第130話 灯台を目指せ 姿なき影の島! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 風の結界が見えたのは、俺達が出発して三日目だった。

 ずっと強風が吹いているせいで、移動には思ったより時間がかかった。

 特にノゾムの体力は長く続かなくて、最初の半日でひどい靴ずれができた。足を引きずっているのに気づいて靴を脱がせてみると、小指とかかとの皮がめくれて、両足とも赤くはれていた。ばんそうこうもないから、仕方なく手持ちのタオルをちぎって詰めた。

 まだ思うように歩けないノゾムを岩陰に座らせてから、そっと結界の方をうかがう。

 風の結界は、名前からすると意外だけど、海の上にあった。もらった地図によると、ここは大陸と大陸の境目にあたるらしくて、いわゆる……そう海キョウってやつだ。

 こちらの陸とあちらの陸の間に小さな島があって、そこに白い灯台が立っている。明かりは灯っていない。強風にあおられた高波が灯台を呑み込まんばかりに荒れ狂っていた。

 こちらの陸から灯台に行く道は一つ。今は折りたたまれている跳ね橋だ。

 あちらの陸に渡る道も一つ。灯台の島から降ろす跳ね橋だ。

「どっちにしろ灯台のそばを通らないと向こうにはいけないじゃねえか」

 俺はげんなりした。風の結界に行くつもりだって言った手前、他の道をプレイリモンに聞くわけにもいかなかったし。

 正直、戦えない状態で危ない場所に近づきたくはない。もし灯台に敵がいたら、跳ね橋を下ろす俺達は丸見えだ。隠れようがない。

 でも、今から別ルートを探そうにもこの強風じゃ体力を奪われるばかりだ。食糧がもつかどうかも分からない。

 行くしかない、か。

 岩陰に腰を下ろすと、ノゾムと目が合った。

「俺はあの灯台の様子を見に行く。ここで待ってるか?」

 ノゾムは俺の顔を見たまま、首を横に振った。

「一緒に行く」

「そっか」

 まあ、あの大波の中で橋を渡るのはきつそうだし、一緒に行った方が安全ではある。灯台に着く前に波にさらわれたら元も子もないし。

 エナメルバッグを背負い直して、跳ね橋へと歩き出す。


 跳ね橋には丸いハンドルがついていた。俺がつかんで力を込めると、ギイッと大きな音を立てて跳ね橋が動いた。その音に驚いて手が止まる。だいぶさびついてるみたいだ。風向きが味方して、この音が灯台まで届かなきゃいいんだけど。

 今度こそ力を入れて、ハンドルを回していく。ノゾムも横から入ってきて、細腕をハンドルにかける。少し軽くなった。

 最後に中央の辺りでガン、と音がして橋が開ききった。白塗りの丈夫そうな橋だ。横には手すりもついている。ただ、その床板に波が何度もぶち当たっている。

「行くぞ」

 俺が気を引き締めて言うと、ノゾムも緊張した顔で頷いた。

 手すりを両腕で抱え込み、一直線に伸びたそれを頼りに進む。波が頭の上から降ってくる。バケツで水をかぶってるようなもんだ。半分もいかないうちに、俺達は全身ずぶ濡れになった。こわばる指で手すりを握りしめる。念のためノゾムには俺の前を歩かせたけど、力尽きる心配はなさそうだ。髪から水をしたたらせながら、必死に前に進んでいる。

 島にたどり着く頃には、二人とも話す元気もないほどへばっていた。その場に座り込みそうになるノゾムの肩を叩く。立ち上がらせて、灯台の壁際まで移動した。玄関が張り出していて、その横ならだいぶ風をしのげる。

 ノゾムをそこに座らせて、俺はTシャツを脱いだ。疲労と水を吸った服とで体が重かった。絞ってから着直すけど、塩水でごわついて気持ち悪い。

 でもそれより気持ち悪いのはこの灯台だった。近くで見ると壁にレリーフが彫られている。風に舞う妖精達ってところか。でも強風のせいか波のせいか、全体的に削れてのっぺりとしている。影だけが踊り狂っているみたいで不気味だった。

