黙っているレッパモンを見て俺は確信した。やっぱりこいつ、何か隠してる。
「尻尾をつかんだ……といった所かしらね」
「! あ、当てずっぽうを言うな!」
シューツモンの言葉に、レッパモンが目に見えてうろたえた。
同時にそのすぐ横で何かの動く気配がした。
……もしかしたら。
「シューツモン、あいつの動きを止められるか?」
「任せて」
俺の言葉にシューツモンが応える。
「《ウィンドオブペイン》!」
素早く放たれた羽がレッパモンに飛ぶ。それは正確にレッパモンの毛を縫いとり、地面に縛りつけた。
チャンスを逃さず、俺が跳んでレッパモンの背後に回る。尻尾が無防備だ。
「くらえ!」
体重の乗ったこぶしを尻尾に叩きつけた。勢いで尻尾が地面にめり込む。
尻尾の目がくらくらと回って、そのまま気絶した。
逆に、本体の体の方が微かに動いた。
首だけを動かして、俺達3人を順番に見る。
「あなた方は……先程の人間の方々? 何故デジモンの姿になっているのですか?」
「君がいきなり俺達の事を襲ってきたんだ。覚えていないのか?」
ライヒモンの問いに、レッパモンは少し考えて首を横に振った。
「すみません。みなさんにバリアの解き方をお教えした後の事は何も……」
俺はその言葉を聞き流しながら、じっと耳を澄ませていた。背後の壁の近くで、何かが空気を切って動くかすかな音。
「そこだ! 《バーニングサラマンダー》!」
火の玉が壁に向かって飛ぶ。
「ギャッ」
悲鳴とともに、デジモンが一体現れた。それが床に転がる。茶色い獣で、下半身が煙のようになっている。
「このデジモンは……確か、バクモン?」
シューツモンの言葉に俺がうなずく。
「よくは分からないが、どうやらこいつがレッパモンを操ってた犯人みたいだな」
ライヒモンがデジヴァイスで情報を読み取る。
『バクモン。医学用コンピュータから生まれたデジモン。必殺技は相手に悪夢を見せる《ナイトメアシンドローム》』
「そうか。このバクモンが真犯人なんだな」
「なるほど。そう言われると私も納得いたしました」
ライヒモンの言葉に、レッパモンが体を起こす。
「この城は何重ものセキュリティで守られていて、城のデジモン以外は入口すら通過できない。だから私に悪夢を見せる事で操り、ここまで入り込んだのですね」
「でも、バクモンの力じゃレッパモンの尻尾の意識だけは乗っ取れても、本体の方は意識を抑え込むので精いっぱい。だから尻尾を使った攻撃しか仕掛けられなかったというわけだ」
最後は俺がまとめた。
レッパモンが立ち上がろうとして、また地面に倒れ込む。大人しくさせるためとはいえ、悪い事したな。
「……このままでは、バックスモン様に申し訳が立たない」
見ると、バクモンが幽霊のように起き上がる所だった。《バーニングサラマンダー》をまともに受けたっていうのに、タフなやつだ。
「あいにくだが、お前に逃げ場はない」
ライヒモンがバクモンに槍を向ける。
それに対して、バクモンは首を横に振った。
「スピリットが手に入らないのならば、せめてこの命果てても、一人でも敵を倒さねば」
言葉が終わると同時に、バクモンの体にデジコードが現れた。
それが勝手に土の壁に吸い込まれていく。バクモンはデジタマも残さず消え去った。
デジコードが全て吸い込まれると同時に、地面が揺れ、壁が崩れだした。
「地震か?」
「いや、あれを見ろ!」
俺の疑問に、ライヒモンが壁を指差した。
崩れた壁が人のような形になっていく。まるで土でできた人形だ。でも、大きさはヴリトラモンぐらいある。
それが全部で4体、部屋を埋め尽くした。俺達は結界の台座のそばに追いやられて、逃げるどころか移動すらほとんどできない。
