進化を解いた所で、友樹の呼ぶ声がした。振り向くと、道の向こうから友樹が戻ってきていた。泉に肩を貸している。泉はケガをしているのか、ぐったりして顔色も悪い。
手を貸そうとしたけど、それより速く動いたのが。
「い、泉ちゃん大丈夫!? ほら、つかまって!」
純平が泉の前へ駆けつける。素早くしゃがみ、背負う。
さっきまで満身創痍で転がっていたはずなんだけど。愛情というかアドレナリンの成せる業というか……。俺は思わず苦笑した。泉を心配しようにも、入る隙がない。
「泉ちゃんのことは俺に任せて、友樹はスピリットを結界に戻すんだ!」
「分かった!」
純平の指示に、友樹が力強く頷いた。ダルマストーブへと走り出す。俺はそれを呼び止めた。
「待って。中にまだ十二神族の手下がいるかもしれない。一緒に行くよ」
輝二もユニモンもついてくると言い出して、結局4人で向かうことになった。
「純平は相変わらずみたいだな。いや、少しリーダーらしくなってきたか?」
輝二の言葉に、友樹と俺は顔を見合わせて笑った。
「鋼のエリアでバックスモンと戦った時はすごかったんだよ。周りのデジモンにどんどん指示を出して、自分はヒューマンスピリットだけでバックスモンと戦ったんだ」
「ああ、ボコモンから大体は聞いてる」
友樹の弾んだ声に、輝二が答える。敵陣から脱出した後、ボコモン達に会ってからここに来たそうで、おおまかな話は知っているらしい。
積もる話は多いが、語る前にダルマストーブに着いた。整備用の金属扉を押し開けて、中に入る。
内部はアポロモンが破壊した壁が転がり、がれきの山になっていた。天井が抜けて、灰色の空がよく見える。アポロモンの力の名残は消えかけていて、肌寒い。壁がほんのりと温かい程度だ。敵の姿はない。
がれきの間を縫って進むと、中央に見慣れた台座が見えた。氷の闘士の台座らしく、四角いそれは透明のクリスタルでできていて、全体に氷の結晶の装飾が彫られている。
中央にはマンモンが踏みつけたらしいくぼみとひび割れがあった。友樹が悲しそうな顔で、それに指を触れる。
「チャックモンがやられた跡だね。一緒に戦ってあげられなくて、ごめん」
友樹は数秒そうしていた後、デジヴァイスを取り出した。二個一対の氷のスピリット、それからノイズの走ったデジコードの固まりが実体化する。マンモンから取り返した結界のデータの断片だ。友樹はくぼみの上に、それらを置いた。
スピリットと台座が強い光を放った。俺達が目を細める中、光は空へと突き抜ける。灰色の空に突き当たった瞬間、空にひびが入って砕け散る。空に見えていたのは巨大な氷のドームだったのだ。氷の破片は降ってくる途中で溶けて消え失せる。ドームの向こうには、抜けるような青空。ドームが砕けるにつれて、絵の具を広げるように青色が広がっていく。
寒さも少しずつ和らぎだして、無意識に入っていた肩の力を抜いた。
「良かったのか? スピリットもここに置いて」
輝二に聞かれて、友樹は素直な表情でうなずく。
「今は戦うよりもこのエリアのデジモンを助けるのが先だから。エリアが落ち着いたらまた使わせてもらうよ」
それを聞いて輝二が少しだけ目を見張った。俺は微笑んで言ってやる。
「友樹もずいぶん成長しただろ? 俺達も油断してると抜かされそうだ」
「そうみたいだな。もうべそをかかれる心配もない」
「ひどいや輝二さん! 僕だってこの春から5年生なんだよっ!」
輝二の苦笑に、友樹は少し膨れ面で、でも笑って答えた。
と急に俺のデジヴァイスが鳴った。ポケットから取り出す。流れ出した声はトゥルイエモンのもの。
『やっとつながったか。無事に氷のエリアを取り戻せたようだな』
「トゥルイエモン。何かあったのか?」
表情を引き締める。
『実は、十二神族やその眷属が襲撃した場所について、土地データを収集して調べていたんだが。それについて至急確認したいことがある。ユニモンを連れて私の城まで来てくれ』
