第170話 少数精鋭の一点突破! いざ、城への突入 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 城を見上げるくらいに近づいて、最初に感じたのは殺気だった。

 窓の奥から、崩れたがれきの下から、俺達に殺気立った視線が向けられている。なのに、敵の姿は見当たらない。

 下がったままの跳ね橋を通り、分厚い石の門をくぐる。

 たどりついた前庭は、肌がピリピリするほど空気が張り詰めていた。

 風に乗って、どこからともなく声も聞こえてくる。

『十闘士だ』

『十闘士の気配だ!』

『攻めてきた!』

『城を守れ!』

 お化けのような透けた姿が、視界の端に現れては消える。

「ユ、ユウレイ現象じゃハラ! 死んだデジモンの怨念がこの城に染みついとるんじゃ!」

「あわわわわ」

 ボコモンとネーモンがガタガタ震えて互いにしがみつく。

「拓也お兄ちゃん」

 友樹も青白い顔をして、俺の腕をつかむ。輝二が早口にささやく。

「落ち着け。焦ったら相手にペースを持っていかれる」

「ユウレイっても透けてるんだろ。俺達に襲いかかれるのか?」

 さりげなく泉を守れる位置に立って、純平が聞く。

「来るわよ、絶対! ユウレイなのよ!? 怨念よ!?」

 その後ろで逃げ腰になっている泉。純平が大柄なのをいいことに、ユウレイの視界に入らないよう上手く動いている。

 ボコモンは本を取り出そうとしたけど、手が震えて出せない。諦めて頭の知識で答える。

「ふ、普通のユウレイ現象はちらっと見えるだけなんじゃがの。こんなピリピリするのは聞いたことがないわい。な、何が起こるかわしにも分からんマキ!」

「ということは、すぐに襲ってきてもおかしくない。進化した方がいい」

 辺りに視線を向けながら輝一が言う。俺も賛成だ。

「友樹、行けるか?」

「お化けは怖いけど……戦えるのなら、頑張る!」

「その意気だ。行くぞ!」

 六人の左手にデジコードが浮かんだ。



「ダブルスピリット・エボリューション!」


「アルダモン!」

「ベオウルフモン!」

「フロストモン!」

「ジェットシルフィーモン!」

「ライノカブテリモン!」

「ライヒモン!」



 体を包んでいたデジコードがほどけ、六体のダブルスピリットが現れた。

 その姿に、周囲の気配が色めき立った。

「かかれ!」

 誰ともなしに叫び、半透明のデジモン達が襲いかかってくる。おぼろげなその姿は、種族を判別するのも難しい。

 ボコモンとネーモンが安全な城外に走るのを横目に、俺はルードリータルパナの先を敵に向けた。

「《ブラフマストラ》!」

 熱線は正確に敵を撃ち抜いた。

 が、ユウレイは一歩よろめいただけで、すぐに殴りかかってきた。ギリギリ武器で受け止めて、打ち払ったところで切り伏せる。ユウレイは霧状になって四散した。

 顔を上げると、崩れた扉の向こうから、がれきの下から、次々と現れるユウレイ。

「ちっ、《リヒトアングリフ》!」

「《ロードオブグローリー》! さっきより数が増えてない?」

「もう、来ないでったら! 《ウルトラタービュレンス》!」

「《コンデンサストーム》! キリがないぞ!」

「《ロート・クロイツ》! こいつら、一歩も進ませないつもりらしいな」

 ダブルスピリットが束になっているにも関わらず、敵の猛攻は緩む気配がない。普通よりタフな上に、倒しても倒しても次が現れる。

 たまに城への細い道が開ける。が、「こっちだ!」と叫ぶ間に新手が道をふさいでしまう。

「アルダモン! 一旦退くぞ!」

 ベオウルフモンがじりじりと城門へ下がりだす。

 無理にでも突っ込みたい気持ちを押さえて、一度背を向ける。

 と、落とした視線が一点に引きつけられた。

 ユウレイしかいないはずの城の敷石に、真新しい子どもの靴跡が二組。

 追ってくるユウレイを切り伏せながら、城門へと戻る。

 跳ね橋を渡りきった途端、猛攻が止んだ。振り返ると、跳ね橋の上でユウレイ達が立ち止まり、うごめいている。堀から外へは出てこられないらしい。

 ほっと一息ついて、進化を解く。

「大丈夫かー!? まさか、ダブルスピリットが揃ってもかなわないとはのう……」

 待っていた二人が駆け寄ってきた。ボコモンは気味悪そうにユウレイを見る。

「本当に信也がこの中にいるのか? 無事に入れるとは思えないぜ」

