拓也との通信がつながった。輝二はトゥルイエモンに補足してもらいながら事情を説明している。俺まで加わる必要はなさそうだ。
ふとユニモンに目をやる。まだ床にうずくまったままだ。自分が知らず知らずのうちに世界の崩壊に手を貸してたなんて、落ち込んで当たり前だとは思うけど。
俺はユニモンの目の前でしゃがんだ。ユニモンが顔を上げて、バイザーと目が合う。
「ありがとう」
「え?」
いきなりの言葉に、ユニモンがきょとんとした。
「いや、まだお礼を言ってなかったなと思って。輝二と拓也を連れてきてくれて、ありがとう」
この城に来るまでに大体の事情は聞いていたけど、きちんとお礼を言う暇がなかった。
自分達の世界のことだけで精一杯のはずなのに、会ったばかりの人間を運んできてくれた。ユニモン、その主君らしいネプトゥーンモン。二人がいなかったら、輝二達は今頃どうなっていたか分からない。
「俺が輝二に再会できたのは君達のおかげだ。本当に、感謝してもしきれない」
「そんな面と向かって言われると……照れるじゃないですか」
ユニモンが恥ずかしそうにあごを引いた。
「お礼にできることがあったら俺に言ってくれ。君が俺達のために頑張ってくれたように、俺も君や君の世界を手助けしたいんだ」
俺が言うと、ユニモンのバイザーの明かりがまたたいた。
「そう、ですね。僕や僕の世界のためにできること。うずくまってるだけじゃなくて、考えないと」
その答えを聞く前に、輝二が通信を終えて戻ってきた。
「拓也が合流すると言ってる。風のエリアでは信也を見つけられなかったらしい。今晩、ここにデジヴァイスのゲートを使って呼び寄せる」
ゲート、と言われて一瞬ピンと来なかったが、思い出した。輝二達がここに帰ってくる前に、立ち寄った世界でもらったプログラムだ。確か、一方の居場所に一瞬で移動できるとか。
自分の方針を決めたところで、輝二が俺達に話を振る。
「輝一とユニモンはどうする?」
「拓也がここに来るのなら、友樹達も呼ぼう。一度みんなで集まって情報交換とか作戦会議とかしたい」
俺はすぐに答えた。氷のエリアも今は通信がつながる。
ただ、泉の体調だけが心配だ。必要なら俺達の方がアキバマーケットに戻るべきかもしれない。
とにかく聞いてみよう。俺は自分のデジヴァイスを取り出した。
そこにユニモンが顔を寄せてきた。俺のデジヴァイスを、真剣な目でじっと見つめている。
「どうしたんだ?」
「これと通信できるものを、僕にもいただけませんか?」
「何故だ? どこかに行くのか?」
輝二が聞くと、ユニモンは力強く頷いた。
「僕は、十二神族の世界に戻ります」
ユニモンは机に――ウイルスのサンプルがある場所に――視線をやった。
「ウイルスのことを、みんなに伝えに行きます。ユピテルモンがこの破壊を引き起こしたのなら、ユピテルモンのそばにいると危険です」
「でもそんなこと、言っても信じてもらえるのか? お前の主がユピテルモンに逆らったって、城のみんなには知れ渡ってるはずだ」
輝二に聞かれて、ユニモンは少し考え、答える。
「一人、当てがあるんです。ディアナモン。ユピテルモンとネプトゥーンモン様以外に残っている唯一のオリンポス十二神族です。生まれはユピテルモンの天の眷属ですが、種族の利害にこだわらず全体の利益を第一に考える方です。彼女なら、僕の話に耳を傾け、みんなを指揮してくれるかもしれません」
ネプトゥーンモンの部下でしかないユニモンではみんなに信用してもらえない。ならば、信用されている十二神族の一人を説得しよう、ということか。
「それに……いえ、こんなの希望的観測なんでしょうけど……」
ユニモンが何か言いよどんだ。輝二が小さく笑って、代わりに言う。
「俺も信じてるさ。ネプトゥーンモンが簡単にユピテルモンにやられるはずない。探しに行ってやれ、自分の主を」
「はい!」
