第151話 出発と遭遇! トレイルモンの駆ける先に | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 次の日の昼過ぎに、俺は荷物をまとめ終わった。日の差さないエリアでも洗濯物はちゃんと乾いてくれた。

 エナメルバッグと二人分のリュックサックを背負って、外に出る。すぐの空地にノゾムがいるのを見つけた。

 声をかけようとしたけど、真剣な表情を見てやめた。銃を構えて、前をじっと見つめている。視線の先には、垂直に削られてのっぺりとしている一枚岩。そこにひとつだけ、錆びた手錠がぶら下がっている。

 ノゾムが引き金を引いた。連続して光弾が飛び出す。時々手錠に命中して、パチッと静電気みたいな音が立つ。

 何発か撃ったところで息を吐き、銃口を下ろした。

「十発中、二発命中。初心者にしちゃましな方だ」

 壁にもたれて座っているおっさんが、そう言って酒瓶を傾けた。だらけているようでいて、撃った数と当たった数をカウントしていたらしい。

「そうだ、弾は充電されてるのか? ここ、太陽の出ないエリアだけど」

 俺が聞くと、ノゾムが銃のメーターを確認した。

「されてる。言われてたより、ゆっくりだけど。あと七発になってる。あ、洗濯物、ありがとう」

 ノゾムは銃をしまって、俺からリュックサックを受け取った。肩に背負う動きも、だいぶ手慣れてきた。

「行くのか、光の城に」

 おっさんに聞かれて、俺は肩をすくめた。

「ああ。他にあてもないし」

 それに、このエリアに来てからまだ追手の襲撃がない。俺達がこのエリアに着くよう進路変更は仕掛けてきたけど、それで精一杯。作戦の修正が間に合っていないんだろう。その隙に少しでも先に進んでおきたい。

 おっさんは、そうかとも言わずに酒を飲んだ。自分で聞いといてひどい態度だ。

「行こうぜ、ノゾム」

 俺はおっさんに背を向けて、さっさと歩き出す。

「う、うん。おじさん、ありがと」

 ノゾムも一度おっさんにおじぎして、後をついてきた。

「あの頃より、ずっといい顔をしている」

「え?」

 おっさんのつぶやきが聞こえて、ノゾムが振り返った。俺もつられて振り返る。

 でも、おっさんの姿はもうどこにもなかった。

「あれ、さっきまでそこにいたよな?」

「お城の中、入っちゃったのかな」

 辺りを見回すけど、酒瓶ひとつ見当たらない。最後まで自分勝手なおっさんだぜ。

「ま、いいか。見送りも期待してなかったし」

 肩をすくめて、俺達はさびれた古城を離れた。




―――




 アポロモンとの戦いから一晩明けた昼過ぎ。ベッドで休んでいると、デジヴァイスに輝一から通信が入った。十二神族の世界崩壊の原因をざっと話した後、「一度集まって話がしたい。トゥルイエモンの城に来てほしいけど、泉の体調が悪いのなら俺達がそちらに戻る」と言われた。