 純平が信じられない、って顔で俺を見る。

「さっき足跡を見つけた。信也は城にいる」

 俺は純平をまっすぐ見返して答えた。信也が入れたのなら俺達も入れるはず、なんだけど。

 輝一が少し考えてから意見を言う。

「多分、ここまで攻撃が激しいのは、俺達が十闘士のスピリットを持っているからだ」

「そっか。このお城は十闘士に滅ぼされたんだもの。ユウレイが怒るのも当然ってわけね」

 泉がユウレイ達をちらっと見て、さっと視線を外す。「見るんじゃなかった」って顔だ。

 友樹がはっと手を打つ。

「そうか、今の信也は十闘士のスピリットを持ってないから攻撃されずに済んだんだ」

 その横で輝二が顔をしかめる。

「だが、俺達はどうやって入る? スピリットを持たずに入るのは無防備すぎる。ユピテルモンが罠を張ってる可能性だってある」

「今ので俺達が十闘士だってばれちゃってるしなあ」

 ユウレイ達は相変わらず跳ね橋の上から俺達を見張っている。人間の姿で行けば通してくれる……わけないよな。

「やっぱり正面突破しかないか」

「無茶よ。六人で力を合わせても、一人か二人、城に突入するのが精いっぱい。城の中にもきっとユウレイがいるだろうし、もたないわ」

 泉が反対する。

「じゃーやっぱり、みんなの力を合わせるしかないんじゃない?」

 ネーモンが適当なことを言って、ボコモンがもも引きのゴムを引く。

「じゃ、か、ら! それが続かないから困って……それじゃあ!」

 ボコモンが万歳したはずみで、ネーモンがゴムパッチンを食らった。

「二人だけで、みんなの力を合わせて進めばいいんじゃハラ!」

 ボコモンの言葉に、俺達もはっと顔を見合わせる。

「ハイパースピリット・エボリューション!」

 みんなの声がそろった。

 六人が進めるだけの隙が作れないなら、二人で全員分の力を発揮しながら進めばいい。

 輝一が顔を曇らせる。

「でも、今はオファニモンの力がない」

「それなら心配ない」

 輝二が自分のデジヴァイスを出してみせた。

「アポロモンとディアナモンの力がある。ハイパースピリットも支えてくれるはずだ」

 その言葉に、友樹達がうなずいてデジヴァイスを出してくれる。

 友樹が俺に真剣な目を向けた。

「拓也お兄ちゃん。信也を絶対連れて帰ってきてね」

「ああ。約束だ」

 俺は力強く笑って答える。何が待ち受けていようと、必ず信也と一緒に戻ってくる。

 全員がデジヴァイスを掲げる。


「氷は炎に! 木は炎に!」

「風は炎に! 水は光に!」

「雷は光に! 鋼は光に!」

「闇は光に! 土は炎に!」


 五対のスピリットが、俺と輝二のデジヴァイスにそれぞれ飛び込む。


「ハイパースピリット・エボリューション!」


 気合いと共に、スピリットの力が体の中に宿っていく。

 それは、俺達しかできないことを果たすための力。


「カイゼルグレイモン!」

「マグナガルルモン!」


 赤き鎧に剣を背負った闘士と、青き鎧に銃砲を背負った闘士が生まれた。

「行くぞ!」

 俺の掛け声に、そろって跳ね橋へと駆ける。

 マグナガルルモンが地面を蹴り、上空へ飛ぶ。

「《マシンガンデストロイ》!」

 一斉掃射。敵は悲鳴を上げ、瞬く間に消し飛んだ。

 その残骸も消えないうちに、俺が門の中へと飛び込む。向かい来る敵を見据えながら、背中の剣を引き抜き、地面へ突き立てる。放射状に八本の地割れが起きる。

「《九頭竜陣》!」

 八体の炎の竜が進路の敵を噛み砕く。残った敵は、俺が自らの剣でなぎ払う。

 城の玄関が視界に入る。道は開けた。

 再びユウレイが群がってくる前に、俺達は城の中に駆け込んだ。




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書きあがったー。どうもお待たせしてます。


十闘士に対してはユウレイが過剰反応するので積極的に襲ってくる→拓也達には通常でのユウレイ現象がどの程度なのか分からない→信也は入れたらしい→きっと信也は何事もなく入れたんだろう

というわけで、信也は信也で苦労してるんだって分かってもらえませんでした(苦笑)不憫。


今回はタイトル通り、ハイパースピリットによる一点突破です。全員がダブルスピリットできるようになっても、どこかでハイパースピリットを出したいと思ってこういう展開にしてみました。

「The Last Element」カッコいいです。