「信也ー!」
「いたら返事してー!」
友樹と一緒に、声を張りながら広間を歩く。誰も住んでいない城はあちこち崩れていて、しかもほこりっぽい。友樹がせき込んだ。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと、拓也お兄ちゃん」
俺が聞くと、友樹は胸をさすって答えた。その後、不安そうに辺りを見回す。
「信也、ここには来てないんじゃないかな。こんなボロボロでお化けでそうな場所に長居したくないもん。あっ、信也を探すのが嫌って言ってるわけじゃないよ!」
「分かってるよ。心配するなって」
慌てて説明する友樹に、俺は笑って答えた。
友樹も一瞬笑って、でもすぐに暗い顔になった。
「信也は、こんな風に探し回られて迷惑じゃないかな」
「あいつが仲間のそばから逃げたからか?」
俺がはっきり言うと、友樹は間を開けて、うん、とつぶやく。
「信也がいなくなってすぐ、純平さんに言われたんだ。進化できる僕達が会っても信也には辛いだけだ、って。信也がユピテルモンに狙われてるって分かったから探しに行かなきゃいけないけど、それって、信也にとっては嫌なことかもしれない。僕、どうするのが一番なのか分からなくなってきちゃった」
言葉を一気に吐き出して、友樹が黙り込む。俺の答えを聞きたそうに見上げてくる。
ほこりを立てないように歩きながら、口を開く。
「信也は、友樹や純平が思ってるほど強くない」
「え?」
「あいつ、人前では元気いっぱいだし、強気の言葉ばっかり言うけどさ。実はすごく寂しがり屋で甘えん坊なんだ」
友樹は不思議そうな顔をしたまま、黙って話を聞いている。
「俺が前の冒険で急に成長したから、あいつ焦っちゃって、それで精一杯背伸びしようとしてるんだ。弱いところ見せないように、周りに一人前だって認めてもらえるように。でも、根っこは昔のままだよ」
さびついたドアを、肩で押してこじ開ける。長い廊下の片側に、ホテルみたいに客室が並んでいる。端からドアを開けて回るけど、ベッドは使った気配がない。
「本当は誰かにそばにいてほしいんだ。……俺達兄弟が離れてずいぶん旅をしてきた。そろそろ会ってもいい頃だ」
いくつめかのドアを開けて、すぐにベッドが乱れているのに気づいた。早足で部屋に入る。
二つあるベッドのうち片方は、布団の枕側が膨らんでいて、抜け出した形そのままだった。信也が寝てたんだなってすぐ分かる。
「信也はここに来てたんだ」
あいつ、母さんに何回言われてもこの癖が直らないんだ。
もう一つのベッドも、シーツにしわが寄っていた。信也と違って整えてある。
「信也と一緒に旅してる人間の子ども、か」
「トゥルイエモンの推測だと、その子にスピリットが埋め込まれているんだよね。それも、外からデータを送り込めるスピリットが」
友樹の言葉に、二つのベッドを見比べながら頷く。
その子どもが何者なのかは分からない。でも誰だろうと、会ってみないと判断できない。情報が少なすぎる。
「二人がどこに行ったのか、手がかりを見つけないと」
「これは?」
友樹がテーブルの上から巻物を持ち上げた。広げたままになっていて、地図が書かれている。
「あれ、さっきから置いてあったっけ?」
俺は地図を見ながら頭を掻く。俺が入ってきた時には、テーブルの上には何もなかったような気がしたけど。
「うーん、見落としてたのかな」
友樹も首をかしげる。
それより地図だ。古い地図に、バラの明星や永遠の城が書き込まれている。もう一つ、ここから南西に行ったところに城が書かれている。
信也達がこの地図を見たのなら、南西の城に行った可能性が高い。
地図を持って外に出た。みんなはもう探索が終わって戻ってきていた。
純平と泉は疲れた顔をしている。
「こっちは全然だったよ。道に迷ったあげく、地下の貯蔵庫に行っても何にもないんだもんな」
「空っぽの酒だると干からびた肉しかないの。二百年くらい使ってませんって感じ」
ホントこのお城やんなっちゃう、と泉のグチが続く。俺は素直に同情した。
「大変だったみたいだな。こんな誰もいない廃墟じゃ仕方ないけど」
「僕達は信也の手がかりを見つけたよ!」
友樹がつかんだ情報を伝えると、輝二が続けて話した。
「中庭にたき火の跡があった。鍋や器も。ほんの二、三日前の跡だ。まだ遠くには行っていない」
「南西じゃったら、そっちに伸びる道があったハラ。歩きだと二日くらいの距離のところに、光の城というのがあるはずじゃ」
外を調べていたボコモンが南西の方を指さす。二日くらいの距離。たき火は二、三日前。
ってことは今頃、信也達は光の城に着いてるのか。
「その光の城ってどういう場所なんだ?」
輝一がボコモンに聞く。
「昔、ルーチェモンが住んでいた城マキ。もっとも、古代十闘士との戦いでここと同じように破壊されたらしいがの」
「また廃墟かよ」
「オレもやだ……」
純平とネーモンがげんなりする。横で泉が「文句言わない。信也を見つけるためだもの」と言い聞かせている。……でもどっちかっていうと、自分に言い聞かせているように見える。
「みんな、ここからはデジモンになって行こう。信也達が歩きで行ったのなら、急げば追いつける」
俺がデジヴァイスを出すと、全員が表情を引き締めて自分のを取り出した。
「あ、僕はヴリトラモンに乗せてもらった方が速いかな」
友樹だけがぺろっと舌を出してデジヴァイスをしまった。
確かに、チャックモンやブリザーモンで長距離はなあ。
みんなが苦笑してから、手にデジコードを呼び出す。
「スピリット・エボリューション!」
「ヴリトラモン!」
「ガルムモン!」
「フェアリモン!」
「ブリッツモン!」
「カイザーレオモン!」
俺が友樹を、ガルムモンがボコモンを、カイザーレオモンがネーモンを乗せる。
南西の光の城を目指して、スピードを上げて飛んだ。
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今回は拓也サイド@永遠の城でした。しばらくは信也視点と拓也視点を1話ごとに交互に出す予定です。
前に話題に上がっていたコップのふちのデジモンを作ろうとしたら、思った以上にホラーなものが出来上がって凹みました(泣)お、おっかしいなー、どうしてこうなったんだろう。