(東京都杉並区荻窪 すぎなみ詩歌館~旧・角川源義邸)
回天や海鼠を切れば水溢る 中村猛虎(なかむら・たけとら)
今日は荻窪青丹会。
珍しく最高点だった(笑)。
この時期の角川庭園も実に美しい。
早くも八重桜、ツツジが咲き誇っている。
よく見ると、ぜんまいも背を伸ばしている。
春まっさかりである。
ところで、昨日、4月1日は俳人・西東三鬼(さいとう・さんき)の忌日。
三鬼(1900~1965)は「新興俳句のチャンピオン」とも称された著名な俳人である。
その故郷・岡山県津山市では、「西東三鬼賞」を開設し、毎年、表彰している。
(こう言ってはなんだが…)「なんとか俳句大会」の成績などはあまり信用出来るものではなく、だいたい「オーソドックスな俳句」ばかりが選ばれる。
そのことは自著『俳句再考』で指摘している。
しかし、西東三鬼賞は信用出来る。
私も編集長時代、この賞はよく知っていたし、その受賞作品に注目していた。
特に、第3回の受賞作、
子を産みに身を隠しけり麦の秋 飯塚風像
には衝撃を受けた。
生活句でありながら幻想句の匂いをも持つ詩世界は、いかにも「三鬼賞」に似つかわしいと思った。
それ以来、注目していた賞だし、第23回では、親しくさせていただいている写真家で俳人・淺井愼平さんの、
青き川祖国に流れ足の裏
が受賞した。
この句も独特で、俳句の形をとりながら、俳句を越えた詩の世界を持っている。
その第30回の大賞に、わが友人で、俳句アトラスより句集『紅の挽歌』を刊行した、姫路市在住の俳人・中村猛虎(「亜流里句会」代表)が受賞した。
上記が受賞作。
「回天」は人間魚雷のことだ。
二十世紀は戦争の時代だった、と発言する俳人が存在した。
二十一世紀に入っても、戦争は依然として、世界各地で続いている。
昨年二月、ロシアのウクライナ侵攻。
両軍の死者は二十万人を数える、という報道もある。
その戦闘にかかわっているのはほぼ若者たちであろう。
かつて日本という国も戦争をしていたのだ。
回天というのは、太平洋戦争において大日本帝国が開発した人間魚雷のことである。
この兵器に脱出装置はなく、一度出撃すれば乗員の命はない。
実際の戦闘にも使用されている。
この俳句にある海鼠はたぶん戦死した人間のたましいそのものであろう。
その死から長い間、海辺にいた海鼠がどういう表紙だったか、掬い上げられたことになった。
試みに刃物を入れると、体内から水があふれ出たのである。
きっと清浄の水そのものであっただろう。
かつての黒い想いが浄化され、無垢なたましいがそこにあった。
西東三鬼賞はここに稀有な、現在の戦争俳句を生み出した。
喜ばしく思う。
選考委員の一人・久保純夫氏の選考評。
力のこもった選評であり、この作品の意義を述べている。
実に喜ばしいことだ。
ところでこの西東三鬼賞、賞金は50万円なのだそうだ。
他の俳句賞に比べて、破格の賞金…。
みなさんも応募してみたらどうだろう。
僕も応募してみようかな(笑)。
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