俺が部屋に入って最初に感じたのは、自分に突き刺さる視線だった。
その元は二組の人間とデジモンだ。また異世界から人が来た、という話は聞いていたから、初対面でも大体名前が分かる。
でも、いきなり厳しい視線を向けられる意味は分からなかった。
「『闇』の闘士、か」
男子の方――巧がつぶやく。その視線は俺に向いているようにも、ここにいない「誰か」に向いているようにも見えた。
「……っと、俺何かまずい事言ったか?」
信也が遠慮がちに巧に聞く。
巧ははっと顔を信也に向けて、首を横に振った。
「いや……これは俺達の世界の問題だし、こっちでは関係ないかもな」
そう言って見せた笑顔は少しぎこちなかった。
女子――葉月は黙っている。でもその手がかすかに銃へと動いていた。
デジモン達も冷静さを装いながら、緊張の表情をにじませていた。
「何かあったみたいだね。君達の過去に」
俺が静かに言うと、四人が顔を見合わせた。話すべきか迷っているみたいだった。
結局巧が頷いて、最初に口を開いた。
「……つい二日前に、目の前で仲間を乗っ取られたんだ」
「悪核――分かりやすく言えば闇の力ってやつにね」
葉月が補足する。
「じゃあ……今その仲間は」
泉はこの先の話が読めてきたらしい。声に心配の響きが混じる。
ピクシモンがため息をついて答えた。
「今は敵同然。暴走して何をしでかすか分からないって状態……らしいわ」
真逆に、リオモンは自信を見せつけるように腕組みした。
「ま、俺達はどんな手段使ってでも正気に戻してやるつもりだけどな!」
その様子を見て、俺への警戒心にも納得がいった。仲間を失ったばかりなのにそれを連想させる人間が出てきたら、動揺しないわけがないよな。
ぎこちない空気を崩すように、泉が明るい声を出した。
「それだけ仲間の事を考えてるのなら、きっと助けられるわよ。ね」
最後は俺に話を振ってきた。話の切り出しかたに困っていたから、正直嬉しかった。
怪訝(けげん)そうな顔の四人に、俺から話をする。
「俺にも、騙されてみんなと敵対してた時があった。実の兄弟を殺しかけた事もあった。……でも仲間が俺のために、俺と戦ってくれた。おかげで今は、こうして一緒に過ごしていられる」
いつもならこの話をする時は気が重いのに、今日は迷わずに言葉が湧き出た。
自分の過去が誰かの未来に繋がるなら、ためらいはなかった。
「俺は巧達の事も、その仲間の事もよく知らない。だけど、仲間を救いたいと思えば、そう信じて進み続ければ、意志が力になってくれる。気休めじゃなくて、自分の経験からそう思うんだ」
俺が息をついた時には、雰囲気も大分やわらいでいた。
「信じて進む、か。やっぱりそれしかないよな」
巧が立ち上がって、俺に手を差し出した。背筋が伸びて表情も明るい。
「せっかく帰ってきたばかりなのに、妙な空気にしちまったな」
その言葉に、俺は笑って首を横に振った。巧の手を握り返す。
「いいよ。巧達が早く元の目的に戻れるように、俺も精一杯協力する」
「そうと決まれば、あのでかい山をどかす方法を考えようぜ!」
リオモンの声で、話は作戦会議に移った。
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改めて計算してみると、真治の離脱はこの場面の一昨日かそこらになるんですよね。近い!
再起してすぐとはいえ、急に闇堕ち関連の話がきたらまだ動揺するんだろうな、という発想で書いてみました。上手く書けてる自信が今一つですが(汗)本人が隠そうとしてる動揺を書くのって難しい。
さて、昨日パソコンうんぬんと言っていたのにどうした、総ツッコミされそうですね。
実はふと「スマホでの入力は遅いけど、ガラケーなら早いんじゃないか?」と思って、先代の携帯で執筆しました。あとは赤外線でスマホに送り、それをアメブロに貼り付けと。赤外線万歳。
パソコン入手するまでは、とりあえずこの手段でなんとかなりそうです。
あと、今さらながらトップの画像を森にしました。木のエリアだからそれっぽくしたいと思い立ちまして。