第144話 弟の足跡を追って! 機械人形の妄執 | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 風のエリアは、その名の通り涼しい風のそよぐエリアだった。氷のエリアが近づいて拓也には肌寒いが、同行者二人はむしろ元気になってきた。やはり北の方が体に合うのか。

 ユキミボタモンはさっきから、モジャモンの頭の上で精一杯背伸びしている。それがぱっと顔を輝かせて飛び跳ねた。

「モジャモン! みえた! おーちみえた!」

「おお」

 モジャモンも目をこらして、嬉しそうに目を細めた。

「あれか? 信也にも教えたっていうモジャモン達の家は」

「うん! あれおーち!」

 拓也が聞くと、ユキミボタモンが満面の笑みで答えた。

 モジャモンも拓也に顔を向ける。

「二人は風見の灯台を抜けて、ここに来ているはずだ。まだいるかもしれない」

 拓也は持っていたビニール袋からサッカーボールを出した。表面にかすれた字で「神原信也」と書いてある。モジャモンと会った草原で見つけたものだ。

 風のエリアに来た人間の片方は信也で間違いない。

 信也は結界だけじゃなく、『白くて横に長い建物』も探していたらしい。そっちを探している理由は拓也には思い当たらない。多分、一緒にいたというもう一人に関係しているんだろう。

 モジャモンに特徴を教えてもらっても分からない。もう一人は誰なんだ?

 それを確かめるためにここまで来た。家に帰るというモジャモン達に同行を頼んで。

 風見の灯台――風の結界があった場所で会えることを期待していた。でも、戦いの跡があるだけで信也はいなかった。結界の断片データが置き去りになっていたし、信也が敵を倒した可能性は高いのだが。でもどうやって戦ったんだ? 信也の情報は集まってくるのに、謎ばかりが増えていく。

 渋谷駅の地下で信也とはぐれてから、何か月経ったか。

 どんなに離れていても、拓也は信也のことを理解しているつもりだった。

 でも、今は自信がない。居場所も、何を考えているのか、分からないことだらけだ。

 信也と会えれば、話せればこの不安も消えるだろうか。

 そんなことを考えながら、拓也は歩を進める。

 拓也は弟について考えこんでいた。そのせいで、危険が迫っていると気づけなかった。


「がはっ」

 拓也がはっと顔を上げた時には、モジャモンの胸にこぶし大の穴が空いていた。モジャモンは目を見開いたまま、ゆっくりとその場に倒れた。頭からユキミボタモンが転がり落ちる。

「モジャモン!」

 ユキミボタモンが泣きそうな悲鳴を上げる。拓也は駆け寄りながら、ポケットの中のデジヴァイスをつかんだ。それを出す間もなく、モジャモン達を背中にかばいしゃがむ。目が敵を探して素早く動いた。

 いた。空だ。青空に同化するような青。不気味な気迫を放つ人型デジモンで、不釣り合いに巨大な左腕は機械製。その指先から紅いビームが放たれる。

「っ! 逃げろ!」

 ユキミボタモンを抱えて跳んだ。倒れたモジャモンまで助ける余裕は、なかった。

 背後で熱風と土煙が吹き荒れる。腕で目をかばいながら振り返る。モジャモンだったデジタマが飛び去っていくのが、かすかに見えた。

「モジャモン! や! モジャモン、めー!」

 ユキミボタモンが、拓也の腕の中でもがく。今にもモジャモンのいた場所に飛びだしていってしまいそうだ。拓也は涙まみれのその体を強く抱きかかえた。

「お前までやられるぞ! ここにいろ!」

 岩陰にユキミボタモンを隠れさせ、自分はデジヴァイスを取り出した。敵のデータは読み取れない。敵の戦い方は実戦で知るしかない。

 左手にデジコードを浮かべ、岩陰から踊り出る。拓也の臨戦態勢を見て、敵が動きを止めた。拓也に狙いをつけたまま、地上に降りてくる。

 なぜ止まった?

