第176話 止まらない歯車 光の城が消える! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 吹き飛ばされながらも体をひねり、着地しようとする。

 が、体が思うように動かず正面から地面に叩きつけられた。ノゾムが短く悲鳴を上げる。

 両手をついて体を起こす。全身の筋肉が小刻みに痙攣している。

「何だ、今の攻撃」

 横で膝をついている兄貴の体も震えている。

 上空からマグナガルルモンの声が降ってくる。

「見ろ! あいつ、まだ攻撃手段を隠し持ってた」

 分身が両手に金色のダンベルを下げている。

「ダンベルが武器か……」

「ハンマーだよ」

 ノゾムに冷静につっこまれる。

 訂正。

 分身が両手に金色のハンマーを下げている。

 武器を頭上に掲げ、一度打ち鳴らす。ハンマーの先から灰色の雲が湧きだし、サッカーボールくらいの大きさに固まる。遠目でも雲が電気を帯び、火花を散らしているのが見えた。

 分身の肩口には、同じ大きさの雲がもう一つ。さっき俺達を吹き飛ばした攻撃はあの雲のしわざか。

 俺を相手にしてた時は手を抜いていたってことか。なめやがって。

「攻撃の種類が増えようが負けねえ!」

 神剣に炎をまとわせ、勢いよく振り下ろす。

「《ガーンディーヴァ》!」

「《エントリヒ・メテオール》!」

 分身が金色の光線を吐いて炎の軌道を変えた。その後ろから、光の短剣が群れをなして迫ってくる。

「させるか!」

 マグナガルルモンが弾丸を撃ちこむ。土煙が上がるほどの勢いに、光剣は残らず消滅した。

「闇の闘士の力を悪用する奴は俺が許さない! その力、返してもらうぞ!」

 マグナガルルモンが全ての銃口を敵に向けた。

「《マシンガンデストロイ》!」

 分身に弾丸とミサイルの雨が降り注ぐ。いくら分身が身軽でも、この弾幕では逃げきれない。

「《炎竜撃》!」

「俺ももう一丁!」

 炎の矢と衝撃波が弾幕に加わる。

「くっ……《マボルト》!」

 弾幕の中心から、三本の雷撃が走った。劣勢の中で放たれたとは思えないほど正確に、俺達三人に向かって。

「ぐあっ!」

「うっ!」

「ぐうっ!」

 焼けつく痛みとしびれに、攻撃の手が止まる。マグナガルルモンは地面に不時着した。

「あの雲、分身が指示さえ出せば勝手に照準を合わせてくれるらしいな」

 兄貴が歯を食いしばりながらも、敵の攻撃方法を見抜く。勉強では俺と同レベルのくせに、さすが炎の闘士として長く戦ってきただけある。

「だが、攻撃は直線的だ。自動的に攻撃が来るのなら、それを見て回避するだけだ!」

 マグナガルルモンが重い銃器を打ち捨てた。一本のライトセーバーを手に、迫る雷撃を避けていく。分身よりも素早く、俺が目で追えないほどの速さ。光の闘士と呼ばれる訳が理解できた。

「来るよ!」

 ノゾムの声に応えて、俺も雷撃を斜め前転で回避する。兄貴やマグナガルルモンに負けてはいられない。

 雷撃や光剣を避け、時には神剣で打ち払いながら敵に迫る。剣の刃に炎の力を送り込み、赤く燃え上がらせる。

「くらえ、《トリ…シューラ》!」

 振り下ろした剣が額の角を叩き折り、右腿へ深々と食い込んだ。

「もらった!」

 

 俺が叫んだ直後、分身の左手が神剣の柄をつかんだ。

 唖然とする俺の前で、分身がにやりと笑う。

 こいつ、痛みを感じないのか。

 俺がひるんだ隙に、分身が右腕の歯車を高速回転させた。それを俺の右ひじに押し当てた。

「ぐああああっ!」

 回転する歯車がのこぎりのように俺の肉をえぐった。剣を手放し、左手で分身の右腕をつかむ。なんとか引きはがそうとするが、全く動かない。

「信也から離れろっ!」

 兄貴が飛び込んできて、分身を殴り飛ばした。マグナガルルモンも加わって、分身を俺のそばから離す。

 俺の体は左に傾き、その場に崩れ落ちた。

 ノゾムが地面に降り、俺の右ひじの辺りへ歩み寄る。

「ひどいケガ……」

 俺も目線を右ひじに向けて、見なきゃよかったと後悔した。半分以上えぐられていて、肘から先が壊れた人形の腕のように垂れ下がっている。肘の痛みは気絶しそうなくらい強く感じるけど、肘から先の感覚がない。