「ゴーレモンだわ。自分の命を犠牲にして、こんなものを残していくなんて」
シューツモンが固い声でつぶやいた。
―――
地面の材質が鋼から土へと変わりだした頃。ようやく岩かげに座り込むバックスモンの姿を見つけた。
しかも上空高くを飛んでいる俺にはまだ気づいていない。不意打ちするなら今だ。
頭上で組んだ両手に雷の力を集め、一気にバックスモンめがけて急降下する。
「《トールハンマー》!」
瞬きする間もなく、バックスモンが大きくなっていく。
が、俺のこぶしはバックスモンに片手で止められた。
バックスモンは一瞬のうちに立ちあがって、俺の攻撃を止めていた。
上空で止まった俺と、それを見上げるバックスモン。
視線が合う。
土ぼこりの混じった風に、バックスモンの褐色の衣が舞う。
牛の皮の下から見える口が、笑みの形につり上がった。
「十二神族を甘く見るな、人間の子どもよ」
ゴミを投げ捨てるように、俺の体が地面に叩きつけられた。まだ鋼に近い地面だ。癒えていない体に容赦なく痛みが突き抜ける。
遅い動きで立ち上がる俺を、バックスモンは腕を組んだまま見ていた。
「ヒューマンスピリットしか残っていないお前が、なぜオレの後を追ってきた? スピリット一つの力だけで奪われたスピリットを取り返しに来た……とは言うなよ」
「残念だけど、そのままそっくり同じなんだよな」
自分を元気づけるためにも、あえて強気の声を出す。
「俺が甘かったせいで大事なスピリットを取られちまったんだ。その落とし前を俺自身がつけに来たって事だ!」
大声で言い切ると、バックスモンが俺に負けない勢いで笑いだした。
「なるほど。いや人間の子どもといっても
そう言って腰につけた酒瓶を手に取り、乱暴な手つきでのどに流し込んだ。
瓶を地面に投げ捨て、俺に向かって身構える。
「来い。オレもちょうど傷が治ったところだ。今度はその意気ごとデジコードにして吸いつくしてやる」
「今回はそう簡単にはいかないぜ!」
俺も両手両足に力を入れる。
ビーストスピリットがなくても。たった一人でも。相手が絶対的に強くても。
俺に諦めるという選択肢はなかった。
☆★☆★☆★
お待たせいたしました! ちゃんと生きてましたよ。
タイトル決めてから、「これはどこの指輪の魔法使いだ」と思ってしまった。狙ったわけではないのですよ、いや本当に。
さて、メンバー最後! 輝二の絵を投下します。
【名前】
源輝二
【年齢】
13歳、中1
【詳細】
前回の冒険でデジタルワールドを救った伝説の十闘士の一人。拓也と同じくセラフィモンのデジタマとオファニモンから力を受け取り、ダブルスピリットとハイパースピリットの進化をする事が出来た。(現在どこまで進化できるのかは不明)
【進化先】
ヴォルフモン(光の闘士)
技:《リヒト・ズィーガー》、《ツヴァイ・ツイーガー》、《リヒト・クーゲル》
ガルムモン(光の闘士)
技:《スピードスター》、《ソーラーレーザー》
ベオウルフモン(光の闘士)
技:《ツヴァイハンダー》、《ルフトアングリフ》
マグナガルルモン(光の闘士)
技:《スターライトベロシティ》、《マシンガンデストロイ》
以下、作者の小話。
一番髪型で悩んだキャラです。とりあえず「脱バンダナ」しようと思ったのはいいのですが、まずヘアバンドの色で悩み(青では初代主人公になってしまいます)、ヘアバンドの位置で悩み、前髪の本数で悩み……悩みまくりでした。
参考資料を探すにも、輝二がバンダナ外してる場面が少ないのでまずその場面を探す所から始まると。
最後の一人だったので諦めるつもりはなかったのですけどね。その分大変でした。全力は尽くしたはず。
そして拓也と同じく今の輝二は中1ではなく小5の(以下略)
今回初登場のデジモン