第138話 氷を隠すなら! アキバマーケット振興会会長の話 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 寒さに顔をさらすこともできず、フロストモンの毛に頭をうずめていた。冷気にさらされたままの背は、既に感覚がない。

 急ぎ足でフロストモンの体が揺れている。それがだんだんと小さくなって止まった。戸惑った声が聞こえる。

「中央のストーブが動いてない」

「う、嘘だろ!?」

 純平のくぐもった悲鳴。俺も暖かい場所を期待してただけに心が沈んだけど、一方で予想できたことだなとも思った。戦闘の末にこのエリアが奪われたのなら、巨大な道具(というか施設)が無事で済むはずない。
「待って、あっちに明かりが見える!」

 再びフロストモンが駆け出す。

 扉がきしみながら開く音。

「お前は、まさか――」

「とにかく中へ!」

 誰かが俺を抱えて下ろしてくれた。地面に足がついたけど、自力で立てない。抱えられたまま建物の中へ連れ込まれた。


 中は食堂になっていた。机やいすは脇に寄せられ、デジモン達は中央に固まっている。その中心には調理用の暖炉があって、くべられた薪が勢いよく燃えていた。

 俺を抱えていたデジモンは、俺を暖炉のそばに座らせてくれた。首を回して、ようやくおじいさんみたいなデジモンだと分かった。

「あ、ありがとう、ございました」

 お礼を言おうとしても、歯の根が合わない。泉と純平も連れてこられて、歯をがちがちいわせながら火に当たっている。

 友樹は十分動けるようで、さっそく周りのデジモンに話しかけている。

 おじいさんデジモンが座布団を持ってきて、俺の隣に座った。

「わしはジジモン。アキバマーケットの振興会会長をしとる」

「木村、輝一です。十闘士の一人で、氷のエリアの救出に来ました。思った以上に寒さがひどく、あなた達のお世話になってしまいましたが」

 ようやく口が回るようになってきて、ジジモンの自己紹介に答える。ジジモンは首を横に振った。

「この寒さでは十闘士といえども動き回ることは難しい。わしも長年ここに暮らしとるが、こんな寒さは初めてじゃ。襲撃者のやつ、結界を奪った後その力で悪いことしてるとみえる」

 どうやら話し好きの老人らしい。

「結界はどこにあったんですか?」

 氷のスピリットを持ち帰ったのはエンジェモンだ。でも、エンジェモンはここの住人からスピリットを託されただけで、元々どこにあったのかまでは知らなかった。

 ジジモンは手を上げて壁の向こうを指さした。

「そこの、ダルマストーブん中じゃ」

 俺は暖炉の火に目を向けた。もう一度ジジモンを見る。

「今、ストーブの中と言いましたか?」

「そう、あのメラメラ燃えとったストーブん中じゃ。氷の闘士にあの場所をすすめたのはわしでな。ないすあいであじゃろ」

 ジジモンは自慢げに胸を張った。

「炎の中に氷のスピリットって……」

「思うじゃろ? 普通そう思うじゃろ? だから隠し場所にはぴったりなんじゃ。まっさかあんな熱い中に氷のスピリットなんかあるとは思わん」

「でも、見つけられちゃったんだろ」

 純平の呆れ半分のツッコミ。ジジモンの背中が少し丸くなった。

「言っとくがの、わしのあいであが悪かったわけではないぞ。敵は自力では結界のありかを見つけられんかった。町の住民も抵抗して激しく戦った。わしも昔取った杵柄で、ちぎっては投げちぎっては投げ――」

「あ、あの」

「おじいさんの自慢はいいから! 今はスピリットの話!」

 俺がためらっている間に、泉が切り込んだ。寒さのせいか、いつもよりいらだっている。ジジモンがまた背中を丸めて小さくなった。

「と、まあ色々あったんじゃが。流れ弾がストーブの駆動部に当たってしまって、機能が止まってしまったんじゃ。スピリットを覆っていた炎がなくなってしまったんで、ストーブが氷のスピリットの力で凍りつき始めてしまった。それで、敵に結界の場所がばれてしまったんじゃ。何とかスピリットだけはエンジェモン様に託したが無事に逃げおおせたじゃろうか」

