「準備はいいか?」
輝二の言葉に、拓也がうなずいた。
今二人は、家の端と端に離れて立っている。それぞれの右手にはデジヴァイス。
ユニモンはその中間で、床に伏せて――否、行儀悪く足を延ばしてくつろいで――二人をながめている。
拓也がデジヴァイスを地面と水平にし、腕を伸ばした。
「ゲートオープン!」
声とともに、親指でボタンを押す。スキャナから普段より細いデジコードが流れ出す。
拓也の前でデジコードが素早く
拓也側の扉が作られると同時に、輝二のデジヴァイスからもデジコードが流れ出す。輝二が何か操作するでもなく、拓也側に一歩遅れて、同じ白い扉が出来上がる。
二つの扉が、同時に強い光を放つ。目を開けていられないほどの光に、拓也の体の輪郭がぼやける。
その光が収まった時には、白い一対の扉は跡形もなかった。代わりに、輝二の目の前に拓也の姿が。
「お~」
ユニモンが伏せたまま、感心しているのか適当なのかよく分からない声を出した。
輝二は満足そうな顔でデジヴァイスをしまった。
「成功だな」
「ああ……」
一方の拓也は、自分のデジヴァイスを見てげんなりした表情。その顔にはありありと「成功しなくてよかったのに」と書いてある。
その肩を輝二が叩く。
「この大雨の中動ける手段が見つかったんだ。駄々をこねている場合じゃない」
「別に、駄々こねてるつもりはねえよ」
拓也が唇を尖らせる。
ユニモンがわざとらしいため息をついた。
「あ~残念です。僕が大雨の中でも走れるデジモンだったら、代わりに行ってあげられるんですけど」
「そうだな。俺も雨を吹き飛ばせる属性を持っていれば、拓也と一緒に行けたんだが。すまない」
いけしゃあしゃあと言う二人を指さし、とうとう拓也が叫んだ。
「そんなこと言って! お前ら代わる気なんて全っ然ないだろ!」
「ない」
「ないですね」
返事は簡潔かつ容赦なかった。
ため息をつきながらも、拓也は素早く準備を済ませた。乾いた服を羽織り、改めてデジヴァイスを握る。
慣れた手つきで左手のデジコードを読み取る。
「セミスピリット・エボリューション!」
「フレイモン!」
フレイモンが戸口に立つと、輝二が石の戸に手をかけ、体重をかけて引いた。跳ねた雨が勢いよくフレイモンの足に降りかかる。が、その足を濡らす前に、フレイモンが発する熱気で蒸発していく。
エリア探索に拓也が選ばれた理由はこれだった。雨に打たれる事がなければ、体力の消耗も抑えられる。
「じゃ、行ってくる。結界のありかかエリアの出口か、何か見つけたら連絡する」
「頼む」
輝二の一言を聞いてから、嵐の中に駆け出した。フレイモンの周りで蒸気が吹き上がり、雷が空気を震わせる。熱で一瞬乾いた足跡は、再び叩きつける雨にかき消されていく。雨粒の大きさは大して変わっていない。それでも、霧が初日より薄いのは救いだ。
今のうちに何か見つけないとな。こぶしを握り直し、土を踏みしめ走った。
走りと歩きを織り交ぜながら、一時間ほど進んだ。霧の向こうに商店街のような街並みが見えた。
そこに足を踏み入れた時、フレイモンは今いる場所に気づいた。
「ここ、バーガモンの村か?」
垂れ下がる看板には見覚えがあった。木造の家が立ち並ぶ景色にも。拓也達が二年前(こちらでは十年前)に訪れて、ハンバーガー作りにいそしんだ懐かしい場所だ。
しかし、連日の雨に打たれた家々は黒ずみ、崩れている所もある。看板は地面に落ちて土にまみれている。雷が鳴るたびに、どこかの建物のきしむ音。
とてもデジモンが住んでいそうな様子はない。足元を泥水が流れていく。
フレイモンは一度うつむいた後、目を上げ、大股で近くの店に踏み込んだ。
「誰かいないか!」
声を張り上げるが、聞こえてくるのは雨漏りの音ばかり。会議でもしたのか、店のイスが円形に並べられたままだ。
奥の厨房にも踏み込んでみる。足元の木が腐りかけていて、時々嫌な音を立てた。食料庫はきれいに空になっている。残っているのは買い置きのスパイスくらいである。
開かないドアを蹴破ってみると寝室で、何故かまくらや布団のたぐいがなくなっていた。
フレイモンは一通り見回った後、デジヴァイスで通信を取った。
一通りの状況を聞いた輝二は、数秒黙って考えを伝えてきた。
『もしかしたら、バーガモン達はどこかに避難したのかもしれないな』
「それで、食料や布団がなくなってるって事か?」
『ああ。家がそんな状況じゃ住んでいられないだろう』
「確かにムリだな。でも、こんな雨の中どこに?」
『遠くない所に、避難場所があるんじゃないですか?』
ユニモンも会話に加わってきた。
「避難場所か。分かった。村の近くをもう少し探してみる」
『俺達もゲートを開いて合流するか?』
「いや、いい。こっちは休めるような場所じゃないから」
フレイモンは通信を切って、深呼吸する。そしてまた、豪雨の中に飛び出していった。
そして十分と経たず、目的地は見つかった。
窓から明かりの漏れる、石造りの建物だ。一階建てで、体育館くらいの広さがある。正面中央には分厚く大きな金属扉がある。倉庫か何からしい。
扉に近寄ると、右下に通用口があった。
それが開いて、デジモンが飛び出してきた。フレイモンに細長いものを突き付けてくる。
「誰だ! 何しにきた!」
甲高い声がする。見ると、フレイモンより一回り小さなデジモンが二体。ごまのついたパンのような帽子に、肌色の体。まだ小柄なバーガモンだ。精一杯大声を出しているが、手は小さく震えている。よく見れば、こっちに向けているのは折れた木材だ。
フレイモンはひとまず両手を上げた。
「俺は怪しい奴じゃないって。このエリアでデジモンを探してたんだ」
「そんなこと言って、僕達を捕まえる気だろ!」
木材の切っ先が近づく。震える切っ先を向けられるのは、ちょっと違った意味で怖い。フレイモンは一歩下がった。
「違うよ、俺は人間だ。ちょっと待て」
進化を解いて、拓也に戻る。バーガモン達が目を丸くした。
「拓也?」
「拓也だー!」
途端に木材を捨てて、拓也に飛びついてきた。拓也、拓也と嬉しそうに跳ねている。一体は緊張が解けたのか、涙声になっている。
拓也は一瞬ぽかんとした後、気づいた。
「もしかしてお前ら、とりからボールモンの兄弟か?」
「うん!」
二体が揃って答えて、拓也から離れた。あの六兄弟のうち二体が進化したらしい。
「他の兄弟達も中にいるよ!」
「みんなここに避難してるんだ!」
早く早く、と手を引かれて、拓也は倉庫の中に通された。
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お土産、早速役に立ちそうです。本当はこの話でそこまでやる予定だったんですけど、まあ星流のよくある長くなる、です。
ちなみに。
Q.見た目は扉なのにどうして開かないのか?
A.開いたらどうあがいてもどこ○もドアにしか見えなくなるから。
っていうしょうもない理由です。
あと、前から作ろう作ろうと思ってたんですが。
デジフロ公式サイトにあったマップを流用して、フロ02エリアマップを作ってみました。
「設定」テーマの記事で上げておきます。