ブリザーモンの時よりも更に一回り大きくなった足で、地面を踏み締める。足を着いた所から針のような霜柱が広がっていく。体から噴き出す冷気が地面を凍りつかせているんだ。
僕の横にはエンジェが進化したデジモン――サクヤモンが浮かんでいる。人間の女性がキツネの仮面をつけたような姿だ。空中に立っているだけなのに、背筋の伸びた姿は気品を感じさせる。
僕達の進化を見たスピノモンがのどを震わせ威嚇してくる。
エンジェが僕の方を見た。
「フロストモン、だったよね。ボクが援護するから攻撃して」
「うん!」
僕は頷いて、短距離走の時みたいに両手を地面につけた。
「エンジェ! フロストモン! 一気に奴を畳んじゃえ!」
トモヒロの声をピストル代わりに、僕達はスピノモンに向かって駆けだした。
僕は四本足の体勢のまま、地面を蹴っていく。その横をサクヤモンが滑空する。
「グオオ!」
スピノモンが背中の刃を乱射してくる。
「《光のマンダラ》!」
エンジェの声が響き、僕の体が光のベールに包まれる。
スピノモンの刃は全てベールに弾かれていく。
刃が効かない事を悟ったスピノモンは、高熱の金属を吐こうと体を起こす。
「させるか!」
僕は立ち止まり、一瞬で狙いをつけた。
「《アイスプラント》!」
背中の二基のランチャーからロープのついた銛を撃ちだす。地面に銛が突き刺さり、ロープが生き物のように動いてスピノモンを縛り上げる。このロープはブリザーモンの髪と違って、距離や力の差をを気にせず相手の動きを止められる。
「《イヅナ》!」
間髪いれずに、四色の管狐がスピノモンを横殴りに攻撃する。中途半端に吐きだされた金属はスピノモンの足元で煙を上げた。
後は必殺技で終わらせる!
僕が体に力を込めると、全身から噴き出す冷気が増した。空気が真冬のように張り詰める。
四本の足でスピノモンに向かって駆けだす。地面が一瞬にして凍りつき、僕の進む先に氷の道を作り出す。一歩蹴りだすたびに、僕の体は加速していく。
動きを封じられたスピノモンの姿が迫る。その目前で、僕は両脇に差した斧を抜いた。
「《ロードオブグローリー》!」
加速した勢いのまま、両手の斧を振り抜いた。急ブレーキをかける僕の背後にスピノモンが残される。一対の斬られた跡と共に。
僕が斧を腰に戻して振り向くと、スピノモンの体にデジコードが浮かび上がった。
「正義を乱す存在を、このデジヴァイスが氷のように固い決意で浄化する! デジコード・スキャン!」
白いデジタマが暗い空に消えて、戦いは終わった。
「トモヒロ!」
「友樹!」
キラと純平の声がした。城の方から信也、キラ、純平が走ってくる。
キラがエンジェを見上げて目を丸くしている。
「このサクヤモンってまさか……エンジェ!?」
そんなキラにトモヒロが嬉しそうに進化のいきさつを話し始める。
「友樹もいつの間にダブルスピリットできるようになったんだよ!」
純平が笑ってこぶしを振り上げる。
「えへへ。ついさっきね」
僕は小さく肩をすくめる。
「友樹もダブルスピリットできるようになったのか……よかったな」
信也は口でそう言ってるわりに、僕を見ようとしなかった。
その理由は想像がついたから、僕は何も言わなかった。
―――
「エンジェ、向こうに帰っても、元気でね……ぐすっ」
「えぐっ……ボクも、パタモンの事、絶対忘れないよ」
パタモンとエンジェが涙でぐしゃぐしゃになりながら別れの言葉を言っている。
俺と友樹とパタモン、キラとエアとトモヒロとエンジェ。この七人は城近くの森の中にいた。ここはキラ達が最初にこの世界に落ちてきた場所。
昨日の戦いの後この辺りの時空が落ち着き、ゆがみが安定するようになった。またその安定が崩れる前に、キラ達は元の世界に帰る事になったんだ。
「全くずるいよ。僕が寝てる間にみんな戦っててさ」