「僕ですか?」
急に話題に出されて、ユニモンが意外そうに聞く。トゥルイエモンが硬い声で答えた。
『ユニモンの素性はエンジェモンから聞いている。彼の身体データをすぐに確認する必要がある。寄り道せずに来てくれ』
俺と輝二は顔を見合わせた。深刻そうな様子だ。結界が復活してすぐに通信が来たのも、何度も連絡を取ろうとしていたからだろう。
当のユニモンは「僕、どこも体調悪くないんですけど……」と言いながら自分の体を点検している。
俺は友樹に目を向けた。
「ここは頼めるか」
「任せて。僕はスピリットのことがあるからしばらくここを動けないし。泉さんも、純平さんが見ててくれる」
友樹は力強く答えた。
俺と輝二、ユニモンはダルマストーブを出た。途中でジジモン達に声だけかけて、足早に町の外に出る。
「やっと会えたのに、ゆっくり話すこともできないな」
デジヴァイスを出しながら言うと、輝二が和やかに笑った。
「話なら走りながらでもできるさ」
「それもそうだ」
急ぎと言われても、全速力では城までもたない。人間で言うならジョギングかマラソンくらいのペースになる。話くらいはできるだろう。
輝二と俺はそれぞれデジコードを読み込んだ。
「スピリット・エボリューション!」
「カイザーレオモン!」
「ガルムモン!」
三体の獣型デジモンは、揃って氷の大地を駆けた。
―――
一晩野宿をして、城に着いたのは翌日の昼過ぎだった。城門で進化を解くと、中から急ぎ足でデジモンが出てきた。
「君が十二神族の手下だったというユニモンか?」
トゥルイエモンに聞かれて、ユニモンがむっと口をゆがめた。
「だった、じゃありません。僕は今でもネプトゥーンモン様の部下です」
「そうか。だが細かいことを気にしている暇はない」
トゥルイエモンはユニモンの反論を聞き流した。
「奥に私の書斎がある。そこで君の検査をさせてくれ」
「いいですけど……何の検査なんですか?」
「それは俺達も気になる。一体何が分かったんだ?」
ユニモンの不安げな声に、俺も付け足す。トゥルイエモンは少し考えて、首を横に振った。
「説明していると長くなる。もし私の予測が当たっているのなら、すぐにでもユニモンを調べた方がいい。検査が終わったら、全て説明する」
「……分かりました」
ユニモンは渋々トゥルイエモンについていった。輝二と俺は城住まいのレッパモンに案内され、客間に通される。ユニモンが戻ってくるまでの待合室だ。
レッパモンが下がると、俺と輝二は二人きりで残された。
「トゥルイエモンが気づいたこと、何だと思う」
輝二に聞かれて、俺は考える。
「攻め込まれた場所の土地データを調べたって言ってたよな。だとすると、一つ気になることがある」
最初の十二神族、マルスモンを倒した時。マルスモンが長く滞在した土地のデータが一時的に異常をきたした。それに、十二神族の世界は十二神族のせいで土地データが崩壊し、今では残骸だけが散らばる悲惨な状況だと聞いている。
「トゥルイエモンはその現象について調べていたんじゃないか? 具体的な原因が分かったのかもしれない」
「それなら何故ユニモンを調べようとしているんだ? 確かにあいつは十二神族の部下ではあるけど十二神族じゃない」
輝二に問い返される。俺は答えられない。
やっぱり、トゥルイエモンに聞くしかなさそうだ。
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書く事決まってたからか、時間さえ確保できれば早くに書きあがりました。
あと1話で後処理終わるって言ったのどこの誰でしたっけね。いや、後処理は終わりましたけど。新情報を提示するところまではいけませんでした。相変わらず文量の見込みが甘い(汗)
というわけでもう1話輝一視点が続きます。