〔21〕サヨナラ、気楽な旅よ | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 森の木々がはぜる音の中を、ケルベロモンが慎重な足取りで歩いている。緑の炎がその顔に不規則な陰影をつける。目は獲物を探して、四方にせわしなく動く。

「おい、ケルベロモン! 探してる相手はこっちだぜ!」

 目の前に大輔とブイモンが躍り出た。ケルベロモンがゆっくりと笑みを浮かべる。ケルベロモンからすれば一番探していた相手、自分の計画を狂わせた張本人だ。今はアーマー進化ができない以上、ウサギがオオカミの前に来てくれたのと同じだろう。

 しかし大輔は、ひるまずにケルベロモンをにらみつける。

「炎の町の戦いの後、悪い事にはこりたと思ってたんだけどな」

「残念だがその逆だ。お前らに負けた悔しさで、安眠もできねえ。俺が人間の子ども達になんか負けてたまるか。お前らのデータを取り込んで、もっと強くなってやる」

「強くって……お前それだけの理由で町をスキャンしようとしたのか?」

 ブイモンが呆気に取られたように聞く。

 そんなブイモンの態度を、相手は一蹴する。

「だったらなんだ。俺はただ戦いたい。そしてデータをスキャンするだけで俺は強くなれる。町のデータだろうと、その辺のデジモンのデータでもな。それ以上の理由がいるのか?」

 デジモン達はみんな生きている。かつて敵に告げた言葉が、大輔の頭に蘇る。

 その命を、力のために奪うなんて間違っている。


「力のためにみんなの命があるんじゃない。力は、命を守るためにあるんだ! これ以上デジモンをひどい目にあわせてたまるか!」

 大輔の叫びに応えて、握ったデジヴァイスが光を放つ。

 それは天に上り、弾けてデータの雨になる。

 雨は帯のように収束し、ブイモンの元に舞い降りる。

「ブイモン進化ー!」

「エクスブイモン!」


 たくましい四肢を得た幻竜が誕生した。

 足を一歩踏み出せば、周りの炎がひるむように道を開ける。

 ケルベロモンも突然の出来事に反応できないでいる。

「お前、デジメンタルでの進化しかできないんじゃなかったのか!?」

「悪いな。今さっき進化ルートが増えたんだ」

 エクスブイモンがこともなげに言って、更に一歩踏み出す。飛びかかってきたハグルモンを片手ではらいのける。ハグルモンは地面に叩きつけられ、部品を散乱させながら止まった。

 ケルベロモンがうなりながら口に緑の炎をためる。

「《ヘルファイア》!」

「《エクスレイザー》!」

 エクスブイモンの胸から白いエネルギー波が放たれ、炎とぶつかる。

 一瞬のせめぎ合いの後、白が緑を飲み込んで、ケルベロモンを襲う。

 ケルベロモンを中心に爆風が吹き荒れた。


 

「終わった、のか?」

 拓也達がそう言って集まってくる頃には、森を焼いていた炎も消えていた。風圧で炎すら吹き飛んでしまったらしい。

 大輔とエクスブイモンの視線の先には、ケルベロモンが倒れていた。身動きする気配もなく、その体にはデジコードが浮かび上がっている。

 大輔が友樹と泉へと振り返った。

「友樹達のデジヴァイスならあいつの悪い心を取り除けるんだよな。頼んでいいか?」

 二人が笑顔でうなずく。

「大輔さんのおかげで勝てたんだもん! 後は任せといてよ」

「ウイルスも消えたみたいだしね」

 二人は左手にデジコードを、右手にデジヴァイスを用意しながら、ケルベロモンに歩み寄った。

 その前に、突如割り込む影があった。

「な、なんでハグルモンがまだ動いてるんじゃ!?」

 ボコモンの声が裏返るのも無理はない。意思のないハグルモンに指示を出す者は既にいないし、先ほどのエクスブイモンの攻撃で手ひどくやられているはずだ。それがケルベロモンをかばうかのように立ちふさがっている。

「おい、あいつ様子が変だぜ!」

 純平が指さしていたのは顔の奥にある二つの目。歯車状の黒目があったはずだが、今は赤一色。口も開いたままだ。

 ガガ、とハグルモンの喉が鳴った。口から黒い歯車を吐き出す。それが積もった灰を勢いよく巻き上げた。

 その場にいた全員が咳と目の痛みに襲われる。

 ようやく目が開いた時には、ケルベロモンもハグルモンもどこにもいなかった。

「くそっ、逃げられた!」

 大輔がこぶしを自分の手に強く打ち付ける。せっかく悪しき力を取り除けるチャンスだったのに。エクスブイモンに進化した嬉しさも、これではしぼんでしまう。

「あのハグルモンも何だったんだ? ケルベロモンが連れてきた道具じゃなかったのか?」

 拓也が腕組みする。泉もあごに手を当てて考え込んだ。

「ケルベロモン自身もそのつもりだったみたいだけど……気になるわね」

「それなら、この辺のデジモンに聞き込みしてみないか? ハグルモンがどこから来たのか、知ってるやつがいるかもしれないぜ!」

 純平の提案にみんながうなずいた。

 さっきの戦いには裏がある。全員がそう感じていた。




◇◆◇◆◇◆




本当はもう1シーン入れようかと思ってたんですが長いシーンになりそうなので。ちょっと短いけどここまでです。って、ユナイトが短いのはいつものことですね(汗)


調子に乗って進化バンクを文字化してみましたが……なんかもっとカッコいい書き方があるような気がします(汗)

あ、アニメのギャグテイストな初進化回も好きですからねっ。主人公の初進化にあるまじきギャグっぷりで、さすが浦沢さんって感じで(笑)