「ダブルスピリット・エボリューション!」
「ライヒモン!」
「ライノカブテリモン!」
「フロストモン!」
「スピリット・エボリューション!」
「シューツモン!」
まとっていたデジコードが消え、四人の闘士が姿を現した。
それを見てアポロモンが動く。両の拳を突き出すと、籠手の光玉が燃え上がった。
「《アロー・オブ・アポロ》!」
炎が矢の形をとり、俺達に次々と迫る。
「俺に任せろ!」
ライノカブテリモンが六つの足で地面を踏みしめ、角を振る。
炎の矢は俺達の手前で磁場に遮られ、次々と爆発した。
それを見たアポロモンが撃つのを止める。間髪入れず頭上の光球が勢いを増す。
「《ソルブラスター》!」
光球からのレーザーが磁場の壁にぶち当たる。ライノカブテリモンが押されかかる。
「踏みとどまってくれ!」
「うおお!」
俺の声に、ライノカブテリモンはうなり声をあげ踏ん張る。俺はその横で、敵の攻撃が止んだらすぐ動けるよう槍を構える。
その穂先に何かが反射した。
目を上げれば、頭上から降り注ぐ炎の流星群が。
「しまった! 上から――」
間に合わなかった。ライノカブテリモンが反応する前に炎の矢が着弾。俺はその爆風に吹き飛ばされた。二転三転して、辛うじて体勢を立て直す。
その間にアポロモンが駆け出す。右のこぶしを引き、正拳突きの構え。狙いは矢を全身に受け弱っている雷の闘士。
「させるか!」
槍を握りアポロモンへと迫る。アポロモンがこぶしを突く直前、その甲に穂先をねじ込んだ。籠手を突き破り、四つの穴を
が、槍の刺さったこぶしを迷わず突き出した。乱暴な動きに、槍は肉をえぐりながら抜けた。
「《フォイボスブロー》!」
こぶしがライノカブテリモンの角を捉える。当たった場所から角全体にひびが走る。
それでも止まらぬ威力に、ライノカブテリモンの巨体がのけぞり仰向けになった。背中から落ちる。民家をいくつも押し潰し、土煙と砕けた氷をまき散らした。
アポロモンは突き出した右手を緩やかにおさめた。俺の穿った穴を中心にノイズが走っているが、微かに顔をしかめるだけだ。
「甘い。正面の攻撃に気を取られ、他から襲撃されることを予想できていません。バックスモンを圧倒した戦技はまぐれですか」
「う……ぐ」
ライノカブテリモンが反論しようとするが、体を起こすどころか声すらも満足に出ない。
俺は後ろに跳んでアポロモンから距離をとった。
「それならこれでどうだ!」
穂先を天に掲げる。アポロモンがいかに強くても物理法則下でのこと。
「《シュバルツ・レー
槍が弾け飛んだ。
手袋に一直線の裂け目が走っている。
アポロモンが残った左手で矢を撃ってきた。そう気づくのに時間がかかった。予想以上の早撃ちだ。
槍を取りに走るが、それよりもアポロモンの接近が早い。俺は槍を諦め、兜の目を閃かす。
「《ロートクロイツ》!」
赤い光がアポロモンを迎撃する。
が、アポロモンは迷わず傷ついた右腕を前に伸ばした。
ノイズの走っていた右腕で攻撃を受ける。肘から先が跡形もなく弾け飛んだ。
目前に迫ったアポロモンが左のこぶしを突いた。
「《フォイボスブロー》!」
正拳突きがみぞおちに入り、背後の壁に叩きつける。
「ぐはっ……!」
体が石壁にめり込み、身動きが取れない。それでもなんとか顔を上げる。冷静に俺を見るアポロモンがいた。
「《シュバルツ・レールザッツ》。発動すれば一撃必勝の技と聞いています。しかし、無敵の技でも、発動させなければ恐れるに足りません」
その目に悲しげな感情がよぎった。
「あなた達の全力はこの程度なのですか。これでは、私はもちろん、ユピテルモンになど到底勝てません」
「くっ……これくらいで、勝った気に、なるな」
腹部の痛みに耐えつつ、声を絞り出す。
「十闘士は、諦めが悪いんだ。命が尽きるまで、いや、尽きてもなお自分達が勝つと信じつづける」
絶望的な戦いは何度もあった。ケルビモンと戦った時も、復活したルーチェモンに圧倒された時も、そしてきっと、かつて古代十闘士が戦った時も。
パンチ一発食らったくらいで、この程度だなんて言われたくない。
俺が睨むと、アポロモンが表情を引き締めた。
「それでは仕方ありません。無謀にユピテルモンに挑んで痛々しい死を迎えさせるよりは、ここで一思いに断ち切ります」
左のこぶしが俺の額に向けられた。この距離で射られたら、さすがのクロンデジゾイドの兜でも耐えられない。
籠手の光玉が炎を上げる。
ぱひょん。
か弱い気功弾がアポロモンの頭に当たった。パタモンの《エアーショット》並みの威力だ。
それでも一瞬アポロモンの気を反らすには十分。
「《ロートクロイツ》!」
放った一撃がアポロモンの喉を焼いた。アポロモンは喉を押さえてよろめき、俺から離れる。
俺は壁から腕を引きはがし、その場に膝をついた。
翼の音がした。デジモンが一体、俺のそばに降りてくる。
「おい、今のがお前の全力か?」
「そうですよ、悪かったですね。でも僕が訓練サボってたせいじゃないですからね。誰かさんが大急ぎで飛べって急かしたせいでヘトヘトなんですよ」
降りてきたのは黒い翼を持つ馬のデジモンだった。その背に乗っている人の声を、聞き間違えるはずがなかった。
「……輝二?」
馬の背から身軽に飛び降りると、背中で長い黒髪が跳ねた。俺が膝をついているから、ちょうど目の高さが合った。いつものように。
「待たせたな」
そう言って輝二が小さく笑う。同じ顔なのに、輝二の笑い方は皮肉っぽい癖がある。俺も思わず笑みがこぼれた。
「ああ、待った……ずいぶん長い間待ってた気がする」
何故捕まっていたはずの輝二がここにいるのか、詳しく聞いている暇はない。
でも不思議と、戦いに勝てる予感が湧き出していた。さっきより、ずっと強く。
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やっと! 135話ぶりに! 約2年半の月日を経て! 双子が再会いたしました!
長かった……ここまで本当に長かった。