第119話 八人目の子ども!? 名前を知らない少年 | 星流の二番目のたな

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 少年から事情を聞くのは、残念だけどすぐにはできなかった。
 本人が気絶したまま、眠り込んでしまったからだ。

 俺は逆に、目がさえて眠れない。ベッドの横でイスに座っている。少年の顔に視線を向けたまま、頭の中では疑問が駆け巡っている。
 今この世界に、人間は5人しかいないはずだ。俺と友樹、泉、純平、輝一。それ以外にトレイルモンに乗って来た人間はいない。そして、それ以外に人間世界からデジタルワールドに来る手段はほとんどない。
 前に輝一が「2年前は精神だけがこの世界に来ていた」とか言ってたけど、それだってそうそうある話じゃないはずだ。人間世界で少年に何かあって、精神だけがこの世界に来て、追手に追われて、俺に行き当たる、だなんて偶然にもほどがある。
 元・三大天使が他の子どもを呼んだのか、とも考えた。でも友樹達は俺を探すのにかかりきりだろうし、すぐに他の子どもを呼べるとは思えない。
 あと人間をこの世界に連れてこられるとしたら……十二神族か? でもあいつらは兄貴と輝二をさらってる。なのにわざわざ新しい人間を探してくるか?
 考えてるうちにこんがらがってきて、俺は答えを見つけるのを諦めた。何にしろ、少年が起きてから話を聞けば分かるはずだ。


 でも、起きるまでずっと横に座ってるのも何だな。
「プレイリモン、台所貸してくれるか」
あいつのために、食べやすくて栄養のあるものでも作ってやろう。
 この世界に米はないから、おかゆは無理だな。スープキャベツとジャガモンイモがあるから――。



 二十分後、深皿を持って少年のそばに戻る。
机に皿を置くと、少年の頭が動いた。横になったまま、顔と目を俺に向けている。
俺は座って目を合わせる。
「おはよう。どこか痛い所はないか?」
 少年は枕に頭を置いたまま、首を横に振る。その目が皿に向いた。
「食べるか?」
 今度は首を縦に振る。俺が深皿を持っていく間に、少年は上半身を起こした。
 深皿とスプーンを手渡すと、少年はすぐに食べずに、皿の中身を見つめた。
「コンソメスープだよ。食べたことないのか?」
 俺が聞くと、スープを見たまま首を傾げる。それでもスプーンを手に取って、スープを口に運んだ。口の中で転がしてから、飲み込む。
「うまいか?」
 その質問には頷いて、スプーンどころか皿から直接飲む勢いで食べ始めた。
 コンソメのスープキャベツを煮て、ジャガモンイモを入れただけの単純な料理だ。でも、相手がこれだけ夢中で食べてくれると、こっちも嬉しい。
 ずっと強張っていた頬の筋肉が、少しほぐれた気がした。

 少年はあっという間にスープを飲み干して、大きく息を吐いた。
 これでやっと話ができる。
 俺はイスに座り直した。
「遅くなったけど、俺は神原信也。小学5年生だ。お前は?」
 少年は口を開いた。
 が、肝心の名前が出てこない。
 戸惑っているのは俺だけじゃなかった。少年自身も口を開いたまま、困って目を泳がせている。
「分からない」
 少年の喉から、初めてか細い声が出た。でも、分からないって。
「名前、ないのか?」
 俺が聞くと、顔をしかめて考え込んで、また「分からない」とつぶやく。
 もしかして、覚えてないのか。記憶喪失ってやつなのか?
「じゃあさ、名前じゃなくてもいい。何か覚えてることないか?」
「……怖いものに、追いかけられてた」
 少年は顔をしかめたままで、記憶を引き出そうと懸命になっている。
「目が覚めたら暗い所にいた。そばに誰かがいて、何かでぶたれた。それで、怖くて、逃げた」
 少年が泣きそうな顔になって、深皿を手放した。スプーンが布団の上に転がる。
 俺はそっと皿とスプーンをどけた。確かに少年の体には、あちこち浅い切り傷があった。少年を助ける時に会ったデジモン、あれが少年を追い立てていたんだろう。
 でも、理由は全然分からない。少年も自分が誰なのか分からないみたいだし、謎ばかりが増えていく。
「そうだ」

 少年が目を上げた。俺もつられて少年の顔を見る。

「大きな建物があった」

「建物って、どんなのだ?」
「えっと……白くて、横に細長く広がってる。すごく大きい」

 最初は三大天使の城かと思ったけど、違うらしい。白くて縦に長いなら答えは「人間世界のビル!」だけど、横に長いんじゃ違うよな。学校も「すごく大きい」ってほどじゃないし。

「お前、そこにいたのか?」

「……思い出せない。でも、デジモンがいた」

「デジモンって、どんな?」

 それには必死に顔をしかめて考えてから、肩を落とし、首を横に振る。

 だとしても、今のは重要な手がかりだ。デジモンがいたのなら、その建物があるのはこのデジタルワールドの可能性が高い。十二神族の世界って可能性もあるけど、少年が世界を超えて逃げてこられるとも思えないし。


 そこまで考えてやっと、自分が少年の記憶探しを手伝おうとしているのに気づいた。自分の身も守れない状態なのに。自分のやるべき事も分かっていないのに。

 いや、これはいい機会なのかもしれない。少なくとも何かやっていれば、この世界でやる事があれば、俺自身の悩みを忘れていられる。「俺にはこの世界でやる事があるんだ」って自分に言い聞かせられる。

 何かを失っているのは俺も少年も同じだ。

 俺はポケットの上から、空になったデジヴァイスに触れた。

 改めて顔を上げる。

「なあ、お前がよかったらさ。俺と一緒に旅しないか?」

 少年が俺の顔を見て、まばたきした。俺は軽く肩をすくめて、話を続ける。

「俺もちょうど目的のない旅に出ちゃった所だから。お前を放っておくわけにもいかないし、記憶探しを手伝ってやるよ」

 俺の言葉に、少年の口元が、初めて、小さくほころんだ。俺を見たまま、深く頷く。

 こんな俺でも、少しだけこいつの不安を減らしてやれるんだな。

 かすかな笑顔を見て、俺はそんな事を思った。




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数えてみたら、彼がフロ02において八人目の子どもでした。別に八人揃えようとか狙ってやってたわけじゃないんですが(苦笑)

次回もう一話信也達の話をやって、その次は友樹達の話に……行きたいなあ(予定は未定)