 やっぱり、ここには長居したくない。俺はレリーフから目をそむけて、反対側の跳ね橋を見に行った。


「ない」

 橋を下ろすためのハンドルが、取り外されていた。近くを見てもそれらしきものはない。これじゃ向こう岸に渡れない。

 そうだ。さっき渡ってきた橋も島の方から下ろせるようになってるはず。俺は元の橋まで引き返した。

 でも、こっちにもハンドルはなかった。島にある昇降機は両方とも動かせなくなっている。

 この島から、誰も出す気がないのか。

 浮かんだ考えに身震いがした。自分の腕をつかんで、爪を立てる。こんな事で不安になるなんてらしくないぞ、俺。一人ならともかくノゾムがいるんだ。しっかりしろ。

 落ち着いてから考え直す。

 さっきの岸まで戻ればハンドルを取ってこられる。ただし、この橋をまた往復することになる。片道だけでへばっているのに、この二倍はきつい。最悪弱ったところを波にさらわれるかもしれない。

 いや、別の方法もある。外された島のハンドルを探すんだ。どうして外されたのか、理由にもよるけど、灯台の中に置いてある可能性も十分にある。オロチモンの口に飛び込んでいくみたいで気は進まないんだけど。

 壁際で縮こまっているノゾムの所に戻る。ここまでの強行軍で、ノゾムの顔はまだ青白い。

「灯台に入って、ハンドルがないか探してくる。ノゾムは休んでてくれ」

 ノゾムが不安そうに俺を見上げた。俺が怖がってるのが伝わってるのかもしれない。

 俺はしゃがみ込んで視線を合わせ、無理に笑った。

「心配するなよ、ちゃんと戻ってくるから。今のお前の仕事は、体力を回復させることだ。ここを動くなよ」

「……うん」

 ノゾムはようやく、小さな声で答えた。


 俺は気を引き締めて、灯台の出入り口に向かった。

 ドアノブを回してみると、鍵はかかっていなかった。押してみると、簡単に開く。

 中は薄暗かった。入口脇に薪が積んであったので、一本手に取る。火打石を叩くと、一発で火がついた。手軽に点火できるのはデジタルワールドの利点だ。

 俺が炎のスピリットを持っていれば、こんな手間もかけずに済むんだけど。

 俺はその考えを頭の脇に押しやった。

 たいまつで照らすと、全体の様子が見えた。一階部分はがらんどうで何も置いてなかった。右手に階段があって、上に登れるようになっている。俺はそっちに足を向けた。

 階段を上る音が、静かな灯台にこだまする。俺は無意識に、たいまつを握りしめた。

 二階は短い廊下の左にドアがあった。正面には更に上に進む階段が伸びている。先に二階の部屋に行くか。警戒しながらドアを開く。何も起こらない。ほっとしながらドアを全開にした。

 中は家になっていた。ベッドにキッチン、暖炉。窓はない。灯台に住むデジモンがここで暮らすんだろう。最近まで誰か住んでいたのか、全体的に散らかっていた。

 一番奥には机といす。そこに何気ないように、ハンドルが置いてあった。使い込まれてあちこち塗装のはげたものが二つ。外された島のハンドルに間違いない。俺は机に近寄って、空いた方の手でハンドルをつかんだ。

 バン!

 と後ろでドアが閉まった。俺ははっとして急いでドアに駆け寄る。

 ドアノブを回す。鍵がかかってる!

 何度ノブを回しても、体当たりしても開かない。

「くそっ! やられた!」

 ドアを蹴飛ばして、俺は舌打ちした。罠だった。ハンドルをここに置いたやつは、最初から俺を閉じ込める気だったんだ。その証拠に、内側の鍵が壊してある。こっちからは開けられない。

 ドアに耳をつけると、軽い足音が上の階に上っていくのが聞こえた。やっぱり、俺達以外の誰かがここにいる。俺達の味方じゃない誰かが。

 でも今の俺は、その正体を突き止めるどころか逃げることもできそうになかった。




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5か月ぶりの主人公サイドです(苦笑)

自分が山育ちのせいか、海や灯台は非日常のもののように感じます。大海原を見ると「何もない!」と不安になるタイプ。今回の話が○ラーチックになってしまったのはきっとそのせいです(苦笑)

海育ちの人は山に来るとどんな気分になるんでしょうか。密かに気になるところです。