 進化を保っているのがやっとの状況。剣を握るどころか、立ち上がる体力さえ残っていない。

 兄貴達と一緒に戦うと言ったばかりなのに、どうしたら。

 

 周囲に異変が起こったのはその時だった。

 俺を始点に、辺りの城の残骸がデジコードと化していく。ノゾムの足元も、戦っている兄貴達の周りも。

「何!?」

「飛べ!」

 飛行ユニットを捨てていたマグナガルルモンを抱え、兄貴が飛ぶ。分身も脚力を活かしてデジコードの範囲外へ逃れた。

「信也!」

 ノゾムの足がデジコードの渦に沈みかけている。俺はどうにか左腕を伸ばしてノゾムを手のひらに乗せた。ノゾムが急いで腕を這い上がり、肩にしがみつく。

 これは、まさか。

 俺が事実に気づいた時には、デジコードが俺の傷口になだれこんでいた。滝のように容赦ない勢いで。

「やめろ……止まれっ!」

 傷口を手で押さえても、念じても、デジコードの吸収は止まらない。

 俺が壊した中央の城も、残っていた左右の建物も、音を立てて崩れ、デジコードになって俺に流れ込む。

 デジコードが全て流れ込むまで、俺は何もできなかった。

 のろい動きで起き上がり、傷口を押さえていた手を離す。

 傷一つない腕と鎧。

 それだけじゃない。戦いの疲労が吹き飛んで体が軽い。

 俺の傍らには、手放したはずの神剣アパラージタまで再生されていた。

『世界全てがお前の力だ』

 分身に言われた言葉が脳裏に蘇る。俺が傷つくと、周りのデジコードを勝手に吸収して回復する。犠牲にするデジコードさえあれば、俺は無限に戦える。

 上手く使えば、戦いを有利に進められる。

 でも、危うく兄貴達やノゾムまで巻き込むところだった。

 それに。

 俺は辺りを見回した。

 かつてノゾムが住んでいた城は、かけら一つ残さず消え去っていた。呪われた城だったけど、200年前の繁栄を感じさせる美しい場所でもあった。

 ノゾムにとってつらい記憶のある大広間はぶっ壊しても気にならなかった。でも、楽しい記憶の残っていたテラスや食事の間まで壊そうとは思っていなかった。思っていなかったのに。

 吸収してしまったデータはもう戻らない。

「ごめん、ノゾム。やっぱり、デジコードの吸収なんてろくでもない力だ」

 吐き捨てながら神剣を拾い上げる。

「僕は、大丈夫だから。行こう」

 一番寂しいのはノゾムだろうに、優しい言葉をかけてくれるのが嬉しかった。

 俺は、ああ、と短く答えて視線を巡らす。更地になった場所で、兄貴達と敵が再びぶつかりあっている。

 俺は剣を握りしめ、戦いに加わるために地面を蹴った。

 

 

 

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小説の更新が遅々としていてすみません。アニメの感想くらいの軽い文章なら書く元気があるのですが……今年度中はこんな調子かもしれません(汗)どーにも今年度はお仕事が山場続きで、平日に書き進められない(泣)

 

アイギオテュースモンの技が《ライトニングシャワー》しかないため、闇の闘士の技とユピテルモン本体の《マボルト》をプラスしててんこ盛りにしてみました。

 

また、デジコード吸収の力がスピリット以外のデータに使用されました。吸収したデータが戻ってこない以外はデジコードスキャンと同じ原理です。なので、デジコード化した地面に立っている生き物がいたらまとめて吸収されます。

 

それからそれから、先日パラレルさんにいただいたロゴを1話冒頭に設置させていただきました。改めてありがとうございました!

第1話 時を経て! 新たな伝説の始まり