「前にトウガラシ口に突っ込まれても寝てたくせに、何言ってるんだよ」
すねているエアに、キラが笑って突っ込みをいれている。
俺は言おうかどうか迷っていたけど、心を決めてキラに近寄った。
「おい、キラ」
「ん?」
キラが俺の顔を見る。
「昨日の勝負さ、結局うやむやになっただろ。だから――」
「何? 直接勝負でもする?」
「っ! 違う! いや、大体合ってるけどでもちょっと違う!」
先を越されてペースが乱れる。
絶対に口には出さないけど、認めたくないけど、今の俺じゃきっとキラには勝てない。だけど、兄貴に負けたくないのと同じようにキラにも負けたくないんだ。
だから。
「次に会う事があったら、俺と一対一で勝負しろ! それまでに、俺はキラに余裕で勝てるくらい強くなっててやる」
キラが楽しそうに笑った。
「三秒でKOされても知らないよ?」
「それはこっちのセリフだっての!」
全く、人が真面目に話してるのに。
俺は小さくため息をついてから続けた。
「だから、俺の見てない所でめげるなよ」
「……うん、分かった」
最後は急に真面目な声で返してきた。
「信也、元気でね!」
エアの言葉に俺はにっと笑って親指を立てた。
トモヒロはまだ泣いているエンジェを抱えてその横に並ぶ。
最後にキラがそのそばに行って、四人全員がそろった。
「それじゃ、いきます!」
パタモンが上空のゆがみに向かって集中する。
小さかったゆがみが急に大きくなり、風が吹き起こる。
俺と友樹が踏ん張る向こうで、キラ達が風に巻き上げられ、ゆがみに飲み込まれた。
そしてそのゆがみも小さくなって消えた。
「……行っちゃったね」
友樹が少しさびしそうにつぶやく。
「ま、俺はうるさいのがいなくなってせいせいしたけどな」
俺は軽口を叩いて頭の後ろで手を組んだ。
「さて、早く城に戻ろうぜ。まだこっちの戦いは終わってないんだし」
そう言って城に向かって歩き出す。
パタモンも涙をぬぐって飛んでくる。
「またお城に、エンジェみたいな別の世界の人が来てたらいいです~」
「はは、そんな二度も三度もないと思うけど」
友樹が苦笑しながらついてきた。
本当に、何度も異世界の人間が落ちて来るなんてそんなこと……ない、よな。
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キラさんとのコラボ編終了です!
……ちゃんと「あと1話」で終わらせた私を褒めてください←
あ、キラさん、サクヤモンの喋り方とか、違和感あった所あったら言ってくださいね。直すから。
さて、フロストモンのデータを下にまとめておきます。
フロストモン
伝説の十闘士の力を全て受け継ぎ、未知の力を得る事で伝説を超えたデジモン。四本足になった事に加え、全身から噴き出す冷気で地面を凍らせる事で驚異的な速さでの移動が可能になった。
必殺技は背中のランチャーからロープのついた銛を打ち出す《アイスプラント》と、凍らせた地面を駆けその勢いで斧を振り抜く《ロードオブグローリー》。
名前は霜(frost)から取りました。ちなみにその他の案は「ビバーグモン」「ホッキョクモン」……フロストモンにしてよかったです(真顔)
技の《アイスプラント》は実際にある食用植物から名前を取っています。食べたことないけど。響きがいかにも「氷+木」だったので。
《ロードオブグローリー》は、とあるゲームにあった技の名前。ちょうど移動しながら攻撃する技だったので、こちらも拝借してきました。「クロスロードエボリューション」とちょっと名前が被ったのは見なかったことにして(汗)
さて、次にコラボする人はもう私の中で決まってるんですが……リアルの都合上、書く時間がなあ(汗)
せっかく参加していただいているのに、遅筆で済みません(泣)