風の強い荒れ地を、大輔達一行は進む。トレイルモンへの聞き込みによれば、引き込み線の線路を伝っていくと工場にたどり着けるという。
砂ぼこりを吸い込んだのか、純平がくしゃみをした。
「本当にこんな所に工場があるのか? 何にも見えないぜ」
拓也が頭の後ろで手を組む。
「さあな。トレイルモンって結構いい加減な所あるから」
「俺が進化して、先に見に行こうか?」
ブイモンが声を弾ませた。足踏みまでして、妙に気合が入っている。
それを見た友樹がふふっと笑った。
「もしかしてブイモン、エクスブイモンに進化したくてうずうずしてる?」
「え! あー、ばれたか。エヘヘ」
本心を見抜かれたブイモンは、照れ笑いして頭をかいた。
大輔がすかさずデジヴァイスを取り出す。
「よーしブイモン! 進化だ!」
「そうこなくっちゃ! ブイモン進」
「あ、工場見えた~」
ネーモンの声に、ブイモンと大輔がずっこけた。
砂ぼこりの引いた線路の先には、確かに立派な壁と門があった。正確には、崖をくりぬいて鉄の門をはめこんだものだ。門の上には、これまた土壁を彫って作ったらしい「株式会社風工場」の文字。門の奥にはガラス張りの広い建物とそびえる白い塔。なるほど、間違いなく工場である。
「ったく、いい所だったのに」
「ホントだよ」
大輔とブイモンは、ネーモンに恨めし気な視線を送った。当のネーモンは「え、どしたの?」と首を傾げるばかりで、どうにも理解していない。
泉が一度手を叩いた。
「とにかく! 話通り工場があったんだし。行ってみましょう」
拓也がそれに頷く。
「あのハグルモン、ここに逃げ込んでるかもな」
気を取り直して、一行は門の中へ足を進めた。
門に入ってすぐ、上の柱から小さなデジモンが降りてきた。松ぼっくりにすっぽりはまった緑色のデジモンで、頭のつたでぶら下がっている。
「何かご用ですか、ミノ」
それを見たブイモンが、目を丸くして固まった。
「ミノモンだ……」
「どうかしたのか?」
大輔が聞くと、ブイモンは少し迷ってからつぶやくように答えた。
「ミノモンは、ワームモンの進化する前のデジモンなんだ」
大輔達にとって記憶に新しい、しかも決して忘れられないだろう、デジモンの名前だった。
パートナーが変貌してもなお、その良心を信じ続けたデジモン。
最後は自分の命と引き換えに、パートナーの暴挙を止めた。
残されたパートナー、一乗寺がどうなったのか、大輔は知らない。ニュースを聞いて家に帰ったらしい事は分かったが、それきりだ。
死んだデジモンはどうなるのか。あの一件の後、大輔は同級生の仲間に聞いてみた。前からデジモンと関わっている二人なら、知っていると思った。
死んだデジモンは、デジタマになって転生するんだ。はじまりのまちという所でね。
タケルはやけに強張った顔で答えた。
でも、ワームモンが転生するかは分からない。パートナー持ちのデジモンなら、その場でデジタマに戻るはずなんだ。なのにワームモンは跡形もなく消えたから、と。
それを聞いて、悲しい別れをしたあの二人に、何かしてやりたいと思った。でも何ができるのか、何かできるのか、今の大輔には分からなかった。
「大輔はん! 聞いとるんか、大輔はん!」
ボコモンの声に、大輔は我に返った。
見れば、ミノモンの先導でみんなが工場内に入っていく所だ。
「工場見学をさせてくれるそうじゃ。早く来ないと置いてってしまうぞい!」
「え? あ、待てって!」
大輔は慌ててみんなの後を追った。
ガラス張りの入り口を入ると、タイルを張っただけの無機質な小部屋になっていた。家具も何もないが、どうやらロビーらしい。
ミノモンがもう一体吊り下がってきた。
「えー、工場内には狭い場所もあるので、二班に分かれて見学するミノ」
「ここからこっちは1班で、残りが2班ミノ」
立っている場所で、てきぱきと班分けされた。拓也、純平、泉、友樹が1班。大輔、ブイモン、ボコモン、ネーモンが2班。戦える人員と戦えない人員が上手く分かれる形になった。
「じゃあ、分かった事は後で教えあうって事で」
大輔の言い回しに、拓也が顔を引き締めて頷いた。ハグルモンやケルベロモンがこの建物内にいる可能性は十分にあるのだ。
ミノモンの後について、拓也達は左へ、大輔達は右へ、通路を曲がった。
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02のミノモン(ワームモン)も好きですけど、フロのミノモンも好きです。無邪気な顔してるくせに大事な情報吐かない所がいいです。あれはあれでかわいい←