「氷のスピリットならここにあるよ」

 友樹がデジヴァイスを出しながら歩いてきた。ジジモンが嬉しそうに顔をほころばせた。

「あんたの手に渡っとったのか」

 友樹が頷いて、しゃがんでジジモンと視線を合わせた。

「うん。ありがとう。僕の大事な友達を守ってくれて。今度は僕がこの町のみんなを助けるから」

 友樹がデジヴァイスを握りしめる。それを見て俺も友樹のやろうとしていることに気づいた。

「そうか、氷のスピリットさえあれば結界を戻せるかもしれない。スピリットを結界のあった場所に設置すれば、氷の闘士の体がなくても」

「ありがたい申し出じゃ! だが、一つ問題がある」

 ジジモンは一瞬の後に渋い顔になった。

「今、あのストーブの中には十二神族の手の者が番人として住み着いている。まずはそやつを倒さねば、結界の修復にはかかれん」

「それくらい心配いらないさ」

 純平が身を乗り出した。

「十闘士のうち四人も来たんだから。十二神族もほとんど倒してきたし、その部下なんてあっという間にやっつけてやる!」

 気合十分にこぶしを突き上げる。


 直後、ダルマストーブの方から爆発音が聞こえた。


「……まさか、純平の気合いで!?」

「いやいや、俺何もしてない!」

 泉のはっとした視線に、純平がぶんぶん首を横に振る。

「外に出てみよう!」

 ざわめくデジモン達を押しのけて、ドアへと急ぐ。小柄な分友樹の方が速い。

 友樹がドアノブに手をかけて勢いのまま外に飛び出して。

「うわあっ!」

「っ!」

 そのまま仰向けに滑って転んだ。俺も巻き添えを食って友樹の下敷きになる。背中を地面に打ちつけて、冷たい水が浸みてきた。

「痛た……輝一さん大丈夫?」

「うん。とりあえず、どいて」

 俺達が立ち上がる間に、泉と純平も追いついてきた。

「ねえ、氷が溶けてる」

 泉に言われてようやく気づいた。地面を覆っている氷が溶け始めている。さっき友樹が滑った理由もこれだ。気温も暖かい。火を焚いていた食堂よりは寒いけど、ここに突入した時に比べれば全く気にならない。

 その理由は一目で分かった。

 壊れていたはずのダルマストーブが盛大に炎を吹きあげていた。ただ、再稼働したというわけではない。ストーブの上半分が吹き飛んで、中からあふれんばかりの火柱が立っているんだから。

「まさか、信也? それとも拓也お兄ちゃん?」

 友樹が期待を込めて火柱を見上げる。火柱が止み、直後、巨大な影が飛び出した。それは放物線を描いて、俺達の方に落ちてくる!

 目の前、5メートルも離れていない場所に落下した。重い衝撃音と、氷のつぶてが飛んでくる。とっさに顔をそむけ、腕で顔をかばった。

 それが収まったところで、改めて落ちてきたものを見る。毛深い象のデジモンだ。落下の衝撃をものともせず、鼻を高々と掲げて鳴いた。

「ありゃストーブに住み着いてたマンモンじゃないか!」

 ジジモンのひげが驚きに逆立った。

「それじゃあ、あれが十二神族の部下?」

 俺が確認している間に、マンモンを追って人型デジモンが中から飛び出した。

 アグニモンと同じく赤い鎧ではある。でも違う。

「アポロモン。オリンポス十二神族の1体で、太陽級の火炎エネルギーを秘めた神人型デジモンだ」

 デジヴァイスの情報を引き出したらしい。純平が硬い声でつぶやいた。

 マンモンの斜め前にアポロモンが降り立つ。青い目が俺達を一通り見た。

「四人ですか。あと一人はどこです」

 アポロモンは物静かに聞いてくる。見た目の割に高い声だ。泉がきっぱりと答えた。

「あなたに教える理由はないわ」

 アポロモンの目的が信也なら、こちらも情報を吐くわけにはいかない。俺達が居場所を知らないと知れば、ここを離れて探しに行ってしまうかもしれないし。

 泉の返答を聞いて、アポロモンは残念そうな表情を見せた。

「いいでしょう。あまり時間をかけるわけにもいきませんから」

 そう言って後ろのマンモンを手で示す。

「ご存知かと思いますが、このマンモンの体内には破壊された結界の断片が取り込まれています。あなた達が欲しがっているデータでしょう。こちらは二体、そちらは四体。結界の断片を賭けて一対二の戦いといきませんか」

 なるほど。数の上ではこちらが有利だし、勝てば結界の断片を手に入れ十二神族も一体削れる。でも向こうに何の得がある?

 俺はアポロモンに向き直った。

「寒さを緩めて、丁寧に提案までしてきて。どういうつもりだ?」

 澄んだ青い目が俺を見た。

「私はあなた達の全力が見たい。しかし、四体一度に相手をするのではさすがに分が悪く、あなた達も全力を出さずに済んでしまう。そこで一対二ではどうかと思っているのです」

 俺達は顔を見合わせた。

「罠だと思うか?」

 純平の言葉に俺は考える。

「マンモンが結界の断片を持っているのは、ジジモンの言葉から考えても確実だ。嘘は言っていないと思う」

「もし嘘をついてたとしても、僕達の戦力は増やせないよ。ジジモン達だけでマンモンを倒せるのなら、とっくにやってるはずだもん」

 友樹の言葉にジジモンが申し訳なさそうに肩を落とした。

「すまんのう。主力のデジモンは最初の戦闘でやられてしまったんじゃ」

「罠だったら敵の提案を守る必要はないわ。四人でアポロモンを倒せばいい」

 泉が四人をぐるりと指さす。三人がダブルスピリットできるんだ。全員でかかれば勝機は十分ある。

「僕はマンモンの方に行く。アポロモンの熱さだと《ロードオブグローリー》の威力が減るし」

「私も友樹と行くわ。ダブルスピリットできる二人が十二神族と戦った方がいいと思う」

「じゃあ、俺と輝一がアポロモンの相手か」

 俺達は二手に分かれた。アポロモンとマンモンも互いに距離を取り、二組で向かい合う形になる。今一つ納得のいかない中での戦いだけど、集中するしかない。

「行くぞ!」

 四人の左手にデジコードが浮かび上がった。




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フロ02もユナイトも炎系デジモンがケンカ売ってきたところで切れるっていう。狙った覚えはないんですが……。あと、氷のエリアなら月の神の方だろ、とも考えたんですが今後の構成など考えた結果おあずけです。


※氷のエリア編開始に伴い、PC版のヘッダー画像とスマホ版の背景、ワールドマップ を更新しました。



今回初登場のデジモン

ジジモン

マンモン