拓也が見つけた洞窟の入口は、町の地下道くらいの大きさだった。太陽の光が差し込まず、奥は黒々としている。
「真っ暗だよ? 本当に入るの?」
友樹が怯えて拓也の腕にしがみつく。
「伊織、タグは反応しとるか?」
アルマジモンに聞かれて、伊織が胸元のタグを手に取る。
「! 少しだけど白く光ってる!」
「よし! 最初から当たりだな」
息をのんだ伊織に、拓也も嬉しそうに笑う。その横で友樹はため息をついた。
「それでも、この暗さでは入れませんね。懐中電灯を持ってきた方が」
伊織の言葉が途中で止まった。
その視線は拓也の顔にまっすぐ向けられていた。
「使い方を間違ってる気がする……」
先頭を歩くアグニモンは、同じセリフをもう四回も吐いていた。
全身の鎧の間からは明るい炎がちらちらと出て、進む道を照らし出している。まさに歩くたいまつである。
「あの、嫌でしたらやっぱり帰って懐中電灯を」
言いかけた伊織の言葉は、突然の揺れに遮られた。地面が揺れ、頭上から砂が降り注ぐ。
「うわああっ!」
「くっ!」
悲鳴をあげる友樹達に、アグニモンが覆い被さった。
三分後、洞窟の中は岩石と砂煙に埋め尽くされていた。
岩石の下から、かすかな機械の回転音がする。次第にその音は大きくなり、ドリルが岩石を砕きながら現れた。
片腕に伊織を抱きかかえて、ディグモンが這い出してきた。
「助かったよ、ディグモン」
「これくらいお安いご用だぎゃ」
「しっかし、派手に崩れたな」
アグニモンが辺りを見回してぼやく。
「……入口もふさがってしまいましたね」
伊織の言葉通り、元来た方向は完全に崩落している。
ディグモンが歩み寄り、崩落した土砂にドリルを突き立てる。
が、1メートルも進まないうちに土砂が不穏な地鳴りと共に崩れだしてきた。ディグモンが慌ててドリルを止め、数歩下がる。無理に掘り進むと、自分達がいる場所まで巻き添えになりかねない。
「戻れないとなると、進むしかありませんね。とりあえず京さんにメールを打っておきます」
伊織がD-ターミナルを開き、手早く文面を打ちこむ。
それを待つ間、アグニモンが進む先に目をやる。こちらも崩れてはいるが、岩の上を進めば何とか行けそうだ。
「俺達が入ったとたん洞窟が崩れるなんて、偶然とは思えない。この先何が待ってるか分からないな」
伊織の背丈ほどもある岩を乗り越えていく。ふさがっている場所は、ディグモンのドリルで穴を開ける。幸い、入口のように崩れてくることはなかった。
ディグモンの背中に乗っていた伊織がせき込んだ。
「大丈夫か?」
パートナーに気遣われて、伊織は辛そうな顔でうなずく。
「大丈夫。でも、さっきから息がしづらいんだ」
「奥は酸素が少ないのかもしれないな」
アグニモンが顔をしかめて、鎧の炎を弱める。自分の指の先が見えるぎりぎりまで絞った。炎は酸素を消費してしまう。
長居は危険だ。出口を見つけるため、ペースを速める。
炎を弱めて一つだけ良かったことがあった。伊織の持つタグの発する光が見やすくなったのだ。進むにつれ、その光は強くなっていく。
「明かりが見える!」
伊織が奥を指さし、声を上げた。カーブの向こうから、白と赤の混じった光が差している。伊織を乗せてディグモンが一歩踏み出す。
「危ない、伏せろ!」
アグニモンがディグモンの頭をつかみ、地面に伏せる。
直後、頭上を大量のコウモリが飛び過ぎた。
その攻撃が過ぎてすぐに、アグニモンが片膝をついて立つ。そばに転がっていた顔面大の岩をつかんだ。
「くらえっ!」
カーブの先へ岩を蹴り込む。誰かがひるむ声と、岩の砕ける音。
「今のうちに!」
アグニモンの声で、カーブの先へ走る。相手の見えない状態は不利だ。
カーブの向こうには、教室二つ分くらいの空間があった。天井も普通の二階分ある。
正面には古びた壁画があった。デジモンの文字がびっしり書かれている。その中心には白とマゼンタ色の紋章が埋め込まれ、光を放っている。
その前に黒くつやめいた服の女性型デジモンが立っていた。背中の黒い羽や赤い目は、さっきのコウモリ攻撃とよく似ている。
「洞窟ごと潰れたと思ってたのに。念のためここで待ってて正解だったわ」
黒衣のデジモンはそう言ってふふっと笑う。アグニモンが歯を噛みしめた。
「デーモンの手下か」
「レディーデビモン……完全体です!」
デジヴァイスを見た伊織が顔をこわばらせる。
先日戦ったマリンデビモンも完全体だったが、あの時はエアロブイドラモンとジュエルビーモンという二体の完全体と、多くの仲間がいたから勝てた。
今はディグモンとアグニモンだけ。
奥の紋章さえ取れれば伊織のパートナーを完全体にできるかもしれない。だが、そのためには立ちはだかるレディーデビモンを何とかしなければならない。レディーデビモンを倒すために紋章が必要なのに、本末転倒だ。
「さあ、今度こそ埋葬してあげる」
レディーデビモンが左手の赤い爪を掲げる。
打開策の見つからないまま、ディグモンとアグニモンは身構えた。
◇◆◇◆◇◆
どうも、お待たせしました(汗)
洞窟内でピンチに陥る拓也達ですが……本当の危機は別に起きています。きっと何名かはお気づきの通り。
あ、あと伊織と京の紋章の意味と色、進化先決まりました。カッコよく出せるように頑張ります。