第156話 舞い降りる風のしずく! 一筋に貫け | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 弓だった武器はもうない。

 でも、氷の矢はまだディアナモンの背に残っている。

「氷の矢を、私の風で打ちこむ」
 鋭い矢に速度を加えれば、敵のクリスタルを砕けるかもしれない。

 私の言葉に、ディアナモンが背中の矢を一本抜いた。敵に目を向けたまま、手渡してくれる。

「矢尻に直接触れるな。自分の手が凍りつく」

「一本だけ?」

 慎重に受け取りながら、聞いた。他にも矢は残っているのに。

 ディアナモンがふと目を細めた。

「アポロモンが言っていた。矢を本当に当てたい時は、ただ一本の矢を持て、と。二本持っていると、次があると油断してしまう。この一本の矢で仕留めるという気持ちでやるんだ」

 空も飛べず、進化を保つのも苦しい状況。油断なんて生まれるだろうか。

 ううん、気づかないうちに周りに頼ってしまうのが私の悪いところ。自分を追い込むくらいじゃなきゃ、全力を尽くせない。

 矢を一本だけ手にして、頷く。

 ディアナモンが立ち上がった。

「私が接近戦をしかけて、《グッドナイトムーン》を打ち込む。鈍ったところを狙え」

「気をつけて」

 私の言葉を背に、ディアナモンが飛んだ。

 アイギオテュースモンの突進をひらりと避ける。

 その間に、私は矢を構えた。右手を矢尻のそばに、左手を矢羽の方に、両手で握りこむ。


 細く息を吸う。風を圧縮して矢を包み込んでいく。渦巻く風に、矢が小刻みに震えた。

 震えていては駄目。繊細に、まっすぐに、強い風を。

 矢と敵と、それだけに意識を絞っていく。他は視界の端で白くにじんで消える。

「やっとまともなレベルまで戻ってきたじゃない」

 右から沸いた声の主は、顔を向けなくても分かった。

「ラーナモン。そっちこそやっと話しかけてきたと思ったら皮肉?」

 ラーナモンがけらけらと笑った。

「だって最近のあんた、ホントへなちょこだったんだから。私が本気出さなくたって勝てそうなくらい」

 悔しいけど、否定できない。

 でも。

「もうそんなこと言わせない。最後まで本気で戦いぬく」

 矢を握る手に力を込める。ラーナモンが小さく、満足そうに息を吐くのが聞こえた。

「その意気なら心配いらないわね。私が力貸してあげるんだから、しっかりやりなさい」

「はいはい」

 憎まれ口と適当なあしらいの応酬。だけど、これが私達の信頼の形だ。

 ラーナモンの気配が正面に移動した。虚空から水のスピリット二つがにじみ出る。左右からは、スピリットから生まれた風の渦巻く音。

 四つのスピリットの力、この一撃に込める。


 自分の体がデジコードに包まれる。スピリットが両手両足に吸い込まれ、グローブとブーツをかたどる。翼は硬い流線型に変わる。

「《グッドナイトムーン》!」

 視界の先でアイギオテュースモンがよろめいた。膝の月をきらめかせ、ディアナモンが離れる。

 私の手の中で、矢がしんと静まった。青いクリスタルを見すえる。

Andiamoアンディアーモ(行く)!」

 溜めた風が弾けた。

 氷の矢は一寸の狂いもなく走り。

 クリスタルの中心を貫いた。

 八方にひびの入る音が、私には聞こえた。

 アイギオテュースモンが片膝をついた。ディアナモンが私へ視線を向ける。

 まとっていたデジコードが消え、白くなめらかな装甲が現れた。


「ダブルスピリット・エボリューション――ジェットシルフィーモン!」


 風のダブルスピリットは、速さの超越という形で誕生した。妖精と鳥人を上回る、機械仕掛けのジェットストリーム。

 アイギオテュースモンが氷の矢を引き抜いて捨てた。けれど、赤い鎧は力を失い灰色に変わる。体の周囲にデジコードが現れた。

 ディアナモンがそのそばに着地する。私もゆっくりと近寄る。遠目で見るディアナモンは、悲しそうに見えた。

「この手で、アイギオテュースモン様を討つ日が来るなんて」

 敏感になった私の耳に、ディアナモンのつぶやきが届く。分身だと分かっていても、かつて仕えた相手を傷つけるのは気がとがめたんだろう。


 ただ、分身には感情などなかった。

 敵の手がディアナモンの足をつかむ。

 もう一方の手で雷の槍を生み、ディアナモンの胸を貫くまで一瞬。

「っ! ディアナモン!」

 私は翼のタービンを急激に回転させた。左の翼が引きつれて痛い。でも、気にしてなんていられない。

 低空を飛んで、一気に接近する。両手を腰の横に引き、風圧を溜める。

「《ジェットビンター》!」

 突きだした両腕を射出する。アイギオテュースモンの顔面をとらえ、ディアナモンから引き離した。

 倒れるディアナモンをかばう位置でブレーキをかける。戻ってきた腕を収め、その手の中にデジヴァイスを呼び出す。

 

 けれど、スキャンするより早く、アイギオテュースモンはデータの欠片も残さず消え去った。分身だったせいか。

 敵の最期を見届けてから、私はディアナモンへとふり返った。胸の装甲に焼け焦げた穴が開き、無力に倒れている。

 私は駆け寄ろうと左足を踏み出した。

 なのに、急に力が入らなくなる。進化も解けて、私もその場に倒れ込んだ。

 足が、腕が、左半身の感覚がない。


「泉ちゃん!」

「泉さん!」

「ディアナモン様!」

 誰かが呼んでる。それに返事をする力もなく、私は気を失った。




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やっと! とうとう! 泉のダブルスピリットが出せました。

水のスピリットを手に入れたすぐ後に、「これで水のスピリット使って風のダブルスピリットすれば、まさに『風のしずく』だ!」と思って、サブタイトルもその時から決まっていて。ようやく出せて満足です。長かった。

風車は出そうと思ってたんですが出す隙がありませんでした(泣)また今度出します。


ですが、ダブルスピリットを喜んでいられる状況でもありません……。気づけば男子以上に体を張っている泉。次回も彼女視点です。


今回初登場のデジモン

ジェットシルフィーモン