第118話 後悔したくない 必死の救出劇! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 どこからか、歌が聞こえる。

 空から降ってきている気もするし、地から沸き起こっている気もする。

 歌詞ははっきりとは聞き取れなくて、メロディーだけが聞こえてくる。きれいな曲なのに、聞いてると悲しくなってくる。

 半分眠りながら、歌に耳を傾ける。その内に、歌は風の吹く音に紛れて聞こえなくなった。

 代わりに、誰かが草を踏んで走る音。

 俺は薄目を開けた。真夜中らしく、外は月明かりも刺さない暗闇。そんな中で、誰かが走ってるなんて考えられなかった。きっと、風の音を聞き間違えたんだろうと思った。

 でも、助けを求める声だけは、間違えるはずがなかった。一瞬で目を開けて、背筋を伸ばした。

 今確かに、「助けて」って聞こえたんだ。

 反射的に外へと這い出し、ポケットに手を伸ばす。


 そこで動きが止まった。

 俺は何をしようとしているんだ? ポケットの中にはデジヴァイスがある。でも、進化する力はない。

 誰かが逃げているとしても、俺に敵を追い払う力はないんだ。それなのに、行って何になるっていうんだ。

 ポケットに伸ばした手が、ゆっくりと地面に落ちた。

 遠くからは、まだ誰かが叫ぶ声が聞こえてくる。俺はこぶしを握り、歯を食いしばった。

 俺に助けを求めないでくれ。戦えない俺に、戦えなんて言わないでくれ。

 俺には何も……。

 いや、様子を見るだけならできるかもしれない。見に行って、人間の俺でも力になれそうだったら手伝ってやればいいんだ。進化できなきゃどうしようもないなら、こっそり戻ってくればいい。そう、それくらいなら。

 俺はバッグをかついで外に出た。闘士でなくなった俺に何ができるのかは分からない。ただ一つ分かっているのは、このまま声を無視したら、俺は絶対に後悔するという事。

  「闘士だった」というプライドか、「見捨てた事を恨まれたくない」という臆病心か、何かが俺を突き動かしていた。


 風の吹きつける中に立って、耳を澄ます。足音は風上、右手の方から聞こえてくる。背をかがめて草に身を隠し、早足に進んだ。

 近づくにつれ、他の音も聞き取れるようになってきた。不規則な軽い足音。その後から規則的な足音。時々鋭く風を切る音も。薄雲から差し込むわずかな月明かりで、逃げる小柄な影と、それより二回り大きな追う影も見えた。その差は見る間に縮まって、とても逃げ切れそうにない。

 とっさに俺は、バッグの中を探った。手が肉リンゴをつかむ。

「うりゃあああ!」

 気合と共に、追手に投げつける。追手の顔面に飛び、リンゴが弾け飛んだ。

 その間に、逃げてきた奴の手をつかむ。

「早くこっち……っておい!」

 引っ張ると、そのまま俺の方に倒れ込んできた。よろめきそうになって、慌てて足を踏ん張る。しかも、叩いても呼んでも返事がない。安心して気絶したんだろうけど、逃げる前から気を失うのはやめてくれ!

 ヴゥ、と背後で唸り声がした。振り返ると追手が近づいてきていた。暗がりで良く分からないけど、見た事のない人型デジモンだ。背はアグニモンくらいあって、両腕から鞭らしき武器を下げている。

 俺の足元に放られたのは、真っ二つにされた肉リンゴ。顔に当たるどころか、足止めにもなってないのかよ。このままじゃ、乱入した俺までピンチになるだけじゃないか。
 他に時間稼ぎする手段は――。

 気絶してる奴を背負って、俺は必死に駆け出した。反応して、追手も足を速める。

 その足音が、急に乱れた。追手の倒れる音。俺は振り向かずに走りながらこっそり笑った。逃げ道にサッカーボールを隠しておいて正解だった。こんな暗い夜じゃ、足元まで見えないからな。

 少しは距離が開いたけど、「荷物」をかついでる俺の足は速くない。逃げ切るより、どこかに隠れる事を考えないと。
「ここへ!」

 横の草むらから声が上がった。草の陰からデジモンが顔を出している。俺が駆け寄ると、草の中にひっこんだ。草をかきわけてみれば、上手く隠された巣穴の入り口があった。人間でも十分入れそうだ。

「先にこいつを!」

 背中の奴を降ろして、穴の中にいるデジモンに渡す。デジモンが中に引きずり込んでくれた。俺も頭からもぐりこむ。

 中は天井も高く、子どもなら十分背を伸ばせた。広さも俺の家のリビングぐらいはありそうだ。天井や壁には発光ゴケが張ってあって、部屋を昼間のように照らしている。
 俺が入ってきてすぐ、デジモンが穴を駆け上り、入り口にふたをした。追手の気配もない。やっと肩の力を抜いた。

 巣穴には他にもデジモンがいるらしく、俺が助けた奴を奥に運んでいくのが見えた。

「ありがとうな、助けてくれて」

 戻ってきたデジモンにお礼を言う。背は俺と同じくらいあるデジモンだ。茶色いウサギみたいな外見で、耳と手の爪は金属製だ。

 デジモンはいえいえ、と首を振った。

「地上であなた達が追われているようだったので、巣穴を開けたまでです。私はプレイリモン」

「俺は、神原信也。見ての通り人間だ」

 人間、と聞いてプレイリモンの目が輝いた。

「まあ。もしかして、十闘士のおひとりですか?」

「あ……一応、な」

 プレイリモンの尊敬の目が耐えられなくて、俺は目をそむけた。

 そんな俺の気持ちには気づかず、プレイリモンは「どうしてここに?」とか「何のスピリットを使うんですか?」とかずけずけ聞いてくる。答えられるかよ、と思って「秘密」と答えれば、「なるほど、十闘士の機密ですね!」と言われる。

 頼むから、好奇心で人の傷をえぐらないでくれ。

 そう叫びそうになった時、更に聞かれた。


「もしかしてもしかして、さっきの人も十闘士ですか?」

「……え?」

 最初、言われた意味が分からなかった。

「いや、あいつはついさっき助けた奴で」

「お知り合いじゃないんですか?」

 話がかみ合わない。

 今の今まで、この辺りに住んでるデジモンを助けた気でいた。

 俺は誰を助けたんだ?

 プレイリモンを突き飛ばして、奥の部屋に走る。そいつはベッドの上に寝かされていた。

 発光ゴケの光で、俺はようやく誰を助けたか知った。

 明るい茶色の髪。白い肌。砂にまみれた服から出る手足。何の武器も防具も持たない姿。

 人間だ。フェアリモンやエンジェモンのような人型デジモンじゃない。俺と同い年くらいの、人間の男の子だった。




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作者星流、ここに来て人間キャラを増やしにかかります。

といっても、星流としては「やっと出せた!」という気分なのですが。

外見と設定が確定したのが去年の10月、そもそも構想が出だしたのはおととしの7月(!)リデジがPSPで出た頃ですよ。

……やっと出せたー。


あと、木のエリアから移動したのでPC版トップの写真とスマホ版の背景を変え(て)ました。



今回初登場のデジモン

プレイリモン