大輔達はお台場のヤマトの家に連れていかれ、ヒカリとテイルモンが真っ先に風呂場に通された。
「おれたちだって、すなだらけなのに」
「こういう時は女の子が先だよ」
膨れ面になるチビモンを、タケルが苦笑してたしなめた。
ヒカリが入っている間に、インターホンが鳴った。ヤマトがドアを開けると、中学2年生くらいのショートカットの女の子が入ってきた。タケルが目を丸くする。
「あれ、空さん。どうして」
「ヤマトから連絡があって、ヒカリちゃんの着替え用意してきたの。この家は男二人暮らしで、女の子の服がないでしょ。太一に持ってこさせてもいいけど、それだと太一のお母さんに怪しまれちゃうし」
答えながらも手早く靴を脱ぎ、下げてきた紙袋を脱衣所に持っていく。
「輝二、紹介するよ。太一先輩の同い年で、武之内空さん」
空が戻ってきたところで、改めて自己紹介を済ませる。
「光子郎くんのメールで事情は知ってる。自分でデジモンになって戦うだけでも大変なのに、家に帰れなくなるなんて……体とか心とか、辛いところあったら言ってね」
空の気遣いに、輝二は横を向いてつっけんどんに言う。
「別に、辛いところはない。それより、早く風呂に入りたい」
「そーだよ! ヒカリとテイルモンまだ?」
チビモンの言葉が聞こえたのか、脱衣所の扉が開いた。
「お待たせ。ヤマトさん、シャワーありがとうございました」
空の服に着替えたヒカリが、さっぱりとした顔で出てきた。テイルモンも白く滑らかな毛並に戻って満足そうだ。
さっきまで汚れた顔を見ていたのもあり、改めてヒカリちゃんかわいいな、と思う大輔であった。
「はああーっ、やっとさっぱりしたー!」
最後の大輔とチビモンが風呂場から出ると、テーブルの上に昼食のそうめんと麦茶が用意されていた。時計を見るともう午後の1時を過ぎている。
さすがに人数分のいすと器はなく、茶碗やマグカップを手に、男達は立って食べている。
暗黒の砂漠での出来事を話しているらしく、みんな真剣な表情でそうめんをすすっている。
大輔とチビモンもそれぞれマグカップを受け取って話の輪に加わる。
「渋谷駅にはデーモンの本拠地の情報はなしか。光子郎の調査結果に期待するしかないな」
ヤマトが厳しい顔で腕を組む。
タケルがその横で表情を和らげる。
「いいニュースもあるよ。デジタルワールドに行った伊織くんと京さんが自分の紋章を見つけたって、メールが来たんだ」
「本当か!?」
テイルモンが目を輝かせた。
「賭けみたいなものだったけど、こんなに早く見つかるなんてね」
空は自分達が紋章を探していた時のことでも思い出しているのか、遠い目をして言った。
「問題は、それを発動させられるかだけどな。俺達が消えるまでに残されてる時間は、多分あまり多くない」
ヤマトの現実を指摘する言葉に、また場の空気が重くなる。
――が、そんな状況でもそうめんをズルズルとすする音が二つ。
大輔とチビモンである。
「でもふぁ、デーモンがどうやって俺達の世界に手を出してるのかとか、光子郎さんの考えが当たってる証拠とかつかめたし良かったんじゃないふぇすか?」
「もんしょーがふえたのも、いいことふぁよな!」
「……二人とも、食べるかしゃべるかどっちかにしない?」
空が苦笑しながら提案した。
大輔はふと目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。柔らかい枕に頭を乗せたまま視線を巡らし、自分がヤマトの家のリビングにいることを思い出す。
確か、食器洗いを手伝おうとしたら、ヤマトさんに「お前達は疲れてるんだから少しやすんどけ」って言われて、言葉に甘えて冷たい床に座って、そのまま眠ってしまったんだ。テーブルには、輝二が突っ伏して寝ている。そばの床にはチビモンとテイルモンが寝ている。
大輔は小さくあくびをしながら頭を起こす。
そこでようやく、ひざの上に乗っているものに気づいた。
ヒカリが自分の膝の上で寝ている。
自分が枕だと思っていたものは、ヒカリの背中だった。
つまり、お互いにお互いを枕にして寝ていたことになる。
横に座って話をしているうちに寝てしまった覚えはあるけど、ヒカリにもたれかかった覚えはない。断じて。
上半身を起こしたままヒカリを見下ろすと、相変わらずぐっすりと眠っている。
この事態に固まっていると、横の部屋からヤマトが入ってきた。大輔が起きているのを見て、意地悪く笑う。
「太一に写真を送りつけてやろうか」
「っ! 撮ったんですか!?」
「どうだろうな」
「勘弁してください」
楽しそうに笑うヤマトを見て、大輔は肩を落とす。そんなことをされたら、しばらく太一の顔をまともに見られなくなる。
「冗談だよ。良く寝てたし、起こすのもなんだから放っておいてた。あと、タケルと空はもう帰ったからこの状況は見てない」
「あの……この状況、どうしたらいいと思います?」
「『1、ヒカリちゃんを起こさないように上手く抜け出す』『2、ヒカリちゃんが起きるまでその姿勢でいる』」
「太一先輩には、内緒にしててくれますよね?」
「内緒にする、と言ったら?」
大輔はヒカリの顔に視線を落として、小さな声で言う。
「2の方にしときます」
◇◆◇◆◇◆
反省を1件。
前回の大輔達が渋谷駅に戻ってくるシーンで、間違ってこのシーンにいないはずの拓也のセリフを入れてしまっていました(汗)拓也は伊織や京と一緒に紋章回収班に行ってたんだって……。
既に修正済みですが、ユナイトで大量のキャラを扱っている以上、誰が現在どう動いているのか、ちゃんと整理しながら進めないといけないな、と思いました。