がした。一つの音が、一定の間隔を空けて何度も鳴っている。
タケルがポケットに手を入れた。音の元はデジヴァイスだった。画面の中心に二つの点。右上の端にもう二点。
「大輔くんとヒカリちゃんだ! 二人のデジヴァイスが反応している!」
タケルの声に、ヤマトとパタモンも画面をのぞきこんだ。
「行ってみよう!」
パタモンが言い終わる前に、二人は早足で歩き始めていた。
デジヴァイスの表示を頼りに、迷路のような渋谷駅構内を進む。
エスカレータを降り、人ごみを縫うように進むにつれて電子音は速く、大きくなっていく。
「ここだ」
四つの点が中心に集まったのを見て、タケルは顔を上げる。
「……コインロッカー?」
ヤマトがつぶやいた通り、目の前にはコインロッカーが並んでいた。大輔達の姿は見当たらない。
「反応はここから出ているはずなんだけど」
タケルは画面とコインロッカーを見比べながら、更に厳密に発信元を探す。
やがて、視線が一つのロッカーに止まる。
利用が多く、鍵のかかっているロッカーばかり。だが、鍵のささったままのロッカーが一つある。タケルはその扉を開けた。
中身は空……いや、奥の壁が微かに光っている。デジタルワールドに行く時にパソコンの画面から放たれる光、あれに似ている。
しかしその輝きは不安定で、今にも消えてしまいそうだ。
「タケル、デジヴァイスを向けてみて」
パタモンの言葉に、タケルが頷く。デジヴァイスを持つ手をロッカーに入れ、光とデジヴァイスを重ねる。
光が強さを増し、ロッカーからあふれ出す。
「うわああああっ!」
タケルのデジヴァイスを弾き飛ばす勢いで、六つの影が転がり出た。そのままタケルとパタモンを押し潰す。
「ったた……あれ、タケル?」
大輔がきょとんとまばたきする。
「何とか戻ってこられたみたいだな」
輝二は周りを見回して、ほっと息を吐く。小学生がまとめて転がっている事態に通行人が引いているが、あえて気にしないことにする。
「良かった、全員無事で」
一人、下敷きを逃れたヤマトが表情を緩める。
ひとまず全員が立ち上がり、ほこりを払う。大輔達の体は砂ぼこりまみれで、焦げたような臭いもこびりついている。
「何があったの」
タケルの質問に、輝二が端的に答える。
「ダスクモンの罠にはめられた。その代わり、デーモンの能力の根源と、異世界から俺達に干渉しているという証拠はつかんだ」
「……ダスクモンがデーモンに利用されてるってことも」
ヒカリのつぶやきに輝二は目をそむけた。まだ心の整理がついていない。
「とにかく、一旦お台場に戻ろう。服も着替えた方がよさそうだしな」
ヤマトの提案には、全員がうなずいた。
◇◆◇◆◇◆
ヤマト・タケル兄弟メインでした。本当は空さんも出そうか悩んだんですが、キャラを回しきれないので今回は断念。
東京に引っ越す前~引っ越してすぐは、駅を進む時「人混みを掻き分けて」という表現を使っていました。しかし、最近になって知ったことは「東京育ちの彼らなら人にぶつからず通り抜けられるな」ということ(笑)「人混みを縫って」という表現の方が的確です。星流も東京に来たばかりの頃より、だいぶ歩くのが上手くなりました。……2年経っても都心部は迷路だなって思いますけどね(笑)