第149話 渾身の料理よ届け! 二人と一体の昼食会 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「肉リンゴにスープキャベツ、ジャガモンイモか。よし、鍋をフライパン代わりにして野菜炒めでも作るか」

「コンソメスープ」

「え?」

「コンソメスープ」

「あー、この材料があれば作れなくはないな。でも、おっさんにうまいもの食わせるってタンカ切ってきたから。ここは気合い入れたもん作らないと」

「コンソメスープ」

「お前、どんだけコンソメスープ気に入ってるんだ」

「スープ。コンソメスープ」

「俺は……今日は野菜炒めの気分、なんだけど」

「コンソメスープがいい。コンソメスープ食べたい」

「わーった! その代わりちゃんと手伝えよ」

「うん!」

 ノゾムは声を弾ませてうなずいた。

 頑固というかワガママっていうか……ったく誰に似たんだ。




 中庭には枯れて倒れた木が何本もあった。落ちていた枝を拾って、敷石の上でたき火をおこす。

 その間に、ノゾムは鍋で川の水をくんできて、コンソメ味のスープキャベツをちぎった。

 俺はナイフでジャガモンイモを薄く切って、スープキャベツと一緒に火にかける。塩味の肉リンゴも少し入れた。

 それが煮立つ頃に、おっさんが酒瓶とどんぶりを手に下げてやってきた。匂いをかいでるとも鼻を鳴らしてるとも取れる音を立てる。たき火のそばにどっかと座って、「よそえ」と言わんばかりにどんぶりを突きだしてきた。

 俺はおっさんに見えない角度でこっそり笑った。どんぶりは三つあった。

 おたまもスプーンもないから、直接鍋を傾けてよそう。鍋の底に残った具は残っていたキャベツの葉でかき出した。

「あちっ」

 さっそく口をつけたノゾムがやけどした。舌を出して顔をしかめている。

「冷ましてから飲めよ。スープは逃げたりしないから」

 自分のに息を吹きかけながら、言ってやった。ノゾムは俺の真似をしてふぅふぅとスープを冷ます。

 おっさんがズズッと音を立ててすすった。味をみるように止まってから、また口をつける。

「おいしいでしょ。信也は料理上手なんだよ」

 ノゾムが嬉しそうに話しかけたけど、おっさんは返事をしなかった。黙ってコンソメスープをすすっている。

 でも俺は知ってる。人間もデジモンも、本当にうまいものを食べてる時は無言になるんだって。二口三口と飲んでるのは気に入った証拠だ。

 暗い真昼の空の下、しばらく無言で食事をかきこんだ。


 どんぶりが空になった後、おっさんは酒瓶に口をつけ始めた。俺とノゾムは川で鍋とどんぶりを洗って、鍋の中にどんぶりを伏せておいた。それを抱えて戻り、残り火に当たる。

「お前ら、遺跡荒らしでもないのに何でここらをうろついてる」

 おっさんがぽつりと聞いてきた。何で、と言われても簡単には説明できないんだけど。

「僕の過去の記憶を探してるんだ」

 どう話そうか迷っている間に、ノゾムが答えた。おっさんの目がサングラス越しにノゾムを見やる。

「覚えてねえってか」

「うん。信也に会うまでの事、ほとんど」

 ノゾムは顔をしかめた。

「で、思い出したいってわけか」

 おっさんはくつくつと笑って酒をあおった。その言い方に腹が立った。

「当たり前だろ。自分の家も名前も知らないとか落ち着かないし。それに、俺達が追われてる理由だって、過去に関係してるかもしれないんだ」

「知らない方が幸せだったりしてな?」

 俺の怒った声にもにやついたまま、おっさんは俺達を見た。気味が悪くなって、俺達は体を引く。

「僕のこと、何か知ってるの」

 ノゾムが小さな声で聞く。たき火が崩れて暗くなった。おっさんの声だけが前と変わらずに響く。

「さぁなぁ。だが何者でもないってのは気楽だぞ。自分が誰か知れば、そこから逃れられなくなる」

 言って、一人楽しそうに笑う。

 それで頭に浮かんだのは、ノゾムより自分のこと。

 拓也の弟。

 二人目のアグニモンでヴリトラモン。

 スピリットの全てを力に変えられる人間。

 同時にスピリットを崩壊させる人間。

 ユピテルモンに追われる一人。

 そしてスーリヤモン。

 色んな自分が、記憶が俺にまとわりついている。友樹達のそばを離れても、事実からは逃げられない。

 もしこんな思いをするなら、ノゾムは思い出さない方がいいのか?

 ……でも、それを決めるのは俺じゃない。

 俺はノゾムに目を向けた。

 おき火に照らされて、ノゾムの顔は赤黒く見えた。表情はこわばっているけど、その目はまっすぐにおっさんを見ている。

「それでも僕は知りたい。自分が誰なのか」

「くあっはっははは!」

 おっさんはとうとう大声を上げて笑い転げた。日の差さない空を見上げて、思うぞんぶん感情を吐き出していく。

「お前なっ……!」

 俺はたき火を飛び越えておっさんの腕をつかんだ。こいつにうまいもの食わせようと思った俺がバカだった。人が真剣に悩んでることあざ笑いやがって。

 間近にすると、おっさんは俺より頭二つ低かった。腕を振り払いもせず、俺を見上げてくる。笑い声は止まっても、その口にはまだ笑みが張りついていた。

「気に入った。記憶を探すためにこんな廃墟にまで来たんだ。手がかりの一つや二つあるんだろ? 言ってみな。オレから教えてやれることがあるかもしれんぞ」

 ユピテルモンを頼る方がまだましだぜ。

 言いたくなったのを、俺はどうにか飲み込んだ。




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リアルがどたばたしてて、執筆遅れました。キリのいいところまでということで短めです。

この話を書き出した当初はもう少し素直な人格の予定だったのに、書けば書くほどひねくれていくおっさん……。こいつを頼っていいのか、作者まで迷いだしそうです(苦笑)

次話で続いての目的地が決まる予定。



さて、座談会の質問受け付けは次回150話の更新までです。送りそびれているという方はお忘れなく。