ユニモンは輝二の励ましに元気よく返事した。
離れた場所で話を聞いていたトゥルイエモンが歩み寄ってきた。
「通信する機械は私が用意しよう。機能を通信に絞るのなら、作るのにそれほど時間はかからない。半日ほど待ってくれ」
「ありがとうございます。こちらに戻ってきた時に、輝二さん達と連絡が取れないと不都合ですから」
ユニモンは丁寧に頭を下げた。
太陽が頂点に上る頃、出来立ての通信機を首に下げ、ユニモンは単身自分の故郷へ飛び立った。
―――
俺達が投げ出されたそこは、元いたエリアじゃなかった。
打ちつけた胸をさすりながら、体を起こす。氷の壁の見える岩場ではなく、森の中だ。木のエリアよりもうっそうとしている。夜なのか辺りは暗い。
俺の横では、おでこをさすりながらノゾムが起き上がる。
「最後の方、体が横に引っ張られる感じしなかったか?」
俺が聞くと、ノゾムは顔をしかめながら頷く。高速エレベータに乗ってる最中に地震が来た、みたいな感じだった。要するに、一発で酔う気持ち悪さ。
俺は頭を振って、そのぐらぐらするのを追い払った。
「ユピテルモンの奴、俺達の戻ってくる地点を変えやがったな」
本当なら俺達が異世界に飛び立った場所に戻るはずだった。氷の壁のこともまだ調べていなかったし。
それが強引に、見たこともない場所に放り出された。
まあ、俺達もあいつの計画を狂わせるために異世界に飛んだわけで。あいつも計画のぶれを修正するのに必死なんだろう。いい気味だ。
俺は服のほこりを払って立つ。
「とにかく、まずはここがどこか突き止めないとな。近くにデジモンがいないか探してみようぜ」
「うん。これ、持ってた方がいいかな」
ノゾムが腰に下げている物を指さす。異世界でもらったプレゼントだ。見た目はちゃちいおもちゃの銃だけど、相手をマヒさせる光線銃、らしい。
「そうだな。俺もできるだけスーリヤモンは使いたくないし」
俺が言うと、ノゾムが慣れない手つきで銃をホルスターから抜く。
それを見て、俺は重要なことに気づいた。
「なあ、お前……銃を撃ったことあるのか?」
ノゾムが顔を上げて、まばたきする。
「多分、ない」
記憶喪失の人間に経験を聞いても意味がなかった。そもそも、普通の日本の小学生が銃を撃つ経験なんて滅多にない。
実践あるのみだ。俺は近くの木を指さした。
「あれ狙って撃ってみろよ」
ノゾムは息を詰めて、両手で銃を構えた。右手の人差し指が、断続的に引き金を引く。
「はい、ストップ」
十発目で止めた。ノゾムは不満げに銃を下ろす。
その視線の先では、木が無傷のまま立っていた。お祭りの射的にも言えることだけど、銃は意外と当てるのが難しい。
「もう一回やる」
「ダメだ。敵が襲ってきた時に弾切れしてたら意味ないだろ。放っておけば充電されるみたいだし、溜まったらまた練習しようぜ」
「分かった」
ノゾムは渋々銃をしまった。一応すぐ抜けるよう留め金は外してあるけど、今はあまり頼らないでおこう。
☆★☆★☆★
ユニモンの離脱と信也&ノゾムの帰還でした。おみやげについては、いきなり使えるほど器用じゃないと思いましたので。これからノゾムには武器を使いこなすべく訓練してもらうつもりです(笑)
さて、以前にも申し上げましたが、145話に到達しましたので座談会の告知をいたします。別記事をこれと同時アップしましたので、詳しくはそちらをご覧ください。
あと一時間ほどで新作アニメの情報公開ですが、どうなりますかね。星流はニコ動のアカ持ってないので、ネット上に出回るのを待ちます。
そうそう、サイスルが今日やっとエンディングにたどりつきました。なかなかやる時間がなかったのもありますが、テイルズ並みのテキスト量だったのも効きましたね(褒め言葉)
※キャラ設定 のページを全体的に編集。 書き足しを繰り返して煩雑になっていたので情報圧縮しました。