デジタルワールドで、伊織達が紋章を手に入れた頃。
大輔、チビモン、ヒカリ、テイルモン、輝二の五人は渋谷駅の改札口を出た。今日も渋谷はたくさんの人でごった返している。人の波に追いやられるように、大輔達は壁際に寄った。
「うひゃあ、これじゃ人ひとり探すのは大変だなあ」
大輔は人ごみを見回して目を白黒させる。ダスクモンか敵の隠れ家への入り口か、どちらかを探そうと来てみたが、ダスクモンの方を探すのは無理だろう。
「俺達がトレイルモンに乗ったホームに行ってみないか」
そう提案したのは輝二だった。
「でも光子郎さんが前に、そのホームは消滅したって。私達が十闘士のデジタルワールドに行けないように、敵が潰したんだろうって言ってた」
ヒカリが記憶を掘り起こして、輝二が少し黙って考える。
「それでも、敵につながる手がかりが残っているかもしれない」
ヒカリに抱えられているテイルモンが片手を上げる。
「私も賛成だ。ここまで来たんだし、一度行ってみる価値はあると思う」
「じゃあきまり! はやくいこーぜ!」
大声を出すチビモンの口を、大輔が慌ててふさいだ。
「こら、誰かに聞かれたらどうするんだよ! 人形のふりだっ」
「はあい……」
全く、すぐ忘れて話し出すんだからな、と大輔は自分のことを棚に上げて思う。
輝二が先頭を進み、地下へのエレベータに乗り込む。
ヒカリとテイルモンに、大輔が解説する。
「前は、ここから地下深ーいところにあるトレイルモンのホームまで行ったんだ」
「ボタンは地下2階までしかないけど……」
ヒカリがそう言う横で、輝二が「B2」のボタンを押した。
「一番下を押せばいい。俺は、前に来た時そうした」
「そういえば、さいしょにエレベータにのってたの、こうじだったな!」
チビモンが丸い手で輝二を指さす。
後はこのエレベータが地下2階を通り越してくれるかどうか。全員の目線が階数表示に注がれる。オレンジ色の光が一つずつ左へ移っていく。
B1
B2
・
・
文字のない黒い余白部分を、オレンジ色の点が動いていく。
「よし!」
大輔が右手でガッツポーズをする。選ばれし子どもを運ぶエレベータは、まだ機能を失っていなかった。
視線を外に向ければ、ガラスの壁の向こうは暗く、エレベータは速度を増してはるか地下へと突き進んでいく。
10秒、15秒経っても速度は緩まない。
「おかしい」
最初に言いだしたのは輝二だった。
「前に来た時はこんなにかからなかった」
「そういわれてみれば、もう着いてもいい頃だよな」
大輔もガラスの壁に張りついて下を見る。鉛筆で塗りつぶしたような暗闇があるだけで、下は見通せない。
ヒカリとテイルモンは不安げな顔で、表示の消えた階数表示を見上げている。
「ホームが壊された時に、エレベータもおかしくなったのかしら」
「それか、敵の罠か」
テイルモンの言葉に、全員が息をのむ。
「だいすけ、てんじょうぶっこわして、ここからでるか?」
チビモンが右腕に力こぶを作ってみせる。よし、と大輔もデジヴァイスに手を伸ばした。
「待て。速度が緩んできた」
輝二の言葉通り、エレベータが遅くなってきた。
どこに止まるというのか。チビモンとテイルモンが床に下り、子ども三人はデジヴァイスを握る。全員の目が扉に集まる。
微かな振動とともに、エレベータが止まった。扉が音もなく開く。
砂漠が広がっていた。地下に潜ってきたはずなのに、砂漠は地平線まで続き、頭上には曇天の空が広がっている。
「どこだ、ここ?」
「ホームとは別の空間みたいだな」
チビモンと大輔が話しながら、砂漠に足を踏み入れる。時々奇妙な形の石が転がり、不気味な雰囲気が漂っている。
「誰もいないな」
後をついてくる輝二は、油断なく辺りを見回す。
最後にエレベータを下りたのはヒカリとテイルモン。その足取りは重い。
「ヒカリ、ここは邪悪な気配の名残がある」
「私も感じる。前に出会ったことのあるような」
ヒカリの言葉が途切れた。
異変を察知して、大輔が振り向く。ヒカリは立ち止まり、一点を凝視している。大輔もその方向を見た。
黒い巨大な石が転がっていた。よく見れば、それは円筒形で塔のような形をしている。建物だったらしいそれは、高熱で炭化していた。
輝二が怪訝そうに目を細める。
「灯台、か?」
「みんな、早くエレベータに戻って!」
ヒカリの悲鳴が響いた。突然の声に、大輔達は訳が分からず立ち尽くす。
大輔の元に駆け寄って、ヒカリが懸命に袖を引く。
「早く、この世界から出よう!」
引かれるままに、走り出す大輔。輝二もひとまず後をついてくる。
「ヒカリ、どうしたんだ!?」
慌てて大輔の腰に飛びついて、チビモンが聞く。それが聞こえているのかいないのか、ヒカリはエレベータへと走りながらつぶやく。
「ここにいてはダメ。ここは、ここは――」
「っ!? 危ない!」
エレベータから殺気を感じ、大輔はヒカリの肩をつかんで伏せた。
エレベータのガラスの壁に、一瞬でひびが入り、砕け散った。伏せる大輔達の周りに破片が舞い散る。
顔を上げると、ガラスが割れたエレベータの枠組みに十字の亀裂が入った。枠組みが重い音を立てて崩れ落ちる。
その向こうに、黒い鎧をまとったデジモンが立っていた。
「ダスクモン……!」
輝二がこぶしを握り、その名前を歯の間から漏らす。
ダスクモンがエレベータの残骸を踏みこえた。足を止め、その体がデジコードに包まれる。輝二と瓜二つの少年に変わった。
薄い笑みを浮かべて、ダスクモンが大輔達を見回す。
「ようこそ、暗黒の海へ。いや、海はもう存在しないから、暗黒の砂漠とでも呼ぶべきかな」
◇◆◇◆◇◆
ども。仕事と暑さのせいで少々体調不良に陥っていた星流です。暑さの苦手な星流にとって、8/1より後の夏は消化試合です。早く秋になれ。
あ、でもだいぶ良くなりましたので、ご心配なく。今朝のニチアサ見たら元気出ました(笑)
だってゴーカイジャーのゲスト回なんですもん。もちろんM・A・Oこと市道さんと池田さんも出るのですよ。
で、特撮の撮影って撮ってからおよそ1か月後に放映なんです。つまり、9/4放映分の撮影は8月の初め頃撮ったと推測されるわけで。
ってことは7/31のイベント付近で撮影やってたわけです。映像見ながら「うんうん、こんな髪形だったね!」って思い返してます。
一粒で二度おいしいというか、デジモンと特撮両方のファンで良かったなあというか、要するに疲れが吹き飛ぶほど幸せです(笑)