ケルベロモンが目覚めたそこは、暗く広い部屋だった。緑の非常口を示す明かりが奥の壁に灯っているが、それ以外に光はない。目が慣れてきても、部屋の広さや家具を知るのは難しかった。起き上がってみると、足元は冷たい金属の床だった。
「誰かいないのか?」
言葉に応えて、新たな明かりが灯った。非常灯の下辺り、赤い光が並んで二つ。それに見覚えがある事に、ケルベロモンは気づいた。
「ハグルモンの目か。ハグルモン、ここはどこだ?」
戻ってくるはずの返事はない。ケルベロモンが見つけてきたこのデジモンは、自分の意思を持たない。聞かれた事にはすぐ答えるはずだった。ケルベロモンの認識と現実が食い違い始めている。
考えてみれば、こんな場所にいる事自体が変だ。人間の子ども達と戦って、思いがけない進化の力に負けた。なのにデジタマに戻される事なく、謎の部屋に連れてこられている。
連れてきてくれたのはハグルモンだとしても、一体。ケルベロモンは赤い両目をにらんだ。
「俺はこんな指示を出した覚えはない。何の真似だ?」
「オレの指示だ」
答えはハグルモンの横、暗闇から聞こえてきた。気配を感じさせない存在。ケルベロモンは飛び上がりそうになった。辛うじて自分を押さえ、声の方に身構える。
「誰だ!?」
「このハグルモンの主よ。お前が見つけやすいように、ハグルモンを線路沿いに転がしておいたのさ」
返事と共に、空気が揺れた。相手が身動きし、非常灯のかすかな明かりの中に体の端が浮かび上がる。しかしそれは異様に細くあいまいで、相手の正体はつかめない。
「じゃあハグルモンは、最初からお前の指示で動いていたと言うのか」
「ケルベロモンが子ども達を倒すのを助けるように、と言ってあった。もっとも、お前がデジヴァイスに詳しければこのハグルモンが普通でない事に気づいただろうけどな」
「どういう意味だ」
「デジヴァイスは聖なるデヴァイスだ。デジタルワールドの中でも神に近い存在が生み出したもの。通常の《ダークネスギア》なんぞ歯が立たん」
「だとすると、あの時の歯車は」
そこまで言ったところで、ケルベロモンの口が止まった。この世界で神に近い存在と言えば三大天使。強大さはケルベロモンでも知っている。あの歯車にはその力を抑え込むほどの能力があったと言うのか。
今話している相手は、それほどの能力をハグルモンに与えられる。今更ながら、ケルベロモンの足が震えた。相手への対応を間違えれば、自分などたやすく消される。
「あんた、何者なんだ」
ささやくような問い。相手がのどを鳴らして笑う。
「ひひっ、そう構えるな。ガジモンから成熟期を飛ばして完全体に進化した突然変異のデジモン。それがお前だろ?」
ケルベロモンはその場にへたり込みそうになった。「セイジュクキ」「カンゼンタイ」という言葉は知らないが、言っている意味はケルベロモン自身がよく分かっている。本当ならドーベルモンに進化してからでないとケルベロモンにはなれない。なのに自分は突然ケルベロモンになり、ドーベルモン並みの力とケルベロモンの外見のアンバランスに苦しんでいる。
「お前の能力を伸ばす方法を、オレは知っている。どうだ? オレに協力するなら教えてやるぜ。その方法も、オレの事も」
ケルベロモンの心の内を正確に見抜いた一撃。ここでどう答えようと、相手の手の内からは逃れられない。そう思わせる言葉だった。
ケルベロモンは大人しく、四肢の膝を折った。
―――
大輔達は焼けた森のはずれで昼食の準備をしていた。敵に関する有力な情報はまだ見つかっていない。トレイルモンに聞き込みに行った拓也達が頼みだが。
「おーい! ハグルモンがいそうな場所分かったぜ!」
純平と拓也が線路から駆け戻ってきた。案の定拓也が先に着いて、大輔達を見回す。
「線路を山の方に行くと、工場があるらしいんだ。ハグルモンも何体か働いてるって。いかにも怪しそうな話だろ!」
「拓也……! それ、俺が聞き出したん、だからなっ!」
息切れしながら純平が抗議する。
とにかく、次の目的地は決まった。大輔は勢いよく立ち上がり、こぶしを握る。
「よし、さっそくその工場に行ってみようぜ!」
「大輔~。その前にメシ~」
ブイモンの腹の虫が鳴く。
「あー、そうだった!」
大輔のボケに、仲間達から笑い声が湧いた。
◇◆◇◆◇◆
ケルベロモンをいじりすぎて、とうとう彼専用設定ができてしまいました(笑)退場させるタイミングを見失っている事は……認めます←
もうこうなったら使い倒してやる。
さて、ユナイトは02とフロを混ぜる話ですが、単純に世界観を共有するだけの話なんて、星流は書きませんよ(にっこり)
というわけで、ここから黒幕がしゃしゃり出てきますっ。