一時的に異世界に飛ばされていた拓也達は、トロッコに乗って十闘士の世界へ戻ろうとしていた。一点の光もない空間に、レールだけが一直線に浮かびあがっている。何十分か何時間かも分からない間、二人は規則的な揺れに揺られ続けた。
やがてレールの先に光が浮かぶ。トンネルを抜け出る時のように、その光がみるみる大きくなり、視界を覆う。
そして、猛烈な雨が二人を襲った。
嵐である。頭上には暗雲と金色の
次第にトロッコの速度は鈍り、完全に停止する。役目を果たしたトロッコは、雨に溶けるように消え失せた。拓也と輝二は嵐の中に取り残される。
「どうするんだよ! これ!」
雨音に負けじと、拓也が声を張り上げる。もらった問題集を傘代わりに頭上に掲げているが、この嵐では役に立たない。むしろ問題集を覆っているビニール袋に穴が開きそうである。
輝二も芯まで濡れながら叫び返す。
「とにかく! 雨をしのげる所を探そう!」
「ああ! このままじゃ! 体力けずられるだけだ!」
大声で会話しつつ、辺りを見回す。が、滝のような雨の中で視界は効かない。
拓也が口を開くと、雨粒がのどに飛び込んだ。
「ごほ、ったく、どっちに行けばいいんだよー!」
「僕は右ななめ30度の方向をおすすめしますよ」
「右か。俺には何も見えないが」
そこまで言って、輝二の口が止まる。二人の首が勢いよく動く。
いつの間にか、二人の間に馬の
拓也がその頭を勢いよくなでた。しぶきが飛び散る。
「ユニモン! お前、俺達を乗せてくれたユニモンだよな!」
「他に、こんな雨の中あなた方の所まで来るユニモンがいますか」
ユニモンが口をへの字に曲げた。それを見て輝二も表情を和らげる。
「無事でよかった。お前はこっちの世界に着いてたんだな」
「ええ。この辺りで時空のゆらぎを感じたので来てみたんです。ところで」
ユニモンが濡れそぼったたてがみを気持ち悪そうに振る。
「話をするなら移動の後にしませんか? このままだと全員風邪をひいちゃいますよ」
行き先を右ななめ30度に据え、豪雨の中を五分ほど歩く。雨に打たれ容赦なく体温を奪われていく、遅々とした移動。
その末に着いたのは石造りの家が並ぶ村だった。家の一つに入った所で、ようやくまともに息を吸った。
天井も壁も床も灰色の石で固められた、正方形の家だ。小さな窓はあるが、今は分厚い石で閉じられている。奥の暖炉で燃えている火だけが明かりだった。外で荒れる天気も、中ではほとんど聞こえない。住民は避難してしまったのか、拓也達以外に生き物はいなかった。
ユニモンが入り口で体をゆすり、水を吹き飛ばした。早足に火のそばに寄る。
拓也と輝二も上着を脱いで、入り口で絞る。この場には男しかいないからと、下着以外も全部絞った。
部屋の隅からいすを持ってきて、服を暖炉のそばに干した。自分達も座って暖を取る。
体が温まるまで、無言の時間が流れた。
「もう、戻ってこないんじゃないかと思いました」
床に伏せたまま、ユニモンがつぶやいた。先程までの口の悪さと違い、心細さが透けている。
揺れる火に目を向けたまま、輝二が静かに聞く。
「俺達がはぐれてから、こっちでは何日経った」
「六日です。毎日この天気なので身動きもとれず、一人で待っていました」
拓也は顔をしかめた。ネプトゥーンモンの生死も分からない状況で、このデジモンは六日も自分達を待っていてくれたのだ。
「そうか。悪かったな」
「いえ。あなた方を落としてしまった僕も悪いんです」
床にあごをつけたまま、ユニモンが首を横に振った。
また沈黙が流れ、今度は拓也が口を開く。
「ここは俺達の、十闘士のデジタルワールドだよな。どの辺りなんだ?」
「僕も初めて来たのでよく分かりませんが、荒れた状況から考えると、結界の壊れたエリアの一つ。天気も含めて考えると雷のエリアではないでしょうか」
ネプトゥーンモンから、十闘士の世界の現状は聞いていた。スピリットによる結界が破られたエリアは風、氷、雷、闇の四つ。雷雨からして雷で間違いないだろう。
「これからどうするんですか?」
今度はユニモンから聞く。
輝二が片手でデジヴァイスを操作する。
「輝一達と連絡が取れればいいんだが、天気のせいか距離のせいか、全然つながらない」
「ひょっとして、デジヴァイスが故障してるんじゃないか?」
「まさか。疑似だろうとデジヴァイスはデジヴァイスだ。大雨でダメになるような機械じゃない」
「そっちじゃなくてさ。ほら異世界で、お土産とか言ってデジヴァイスいじられただろ。それで壊れたんじゃないかって」
輝二が黙って、デジヴァイスの上を指が動く。
「通信機能自体は生きてるし、疑似スピリットやデジモン解析も異常はない。もらったデータのせいじゃなさそうだ」
それを聞いて、拓也は少しだけ残念に思った。
「となると、この天気を何とかするか、通信のできる場所まで移動するかですね」
ユニモンが話をまとめる。拓也はうなって腕を組んだ。
「嵐を止めるなら結界を直しに行く。通信するならこのエリアを出る。どちらにしろ外がこれじゃあな……」
黙り込んだ全員の耳に、嵐の吹き付ける音が微かに届いた。
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半月以上空きましたが、拓也輝二がatonementの世界から帰ってきましたっ! おみやげに問題集と、お互いのデジヴァイスのある場所に移動できる機能(ドラ○もんの四次元ポケットとスペアポケットみたいな?)をもらってきました。
雷のエリアは嵐が乱舞しています。最初は雷をドカンドカン落とそうかと思ったんですが、あまりにも危険なので嵐にしました。そのせいで水属性が入りましたが見逃してください←
更に、雨にともない問題集がダメになりそうだったので急きょビニール袋で防御。さすがに一発でダメにするわけにはいかないので(笑)
うーん、なんて(設定的に)面倒なエリアなんだ……。