 私は大丈夫。そう言おうとしたのに、その場にいた純平に止められた。

「昨日の今日でまだ具合悪いだろ。ちゃんと休まなきゃ」

「またこっちに来させるのは輝二と輝一に悪いわ。二人とも移動続きで全然休めてないはずよ」

 輝一は私達と一緒にエンジェモンの城から来て、戦闘の後トゥルイエモンの城に直行した。輝二は同じルートを、私達より急ぎで移動している。

 そう説明したのに、純平はまだうだうだ言ってくる。

「でも、左肩に大きなあざができてるって聞いたよ。友樹のスピリットは持っていけるにしても、やっぱり泉ちゃんはここに残ってしっかり傷を治してから」

「しつこいっ!」

 いい加減イラッときて、右ひじを純平のみぞおちに叩き込んだ。左肩が痛んだけど、なんかもうどうでもいい。これだけ心配されると、逆に平気だって言いたくなるわ。

 みぞおちを押さえた純平が、ぐああってうめきながら崩れ落ちる。

 友樹が勢いよくドアを開けて入ってきた。

「純平さん泉さん! ナノモンが結界の調整してくれたよ! もうスピリット持っていっても大丈……えっと、何があったの?」

「純平に聞いて。私、知らなーい」

 私は腕を組んでそっぽを向いた。




 純平を半分物理的に説得した結果、こっちがトゥルイエモンの城に行くという話になった。

 翌朝三人で、トレイルモンのフランケンに乗りこんだ。

 アキバマーケットからトゥルイエモンの城までの最短路線は、氷のエリアの最北を縦断するルート。 寒さ対策のために、客車も特別仕様だ。ドアや窓が分厚くなっていて、車内の中心には柵に囲まれたダルマストーブがある。のぞき窓を見ると、石炭が明るく燃えているのが見えた。ストーブとしては普通の大きさなんだけど、アキバマーケットのあれを見た後だとかわいらしく見える。

 更に、座席には人数分の毛布も用意されていた。北に行くともっと寒くなるんだろう。座って毛布をひざにかけた。
 ジジモンや町のみんなが見送ってくれる駅に、汽笛が響く。

 次の目的地に向けて、トレイルモンは出発した。




 窓の外はどこまでも白い雪景色で、見ていても退屈するだけだった。

 純平と友樹はストーブで温めたお弁当を食べるまでは元気だったんだけど。その後満腹と眠気に負けてぐっすり寝ている。

 私は一人列車に揺られながら、自分のデジヴァイスを見つめていた。紫色の、自分の一部みたいに使い慣れたアイテム。中には風のスピリットと、ラーナモンが貸してくれた水のスピリットがある。補助スピリットを最初に手に入れたのは私だけど、いまだにダブルスピリットは発動しない。

 でも信也と違って、ダブルスピリットできないことに焦ってはいない。できればもっと戦いは楽になるだろうと思うけど、みんなが強くなってくれるから、正直言って危機感もあまりない。この間の戦いも、私が気絶した後で友樹が勝ってくれたし。

 二年前だって、私はそんなに強い方じゃなかった。自分一人で勝てたって言えるのはラーナモンとの戦いだけ。風のスピリット自体、素早さはあるけど攻撃力は大してない。だから敵と正面切って戦うより、仲間のサポートをする方が向いている。ダブルスピリットがなくても、手助けさえできれば十分。

 気楽に息をはいて、デジヴァイスをワンピースのポケットにしまった。


 でも、手がデジヴァイスから離れる前にトレイルモンの大きな汽笛が鳴った。びくっとして、反射的にデジヴァイスを握った。

「ふわ、え? 何?」

「いきなりどうしたんだよ!」

 友樹と純平もあまりの音量に跳ね起きた。

「外だ! 空で誰か戦ってるぞ!」

 トレイルモンのフランケンの声。私は窓の取っ手に手をかけた。でも二重ガラスになっていて、重い。純平が代わりにつかんで押し上げた。外のしんと冷えた空気が吹き込んでくる。私は空いた窓から身を乗り出した。

 トレイルモンの進行方向。空に帆船が飛んでいた。赤黒い海竜デジモンがその胴体に絡みつき、締め上げている。ふらつきながら飛んでいるけど、今にも墜落しそうだ。

 誰なのかは分からないけど、見捨てるわけにはいかない。

「フランケン、列車止めて! 進化してあそこに行くわ!」

 先頭のトレイルモンに、私は精一杯声を張り上げた。




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更新が遅れ気味ですみません。全ては気力を奪っていく暑さのせいなのです。ホントもうなんなんでしょう。メラモン系統が全員そろって盆踊り踊ってるんじゃないかしら(錯乱気味)


おっさんの正体は不明のまま退場です。作者の中では設定あるんですけど、はっきり書くとヤボになりそうなので……。後々推測できるだけの情報は出す予定です。


そして、コラボ編以来じゃないか? というくらい久々の泉視点です。しばらく彼女目線での展開になります。