「敵に囲まれててデジメンタルまで取られたら、勝ち目ないじゃない!」
「ああもう、どこかに俺のスピリットがあったりしないのかよ!?」
うろたえる泉と純平。
拓也は涙目の友樹を背中にかばい、精一杯フレイウィザーモンを睨みつけている。友樹の後ろにはボコモンが、ボコモンの後ろにはネーモンが隠れている。
状況は絶望的だった。
拓也達にとっては。
「人をだまして盗んでおいて、よくそんな偉そうな口が利けるよな」
大輔が持ったままのデジヴァイスを顔の横で振った。
その顔は冷や汗をかいてもいなければ、ひきつってもいない。横で腰に手をやりうんうんと頷いているブイモンも同様だ。
「大輔、俺達のもう一つの力見せてやろうぜ!」
「ああ!」
「デジメンタル・アップ!」
「ブイモン、アーマー進化!」
黒いデジメンタルを身にまとい、雷の力を持つ四足のデジモンが生まれる。
「轟く友情、ライドラモン!」
「ふ、二つ目のデジメンタルだとーっ!?」
帽子が飛び上がらんばかりの勢いでのけぞるフレイウィザーモン。
大輔は得意げに鼻の下を指でこすった。
「へへっ、俺が受け継いだ力は一つじゃないって事さ。行くぜ、ライドラモン!」
大輔が慣れた動きでライドラモンの背に飛び乗った。
ライドラモンの足が地面を蹴り、後足がキャンドモン達を蹴散らす。
額の稲妻状のブレードから青い雷がほとばしる。
「《ライトニングブレード》!」
直線状のキャンドモンが次々と宙に舞う。フレイウィザーモンは両手のマッチを重ね、辛うじて攻撃を受け止めた。
対峙するライドラモンとフレイウィザーモン。
「どうだ! 大人しく勇気のデジメンタルを返せ!」
「返せと言われて、はいと返す奴がいるかっ!」
ライドラモンの気迫にフレイウィザーモンが歯ぎしりする。
「うわあああ!」
背後から聞こえる悲鳴。大輔は反射的に振り返った。
拓也達がキャンドモン達に追われている。ライドラモンが蹴散らせなかった残党だ。無力な子ども達に次々と炎が吐かれ、熱いろうが湯気を上げる。
「よそ見をしてていいのか? 《ファイアークラウド》!」
いつの間にかライドラモンの頭上に赤い雲が。避けるも間に合わず、火の矢が雲から降り注ぐ。
ライドラモンが片膝をついた。
「うむ、当たった」
思わずガッツポーズするフレイウィザーモン。
大輔は慌ててライドラモンの背から滑り降りた。
「大丈夫か、ライドラモン!」
「ああ、大輔こそ……」
苦しげに、しかしパートナーの事を気遣うライドラモン。
「俺は平気だ。髪がちょっと焦げただけだし。それにしても」
大輔は厳しい表情でフレイウィザーモンとキャンドモン達を交互に見た。
「これじゃ数が多すぎる。ライドラモンだけじゃ、みんなをかばいきれない」
「なら、早くこいつをなんとかしよう! それしかない!」
ライドラモンがフレイウィザーモンに向き直る。
大輔も拓也達から強引に視線を外した。
「そうだな。全力で行け!」
再び肉薄しようとするライドラモンに、赤い雲が迫る。
「《ライトニングブレード》!」
雷一閃。雲が真っ二つに割れ、霧散した。
「んなっ! 雷が雲を裂くなんてそんな事――」
「ありだよあり! くらえ、《ブルーサンダー》!」
ライドラモンの背中の突起から、強烈な電撃が放たれた。フレイウィザーモンの全身が青い電気に包まれ、痙攣する。
電気が収まると、フレイウィザーモンはぶすぶすと煙を上げながら地面にひっくりかえった。体がデジコードに包まれ、赤い光が大輔のデジヴァイスに飛び込んでくる。
大輔がD-ターミナルを開くと、デジヴァイスから勇気のデジメンタルが戻ってきた。気絶したフレイウィザーモンもキャンドモンの長老に戻る。体のろうが少し溶けているように見えるが、気のせいだろう。
「よし、勇気のデジメンタルは返してもらったぜ!」
D-ターミナルを閉じながら、勝ち誇る大輔。
「拓也、みんな、お待たせ……」
振り返った大輔の視界に飛び込んできたのは、崖のふちに追い詰められた拓也と友樹の姿だった。
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フレイウィザーモン(というか長老)が完全にギャグキャラ化してしまいました(笑)