 その疑問を解く時間はない。拓也はデジヴァイスを左手に当てた。


「スピリット・エボリューション!」

「アグニモン!」


 かつて身にまとっていたスピリットは、二年経ってもしっくり馴染んだ。いや、前よりも体が軽い気さえする。

 アグニモンが現れるのを見るや、敵が再び動いた。手のひらに埋め込んだ赤い球が光を放つ。勢いを増すそれを握りしめて、殴りかかってきた。

 アグニモンは右足を後ろに引いた。回転の勢いに乗せて高く振り上げ、足で拳を迎え撃つ。

「《パワードイグニッション》」

「《サラマンダーブレイク》!」

 二つの技が爆ぜ、双方吹き飛ばされる。

 アグニモンは右足をかばいながら着地した。足の付け根までしびれが走っている。技の威力だけじゃない。装甲自体もかなりの硬さだ。

 でも、蹴破れないほどじゃない。

 アグニモンは心の中でつぶやいた。

 離れたアグニモンに、敵はレーザーの連射を仕掛ける。あちこちで地面が小噴火のごとく吹き上がる。アグニモンはその隙間を縫って走った。

 レーザーが真正面に飛んできた。アグニモンは膝を曲げ、紙一重でやり過ごす。そして跳んだ。背後からの爆風に乗って加速。空中で体をひねり、敵の腕を見据えた。

「もう一発……くらえ!」

 勢いづいた蹴りに、機械の手が手首から折れた。その手を地面に踏みつぶし、アグニモンは振り返る。

「これでレーザーもパンチも打てな……っ!」

 急接近した刃物に、反射的にのけぞる。金色の長髪が一房舞い散った。

 姿勢を立て直し、たった今迫った何かを見極める。

 敵は再び上空を飛んでいた。その原動力は背中のウイング。その端が鋭く光っているのが地上からでも分かった。武器は一つだけではないということだ。

 考える間にも、敵が高速で降下しウイングをひらめかす。アグニモンは地面を転がってそれを避けた。

「そっちが空中なら、こっちも……やるしかないか!」

 一瞬迷ったが、使うしかない。デジヴァイスからもう一つの力を引き出す。


「アグニモン、スライドエボリューション!」

「ヴリトラモン!」


 姿を変えると同時に、右肩が疼きだした。まだビーストスピリットの傷は完治していない。長くヴリトラモンでいるのは危険だ。

 炎の翼を広げ、飛ぶ。敵の接近を睨みながら、両腕のルードリータルパナを展開する。ウイングを受け止めると、武器の背で互いの金属が火花を散らした。斜めに滑らせ、武器が離れた所で背後に回る。

「《コロナブラスター》!」

 至近距離からの射撃がウイングを捉えた。熱で翼がゆがみ、敵が平衡を保てなくなった。

 墜落し出す敵を眼下に、炎の闘士は再び姿を変える。


「ヴリトラモン、スライドエボリューション!」

「アグニモン!」


 重力に引かれながら、両の腕に炎を溜める。

「《バーニング・サラマンダー》!」
 二発の炎弾が飛行翼を、胸を貫く。敵の体から力が抜け、データの塵になって消え去った。不思議とデジコードは現れなかった。

 アグニモンは着地した。ふうと息をついて、進化を解く。

 岩陰に戻ると、ユキミボタモンはまだ泣きじゃくっていた。

 俺、泣かれるのは苦手なんだけど。

 そう言うわけにもいかず、拓也はそっと抱きかかえてやった。

「ほら、泣くなよ。元気出せ……っていうのもムリな話かもしれないけど」

 揺らしてあやしてやりながら、拓也の頭にはさっきの戦いが蘇っていた。

 さっきの奴、俺が戦おうとした時、一度攻撃を止めた。俺が進化するのを待っていたのか? いや、信也だ。あいつはここを通るはずだった信也を狙っていたんだ。きっと。

「おーい!」

 雪壁の方からデジモン達が走ってきた。ここに残っていた住人達か。その中に信也の姿は、ない。

 人間が来たか聞いても、答えはノーだった。信也はここには来なかったのか。

 拓也が落胆する中、デジヴァイスが鳴った。輝二からだ。

『信也に関して分かったことがある。今話せるか』

「本当か!?」

 拓也は一瞬声を弾ませた。こっちの信也の手がかりは途切れた。何か分かったのならありがたい。

 いや、でも。

「ちょっとだけ、ほんの十分だけ待ってくれ。……迷子を家に帰すところまでは、ついてってやりたいんだ」

 拓也はつぶやいて、ユキミボタモンを抱え直した。ひとりぼっちの小さなデジモンが、信也に被って見えた。




―――




第144話にして初の拓也アグニモン&ヴリトラモンです。輝二同様、たくましくなって帰ってきました。

あと少しだけ輝一サイドの話を挿入したら、主人公も帰ってきます。



今回初登場のデジモン

ユキミボタモン