〔33〕居間のヒカリは今の光 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 次の土曜日、大輔はとあるマンションの前に着いた。京、タケル、伊織の住んでいるマンションである。ちなみに一階の一角はコンビニになっていて、言わずと知れた井ノ上家経営のアイマートだ。いつも京が品物を持ってきてくれるので、お世話になっているわりに意外と店内に入ったことは少ない。

 約束の時間にはまだ時間があるし、たまには雑誌の立ち読みでもしていこうか。

「大輔!」

 その前に声をかけられる。振り向くと、交差点の向こうから八神兄妹が手を振っていた。

「太一先輩! ヒカリちゃーん!」

 大輔もぶんぶん手を振って答える。信号が青になり、二人も入口にたどり着いた。

 太一がマンションを見上げた。

「タケルの方は、まだ準備できてないのか?」

「まだ約束の時間には早いんですけど。ちょっとメールしてみます」

 大輔はD-ターミナルを取り出し、手早くメッセージを打ち込んだ。

 数分もしないうちに返信が届いた。

『もう着いたんだ。母さん出かけたから上がってきていいよ。僕の家は8階です』


 エレベータで8階まで上がると、奥に「高石」の表札があった。インターホンを押すと、足音が近づいてきて、ドアが開いた。タケルが顔を出す。その頭の上には当然のようにパタモンが乗っていた。

「いらっしゃい。どうぞ上がって」

 玄関のドアを閉めたところで、かばんからチビモンとテイルモンが顔を出す。息苦しかったのか、二人ともほっと息を吐いた。

 奥のダイニングでは、光子郎と京がパソコンを前に何か話し合っていた。交わされる専門用語の数々に、間にいるポロモンが目を白黒させている。

 その向かいに伊織とウパモンが座っている。大輔達が入ってきたのを見て、いすから立ち上がった。

「僕立ったままでいいので、太一さん座ってください」

「よせよ、そんな風に言われると俺がじいさんみたいじゃないか」

 太一が苦笑した。伊織が頑固に返す。

「でも、年上には席を譲りなさいって教えられてます」

「大丈夫だよ、俺はサッカーで鍛えてるんだから」

「僕だって剣道をやってます!」

 何だかよく分からない問答が始まってしまった。それを横目に、大輔はタケルに話しかける。

「こんな大人数で押しかけてよかったのか? おばさんが帰ってきたらびっくりされるぞ」

「心配いらないよ。母さんは港の方に取材に出かけてるから。何だか物騒な内容だったし、今日は遅くなると思うって言ってた」

「物騒?」

 ヒカリが聞き返す。

「うん。何でも漁船の網に遺体が引っかかったんだって。それも溺死じゃなくて、真っ黒に焦げた遺体が」

 ヒカリの顔から血の気が引いた。代わりに京が素早く振り返る。

「ええっ、何それ!? 約束破ったら東京湾に沈めるぞ、みたいな? 本当にあるの!?」

「京お前、普段どんなテレビ見てるんだよ」

 大輔が呆れてつぶやく。

 騒ぎの横で光子郎が咳払いした。
「京くん、デバッグは終わったんですか?」
「あ、すみませーん」

 京はぺろっと舌を出して作業に戻った。


 ちょうどそこでインターホンが鳴った。タケルが玄関に向かう。

 戻ってきた時には、タケルの表情はこわばっていた。後ろから一乗寺賢がついてくるのだから、当然の反応だが。

 それでも、全員が集まれてかつ人目につかない場所がここしかなかったのだ。お台場小学校に一乗寺を来させようものなら、児童や先生に見つかって大騒ぎになってしまう。

 一乗寺は青い肩がけかばんを体の前で抱えこんでいた。そのまま無言で、みんなに深く頭を下げる。
 お互いにかける言葉が見つからず、硬い沈黙が流れた。

「あ、そうだ。紋章は持ってきてくれましたか?」

 光子郎がぎこちなく口を挟んだ。一乗寺がはい、と答えてかばんを床に下ろした。脇のファスナーを開けて、桃色の紋章を取り出した。
 京のデバッグが済むまでの間に、と、光子郎が一乗寺に紋章の仕組みについて説明し始めた。封印されたゲートを破るには紋章の力を発揮させなくてはならない。それに、ロジカルな話をしている分には言葉に困ることもない。
 暇をもてあます大輔の足元で、チビモンが部屋の臭いをかぎはじめた。ぽてぽてと床を歩き、放置された一乗寺のかばんに近づく。

