第141話 ヴォルフモン&ガルムモン 勝利への光明! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 ヴォルフモンが屋根を蹴り、俺の横に降り立った。やはり動きが軽い。ブランクを感じさせない、いや、かつてのヴォルフモンよりも速く感じる。

 俺の視線に気づいて、ヴォルフモンが小さく笑った。

「色々あって、今までヴォルフモンよりも出力の弱いスピリットで戦っていたんだ。そのおかげか、ヴォルフモンの体がとても軽い」

「そうか。スポーツ選手があえて負荷をかけて練習するのと同じだな」

 俺も納得して胸をなでおろした。ブランクの心配などする必要はなかったらしい。

 アポロモンが息をつく。

「ネプトゥーンモンに守られていただけではないのですね。……そうでなくては困る」

 最後のつぶやきは辛うじて聞きとれた。

 聞き返す間もなく、アポロモンが残った左腕を伸ばす。

「《アロー・オブ・アポロ》!」

 灼熱の矢が次々と迫る。今度はライノカブテリモンの磁場壁もない。

 避けきれない何発かが鎧を焼いた。右手が欠けたためか、最初よりも威力は弱い。が、一発の威力を下げて弾幕の厚みを維持している。命中させることに特化した戦い方だ。

 ヴォルフモンも光剣で弾ききれず、痛みに顔をゆがめた。威力は落ちても、十二神族の攻撃はヒューマンスピリットには辛い。

 俺は矢を食らいながらもアポロモンに焦点を合わせた。

「《ロートクロイツ》!」

 紅い一閃が飛ぶ。狙いは敵の顔面。

 弾幕の間隙を縫うそれを、アポロモンは見逃さなかった。射撃を続けながら跳びすさる。俺の攻撃は胸当てをかするに留まった。


 それでもアポロモンがわずかに体勢を崩した。

「《リヒト・クーゲル》!」

 即座の追撃。ヴォルフモンが光弾を同じ箇所に撃ちこむ。

「ぐぅっ」
 腕を失っても動じなかったアポロモンが、初めて苦しげな声を漏らした。弾幕が止み、胸を押さえこんだ。

「畳みかけるぞ!」

「ああ!」

 俺に続いて、ヴォルフモンも駆け出す。その体がデジコードに包まれた。


「ヴォルフモン、スライドエボリューション!」

「ガルムモン!」


 白い装甲の獣が、四本の足で俺に並走する。かかとの車輪が勢いを増し、先行。背中のウィングブレードが開いた。

「《スピードスター》!」

 駆け抜けざま、ブレードがアポロモンの右腹を切り裂いた。素早くUターンし、更に左腹を。

「くっ……《ソルブラスター》!」

 アポロモンの火球から闇雲にレーザーが放たれる。俺は追撃を止め飛びのいた。

 咆哮を上げながら、次々とアポロモンが発射する。俺の背後で建物の崩壊音と悲鳴が上がる。まずい、町のデジモン達が。

「こっちは任せとけ!」

 大声に振り返れば、俺達と避難場所との間に磁場の壁ができていた。生み出しているのは、仰向けに倒れたままのライノカブテリモン。

「デジモンを守る力くらいなら、まだ残ってる! 町の事はかまわず行け!」

「分かった!」

 一声答えて、槍を頭上に掲げる。俺に飛んでくる攻撃はガルムモンが《ソーラーレーザー》で逸らす。

「《シュバルツ・レールザッツ》!」

 世界が暗転する。体力を消耗しているせいか、いつもより技の効果圏が狭い。が、俺とアポロモンを囲い、その間に飛ぶレーザーを消すには十分。

 アポロモンの澄んだ目が俺を見据えた。再び技を打ち消される前に、槍を渾身の力で突きだした。

 穂先が装甲を貫き、胸に深々と突き刺さる。

 アポロモンは目を閉じ、黙ってうなずいた。

 そして町の景色が戻ると同時に、その場に崩れ落ちた。




「輝二さん!」

 戦いが終わるや否や、ユニモンが駆けこんできた。離れたところからずっと見守っていたらしい。そういえばアポロモンに聞きたいことがあるようだったが。

 その前に、確かめておきたい事実があった。槍の穂先に目をやった後、アポロモンに歩み寄る。さっきの一撃に、妙な違和感があった。

 アポロモンにデジコードは浮かんでいないが、既に気力で意識を保っている有様だった。胸当てには、貫いた部分を中心に放射状のひびが入っている。俺は槍を傍らに置き、胸当ての留め具に手をかけた。留め具を外し、胸当てをゆっくりと外す。

