〔56〕おぼろげな感度 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「純平くん、アンテナの角度をもう五度上げてもらえますか?」
「こうか?」
「はい。だいぶよくなりました」
 竹芝ふ頭の一角。
 昨日のマリンデビモン戦のあった場所から500メートルほど離れた場所で、光子郎と純平は空間のデータの収集を行っていた。
 本当ならもっと近くでやりたいのだが、昨日の一件でふ頭のほとんどは立ち入り禁止になっている。
 夏の日光を避ける木陰に陣取りつつ、純平はアンテナの調整を、アンテナから伸びるコードの先で、光子郎はノートパソコンを叩いている。
「えっと……泉、さん」
「光子郎でいいですよ」
 呼び名に困っていた純平は、光子郎の答えにほっと息を吐いた。
「じゃあ光子郎。俺には普通の海に見えるけど、本当に敵が侵入してきた跡なんて残ってるのか?」
 戦いでふ頭がえぐれた跡はあるが、空や海は和やかに澄んでいる。
 純平の疑問に、光子郎はパソコンを打つ手を止めて答える。
「本来世界と世界を繋げるには正規の手続きを踏んでゲートを開ける必要があるんです。それを、デーモン軍団は無理やりこじあけて入ってきています。だから、通った跡にわずかな空間のよじれが残るはずなんです。そこから彼らの本拠地へのルートがたどれるかもしれない……角度をもう二度下げてもらえますか?」
「に、二度……」
 微妙な無茶振りに、純平が手を震わせながら調整する。
 純平の頑張りにも関わらず、光子郎は眉根を寄せて厳しい表情になる。
「感度悪いのか?」
「ええ。距離があるのも問題なのですが、アンテナの反応が切れ切れになっていて。接続のせいでしょうか」
 パソコンとアンテナをつないでいるコードを抜き差ししてみるが、状況は変わらない。
 うなる光子郎に対して、純平がアンテナを指さす。
「なあ、いっぺん分解してもいいか?」
「え?」
 何を言われたのか理解できず、光子郎の視線が純平とアンテナの間を行ったり来たりする。
「俺、古い機械を直すの得意なんだ。家が工場でさ、親父が工場長やってるんだ。学校終わると工場に行って、親父や工場の人から色々教わってたんだ」
 家の話をする時にさみしそうな表情をしたものの、すぐにいつもの顔に戻る。
 着ているつなぎにある大量のポケットの一つから、こぶし大のドライバーセットを取り出す。
「なんでも出てくるポケットですね……」
「いつもはチョコしか入ってないんだけどさ。デジタルワールドにいた時にトレイルモンを直して、お礼にもらったんだ。で、分解したいんだけど」
 呆れる光子郎も気にせず、純平がドライバーを構える。
 光子郎がため息をついた。
「壊さないでくださいよ。ジャンクで買ったとはいえ、お小遣い三か月分かかったんです」
「任せとけって」
 不安そうな光子郎の目の前で、アンテナがみるみる解体されていく。
 見守るしかない光子郎に、純平が話を振る。
「そういえば、昨日今日と会った人以外にも選ばれし子どもっているんだよな。十闘士は四人だけど、選ばれし子どもの方は何人消すつもりなんだろう」
「選ばれし子どもは世界中にいますが、デーモンが特に脅威と感じるのは日本の十二人でしょう」
「光子郎、大輔、ヒカリ、タケル、京、太一……あと昨日もう三人いたよな」
「伊織くん、丈さん、一乗寺くんですね」
 純平はアンテナの部品を広げながら、会った人数を頭の中で数える。
「じゃあまだ会ってない人が三人か」
「一人は今朝会ったタケル君のお兄さんですよ。太一さんと同じ中二です。あと同じ学年にもう一人、女の子がいます」
 ひとまずのざっくりとした説明に、純平が頷く。アンテナの配線を確認して、今度は組み立て直していく。
「あと――」
「君達! そこで何をしているんだ!」
 突然の大声に、光子郎と純平の肩が跳ねた。
 慌てて声の方を向くと、警官が二人を睨んでいる。
 立ち入り禁止区域に近いうえに、パソコンとアンテナを持った小中学生。不審者だ。
 警官がきつい口調で詰問してくる。
「そのアンテナは? こんなところで何やってるの」
「えっと、アンテナは、ほら、公園で開けてるし、天気もいいし、その」
 純平はごまかそうと必死に口を動かす。公園でアンテナをバラしている真っ当な理由。思いつけ。思いつけ。
「すみません。実は、また宇宙人が出るんじゃないかと思って」
 光子郎の口から出た言葉に、純平も警官もきょとんとした。
 光子郎はひきつった笑顔で頭を掻く。
「ほら、昨日怪獣騒ぎがあったじゃないですか。ネットで『宇宙人だ!』って騒がれてるんですよ。それで僕達、今日も宇宙人が電波を飛ばしてるんじゃないかと思って調べに来たんです。ね、純平くん」
「あ、そ、そうだな光子郎くん! 俺達、この年でいまだにUFOとか好きで、こういう騒ぎがあると探しに行くんですよー」
 必死に作り笑いをする二人に、警官は呆れた目を向けた。
「遊びじゃないんだから、ほどほどにして帰るんだぞ」
「はーい」
 どうにか騙しきれたか。
 警官の姿が見えなくなってから、二人はほっと息を吐いた。
「とっさに調子を合わせてくれて助かりました」
「俺の方こそ助かったよ。よくあんなデマカセ思いついたな」
「デジモンのこと周りに秘密にしてると、こういうの上手くなっちゃうんです」
 光子郎は少し寂しそうに苦笑した。
 二人は改めて腰を据えて、作業にとりかかる。アンテナはじきに組み上がり、光子郎がパソコンに接続した。
「よし。今度は上手くいきそうです」
 光子郎が忙しくキーボードを叩き始め、手が空いた純平はそれをながめる。
「……そういえば、まだあと一人聞いてないな」
「え?」
「さっきの仲間の話。あと二人会ってなくて……あ、いいのか。中二が二人って話だったもんな」
 こんがらがっている純平の横で、光子郎も手を止めて記憶をたどる。自分はさっき、誰かの話をしようとしていなかったか。先輩の話か? 後輩の話か?
 根拠のない不安にかられた光子郎は、D-ターミナルのアドレス帳を開く。仲間ならアドレス帳に名前があるはずだ。それを見れば思い出すはず。
 しかし、全ての名前に目を通してもピンとくる名前が見当たらない。
「光子郎?」
「あ、いえ、なんでもないです」
 光子郎は未練を抱えたまま、D-ターミナルを閉じてカバンにしまう。
 漠然とした感覚より、今は敵の手がかりをつかまなくてはならない。
 
 
 
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フロ02だけを書いていた時から考えていた小ネタ、「純平は工場の社長の息子」設定。小6で普段着がつなぎで、チョコレートを常備できるほどもらえる家庭環境ということで考えてみました。フロ02で使う機会がなかったので、ユナイトの方につっこみました。
 
そして、今週末はtri第4章! メンタルぐさぐさくる予感がしてるのですが、とりあえずゲンナイさんのゲス顔にドッカンパンチする意気込みで見に行きたいと思います!(若干深夜テンション)