第154話 一人になる時 月の過去と風の未来! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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「甘い考えだ」

 私の言葉は、ディアナモンにあっけなく否定された。

「他の仲間は強い。自分はサポートに回っていればいい。そんな気持ちの見える戦い方だった」

 私の戦いを見て、ディアナモンは気づいてたんだ。私が、いざとなったら仲間が助けてくれるって思っていたことに。

「でも私、手を抜いてるつもりなんてなかった。さっきだって、船に乗ってるデジモン達を助けるために必死で」

「だがあなたはビーストスピリットを使わなかった」

「それは」

 一瞬言葉に詰まってから、言い返す。

「スライドエボリューションする時間がもったいなかったからよ。船がいつ壊れるか分からなかったじゃない」

「最初からビーストスピリットを選んで進化することもできたはずだ」

 確かに、進化する時にシューツモンを選ぶこともできた。でも私はそうしなかった。

 なぜ? ……無意識のうちに、全力を出さなくてもいいって思っていたから?

「そんな。デジモンの命がかかっていたのに、手を抜いてたなんて」

 ショックで、認めたくなくて、私は毛布に顔をうずめた。でも否定できない。純平達に甘えていた自覚がないとは言えない。

 ディアナモンが淡々と言葉を続ける。

「自分が手を出すまでもない戦いなら、そんな甘い心構えでもいい。だがもし、あなた以外の仲間が全て倒れてしまったら? デジモン達が頼れるのがあなただけになってしまったら? その時には、自分が弱くてもいいなんて考えは通用しない」

 純平や友樹や、みんながいなくなる?

「やめてよ、私一人になるだなんて。あるわけ」

 言いかけてから、やっと気づいた。初対面のディアナモンが、どうして私を呼び出してまで話をしたがったのか。

「あなた自身がそうなのね。頼っていた仲間がみんないなくなってしまった。デジモン達を助けるためにはディアナモンが動くしかなかった。弱気になんて、なってる場合じゃなかった」

 オリンポス十二神族のうち、九人が消え、一人は行方不明。一人は世界を崩壊させた元凶。残ったのはたった一人。

 ディアナモンが小さくうなずいた。左側、トレイルモンの進行方向とは逆に顔を向ける。


「私は昔から引っ込み思案で、コロナモンの――アポロモンの後ろに隠れてばかりだった。反対にアポロモンは一度決めたら絶対に曲げない性格で。私は彼に置いていかれたくない一心で戦場に飛び込んだ。十二神族の末席に加われたのも、アポロモンの推薦があったおかげだ。

 神の座についてからも、私はアポロモンに頼りきりで、自分から動くことはなかった。雲上の種族はユピテルモン、ユノモン、メルクリモンと有能な方が揃っていた。私は彼らを手伝っていれば良かった」

「でも、みんないなくなってしまった」

 私のつぶやきに、ディアナモンは膝の上に目を落とした。

「十闘士との戦いが始まって、神が次々と倒れていっても、私は自分で考えようとしなかった。ユピテルモンが指導していることだから、間違いはない。いずれ終わる。そう信じていた。胸に致命傷を負ったアポロモンを見つけるまで」

 ディアナモンが目を細め、両手を握りしめる。私の胸もつられて苦しくなった。

「私は必死にアンブロシアを傷にすりこんだ。しかし、数時間命を長らえさせるのが精いっぱいだった」

 一度泣きそうになったのを飲みこんで、ディアナモンが続ける。

「その時に、致命傷を与えたのはユピテルモンであると教えられた。アポロモンは私が止めるのも聞かず、最後の命を十闘士のために捧げた」

 冷静に話そうとしているけど、その目が潤んでいる。

「悔やんでも遅かった。私が持てる全てを尽くして行動していれば、アポロモンを失わずにすんだかもしれない。民に呼びかけた時もそうだ。以前から他に甘えず、十二神族としてもっと民と関わっていれば、離反者も出ずにすんだかもしれない」

「もしもの話をしても、仕方ないわ」

 辛そうなのを見ていられなくて、私はゆっくりと言葉をかけた。過去を悔やんだって、どうしようもない。

 私の慰めに、ディアナモンがうなずく。その動作がディアナモンの癖らしかった。

「そんな私だから、あなたが心配になった。このまま仲間に甘えたままで、私みたいになってほしくない。仲間を失ってから気づいても、遅い」

 私は毛布の中で指を伸ばし、デジヴァイスに触れた。風のスピリット、水のスピリット、ダブルスピリットのプログラム。新しい進化に必要なものはそろってる。あとは、私がそれを発動させられるか。全力で戦う姿を見せられれば、ラーナモンも力を貸してくれるかしら。



 急にディアナモンが立ち上がった。どうしたの、と聞くまでもない。武器を握り、空の一点を見すえている。私も視線をやると、上空にデジモンの影が見えた。遠くの点だったのが、近づいて大きくなってくる。

「さすがはユピテルモン様だ。もう次の手を打ってこられた」

 ディアナモンの声には虚ろな響きがあった。

 でも、私に向けた目は力強かった。

「いけるな」

「もちろんよ」

 私は毛布をはねのけて屋根の上に立った。冷たい風が髪を揺らす。ダブルスピリットができてもできなくても、自分が真正面に立って戦おう。

 左手に何輪も重なるデジコードを呼び出す。


「スピリット・エボリューション!」

「シューツモン!」


 体を包んでいたデジコードが消える。その頃には、敵の外見も分かるほどに近づいてきていた。

 以前見たことのあるデジモンだった。純白の獣型デジモンで、背中には体と同じ色の翼が一対。青い目と黄色いくちばしのその顔には、いい思い出がない。

「ヒポグリフォモンね……。背中にいるのは?」

 背中にはもう一体デジモンが乗っていた。こちらは人型デジモンで、上半身と顔の左半分が赤黒い繊維状の鎧に覆われている。銀色の長髪が風になびいていて、頭にはりっぱな角が三本生えている。

 私がデジヴァイスを取り出す前に、ディアナモンが答えをくれた。

「あれは赤きアイギオテュースモン。ユピテルモンが進化する前の姿だ」

「じゃあ、あれがユピテルモン本人?」

「いや、分身だろう。彼のデータとウルカヌスモンの研究成果があれば不可能ではない」

 車内でも敵襲に気づいたらしい。窓を開けて、純平が身を乗り出した。

「フランケン! 止めてくれ! 俺と友樹も降りる!」

「待って!」

 純平が大声を出すのを、呼び止めた。

「トレイルモンを止めたら、客車のみんなが狙い撃ちにされるわ。一度、私とディアナモンで食い止める」

 純平は私を見上げて、心配そうに眉尻を下げた。でも表情を引き締めて、私を信じてうなずいてくれた。

「分かった、でも気をつけて! 安全な場所まで移動したら、俺達も戻ってくるから!」

 フランケンが汽笛を鳴らし、速度を上げる。

 私とディアナモンは屋根を蹴り、敵を迎え撃つため飛びたった。




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次回は空中戦第二弾です。さんざん登場していたアイギオテュースモンですが、やっと本編で名前が出ました。


そうそう、セリフ付きPV公開になりましたね。私的にはそんなに違和感ないし、テンション上がってきた感じです。あと、やっぱり大吾先生はただの非常勤講師じゃない模様。




今回初登場のデジモン

アイギオテュースモン

ヒポグリフォモン