 その下に開いたこぶし大の穴は、たった今俺が穿ったもの。

 だが、胸部全体が既に皮膚の姿をしていなかった。

 黒ずみ、ノイズの走ったデジコードと化している。俺やガルムモンの技ではこうはならない。

「お前まさか、大ケガを負った状態で戦っていたのか」

 ガルムモンの愕然とした言葉に、アポロモンが微かに頷いた。

 ユニモンもアポロモンのケガを見て、体をこわばらせた。俺達が見ている間にも、傷は広がっていく。

「これは……もう、助かりません」

「あの後、俺達がネプトゥーンモンと別れた後、何があったんだ」

 ガルムモンの問いにアポロモンがか細い声で答える。

「あなた達が去った後、ネプトゥーンモンは戦いを止め、ユピテルモンに真意を問うとおっしゃいました。しかしユピテルモンは話もほとんど聞かずにネプトゥーンモンを打ち据えたのです」

「そんな! じゃあ、ネプトゥーンモン様は」

 泣きそうなユニモンに、アポロモンは一寸置いて言った。

「分かりません。亡くなったところは見ていませんが、あれだけの傷を負って生きているかどうか……。私が慌てて割って入ると、ユピテルモンは私にも神罰を下されました。まさか攻撃されるとは思ってもいなかったため、胸に直撃を受けました」

 形すら崩れだした自分の胸を、そっと左手で示す。

「私はそれでも問いました。私達は己の世界を救うために団結して戦ってきたはずだと。何故仲間である私達の話を聞いてくれないのかと」

「それで、答えは」

 俺が聞くと、アポロモンは悲しそうに首を横に振った。

「まともには。ただ『この世の崩壊も、神の死も私が世界を愛するが故。破壊の力の来訪もまた、私の意志が正当である証であろう』と。その後は更なる攻撃から逃れるため、私は脱出するしかありませんでした」

「やはり。ユピテルモンの真意は私達の世界を救う事ではなかったんですね。オリンポス十二神族が次々と消えているのもユピテルモンの計画のうち」

「考えたくはありませんが。もしかしたら、世界の崩壊そのものも」

 ユニモンの言葉に、アポロモンは虚ろな目をして答えた。

 瞬きをして、俺達に視線を向ける。

「ユピテルモンは、私が幼い頃から信じてきた天空神は消えてしまいました。このままでは私達の民の生き残りも、そしてこの世界も危険です。どうかユピテルモンを……倒してください」

 最後は絞り出すような声で。アポロモンを詳しく知らなくても、その頼みの裏に激しい葛藤があったのは明らかだった。

「死の迫る体で戦いを挑んできたのも、俺達がユピテルモンと戦えるだけの力があるか、試していたんだな」

「ええ。こんな状態の私にすら勝てぬようでは、ユピテルモンにかなうはずがありませんから」


「それから、ユピテルモンは二人目の炎の闘士にひどく興味を抱いているようでした。もし別行動をとっているのなら、すぐに見つけ出してください。ユピテルモンの手に落ちれば、この世界全体の危機となるかもしれません」

 信也。スピリットの力を存分に引き出せるために、逆に戦えなくなってしまった仲間。

 会ってもお互い辛いだろうと思って追いかけずにいたが、敵の大将が狙っているとなれば話は別だ。今は戦う力も持っていないはずだ。

 ガルムモンが深くうなずいた。

「分かった。ユピテルモンの計画は俺達が必ず止める」

「ありがとうございます……。もう一つだけ、お願いがあります」

 途切れ途切れになりながら、アポロモンが話し続ける。

「デジタマに返ってしまう前に、私のデータをスキャンしてください。ユピテルモンは強い。いやしくも同じ十二神族である、私のデータを、ユピテルモンを倒す助けに、してください」

 それを聞いて、ガルムモンが強く目を閉じた。少し黙った後、その体がデジコードに包まれる。

 ヴォルフモンに戻ったその手には、デジヴァイスが握られていた。

 アポロモンは静かに目を閉じた。胸の傷が全身に広がり、デジコードが一輪浮き上がった。


「悲しくうごめく魂よ、聖なる光で浄化する。デジコード……スキャン」


 こんなに切ないスキャンを見たのは初めてだった。




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アポロモンとの戦い、決着です。どうにか3月中にUPできました。


胸部に致命傷負ったまま戦えるってどういう仕組みだよ、と自分でも思わなくはないですが……そこはほら、デジモンなので。胸部に心臓や肺といった即死亡しそうな急所があるとは限らないのでっ。

……本当はどてっぱらに致命傷負った状態で戦わせるつもりだったんですけど、改めてアポロモンの設定絵見たら腹に装甲なかったんです(泣)隠せない。


ところで、今更気づいたんですが。カイザーレオモンの技は《シュヴァルツ・ドンナー》《シュヴァルツ・ケーニッヒ》なのにライヒモンの技は《シュバルツ・レールザッツ》です。

私混同してて、今気づきました。私としたことが気づいてなかったのも悔しいですが……そこはヴァかバか統一してくださいっ(笑)


次回一話で事後処理をやってから、現在単独行動中の彼に視点を移動する予定です。



今回初登場のデジモン

ガルムモン