 それに気づかず、太一が大輔に話しかける。

「なあ、俺も一緒に行くことはできないのか?」

「太一、残念ながらそれはできない」

 答えたのはテイルモンだった。

「世界が混ざり始めたのは、私達の世界の物や人があちらの世界に行ってしまったからだ。あまり大勢で行けば、かえって混ざる速度を速めてしまう」

「……そうか」

 太一は短く言った後、急に大輔の肩に手を回し、がっちりとつかんだ。周りに聞こえない小声でささやく。

「大輔、しっかりヒカリのこと守れよ。もしものことがあったら承知しないぞ」

「分かってます。本宮大輔、命に代えてもヒカリちゃんを守ってみせます」

 部屋の隅で、固い男の約束が交わされた。

「お待たせ! 準備オッケーよ!」

 京が勢いよくエンターキーを弾いた。いつもよりも色の濃いデジタルゲートが表示される。映像が出るはずのウィンドウはシャッターが閉まっている。

 大輔とヒカリ、テイルモンがかばんを背負い直し、パソコンの前に立った。

「おいチビモン、行くぞ!」

 見回すと、一乗寺のかばんの前でかがみこんでいた。「うん、じゃあね」とかばんに言って、大輔の足元にぱたぱたと戻ってきた。

「お前、誰と話してたんだよ」

 抱え上げながら聞くと、チビモンはちょっと考えて。

「んー、ナイショ!」

「変なやつ」

 大輔は肩をすくめて、パソコンに向き直った。

「原理は通常のゲートと同じです。一乗寺くんは紋章を画面に向けて、封印が壊れるよう念を込めてください」

 光子郎に指示され、大輔とヒカリがD-3を画面に向ける。その一歩後ろで一乗寺が紋章を向けた。

 静かな一瞬。

 一乗寺の紋章が桃色の光を発して、ゲートへと一直線に伸びた。シャッターが甲高い音を立てて砕ける。太一が叫んだ。

「今だ!」

「「デジタルゲート、オープン!」」

 大輔とヒカリの声が重なる。二人とパートナー達が光に包まれ画面に吸い込まれる。

「選ばれし子ども達、出動!」

 京の声が遠くで聞こえた。




―――




 視界が晴れると、そこは森の中だった。自分達は小さな空地の中心に立っている。大輔とブイモンには見覚えがあった。

「ここ、テレビの森だ。俺達が大輔の世界に帰った時の」

「だとしたら、近くにこの世界の選ばれし子どもがいるかも」

 ブイモンの言葉を聞いて、ヒカリが辺りを見回す。大輔達がここを離れてからどれくらい経ったか分からないが、探してみる価値はあるはずだ。時刻は夜。三つの月が地上を照らしている。


「! 伏せて!」

 急にテイルモンがヒカリを押し倒した。大輔達に迫る光の球。

「うわあっ!?」

 慌てて飛びのいた目の前を行き過ぎる。大輔の上着の端が焦げる。

 球は一本の木に激突して、一気に燃え上がらせた。きしむ音を立ててその木が倒れる。

「探したぞ、大輔」

 火炎弾が飛んできた方から声がした。どこかで聞いたような声。だが、この攻撃は――。

 考えがまとまる前に、木々の向こうから攻撃の主が歩いてきた。見たことのない、長身の人型デジモン。

「覚悟しろ、次は外さない」

 月明かりの元で、赤い鎧がきらめいた。



◇◆◇◆◇◆



色々ネタや情報をぶちこんだのでごちゃごちゃしている感が(汗)まあ、明示しなくてもいくつかはすぐ察しがつくでしょう。

賢ちゃんも、一緒に世界渡りをするかぎりぎりまで悩んだんですけど。ただでさえ面倒な状況が更にめんどくさくなるので、しばらく出てこないことになりました←