瀬口利幸(せぐちとしゆき)の思考日記A -10ページ目

実物大

 

「凄い実物大の物作ったから、見に来いよ」
日曜日の昼過ぎ、僕は、高校時代からの友人の植木に電話で呼び出された。
植木は、とにかく実物大の物を作るのが好きで、完成するたびに僕に見せてくれる。
僕は、望んでいる訳ではないんだけど・・・

僕が植木の家に着くと、植木は、いつも通りの笑顔で迎えてくれた。
「何だよ ? 凄い実物大の物って」
リビングに入るなり、僕は、植木に聞いた。
「まあまあ、そう焦るなって。コーヒー飲むだろ ?」
「焦ってねえよ、別に・・・楽しみにしてる訳でもないし・・・どうせ、大した物じゃないんだろ」
「そんなこと言うなよ・・・今度のは、本当に凄い物なんだから」
「本当かよ」
「ああ・・・めちゃめちゃ驚くぞ」
「それにしても、何で、実物大の物作るの好きになったんだ ?」
「さあ・・・背伸びして生きる人生に疲れたからかな・・・」
「なに、詩人みたいなこと言ってんだよ・・・最初に作った実物大の物って何だっけ ?」
「ミジンコ」
そう答えながら、植木は、二人分のコーヒーをテーブルに置いた。
「ああ、そうか・・・生しらすを一本釣りする時のルアーにするって言ってたよな」
「ああ」
「生しらすを一本釣りする奴なんていないだろ。どうやって針に付けるんだよ。ミジンコのルアーなんて」
「顕微鏡を覗きながら」
「で、釣れたのか ?」
「いいや。費用対効果がないなって気付いたから止めた」
「そりゃそうだろ・・・で、次に作ったの、何だっけ ?」
「実物大のミニカー」
「そもそも、ミニカーが、実物の何十分の一のスケールで作ってるのに、それの実物大って・・・」
「まあな・・・」
「で、次は ?」
「実物大のピカチュウ」
「実在しない物の実物大って・・・」
「・・・」
「で、何なんだよ ? 新しく作った実物大の物って」
「そんなに見たいか ?」
「そんなに見たい訳じゃないけど・・・一応、それを見に来た訳だからな・・・」
「じゃあ、見せてやるか」
そう言って、植木は、スマホを操作しだした。
すると、窓の外が暗くなり始めた。
「なんか、急に天気悪くなってきたな・・・今日、雨降るって言ってたっけ ?」
僕が、そんな事を話してる間も、どんどん外は暗くなっていき、やがて、真夜中のような暗闇になった。
腕時計を見ると、午後三時過ぎ。
驚いて植木を見ると、植木は、誇らしげに微笑みながら、
「準備できたぞ」
と言って立ち上がった。
「何だよ ? 準備って」
「外に出てみりゃ分かるよ」
詳しい説明もしないまま、植木は、さっさと玄関に向かって歩き出す。
仕方なく、僕も、後に続いた。

「何だ、これ !!?」
外に出た僕の目に、飛び込んで来たのは・・・
空に浮かぶ、巨大な物体だった。
街の明かりで微かに確認できる、その物体は、とにかく巨大で、ほぼ完全に空を覆いつくしていた。
「何だよ !!? これ」
僕は、植木に説明を求めた。
「実物大の地球儀だよ」
「実物大の地球儀 !!?」
「ああ。まあ、正確に言うと、地球の部分が実物大の地球儀だな」
「何で、こんな物造ったんだよ ?」
「何でって、実物大の物が好きだからだよ」
「好きだからって・・・痛っ !」
僕の頭に、何かが当たった。
見上げると、尖った物が目に入った。
「何だよ ? これ」
「エベレストの頂上だよ」
「エベレストの頂上 !?」
「ああ。エベレスト登頂おめでとう」
植木は、そう言って拍手をした。
「こんなんで、登頂した事になるかよ・・・どうすんだよ、こんなもん造って」
「いいだろ。日食、見放題だぞ」
「日食のレベルじゃないだろ。空全体、隠してんじゃねえか」
「地球温暖化対策にもなると思うけど」
「温暖化は何とかなっても、氷河期で人類絶滅するよ」
そんな事を話していると、周りの家からも人が出て来て騒ぎになり始めていた。
「おい !!? 何だよ、これ !!?」
「惑星が地球に衝突するのか !!?」
「地球が滅亡するぞ !!!」
「電話しろ !!!」
「どこにだよ !?」
「警察 !!」
「いや、消防署 !!」
「いや、自衛隊だ !!」
「いや、NASAだ !!!」
「電話番号知らないよ !!!」
騒ぎは、大きくなる一方だった。
「おい、何とかしろよ ! どんどん騒ぎが大きくなってるぞ」
僕は、植木に詰め寄った。
「・・・しょうがねえなあ・・・」
そう言いながら、植木は渋々スマホを操作し出した。
すると、空を覆いつくしていた巨大な地球儀は、みるみる小さくなっていき、普通サイズになって、植木の両手に収まった。
それと同時に、周囲の騒ぎも収まり始めた。
「あれっ !? 消えた」
「何だったんだよ !? 今の」
「NASA、留守番電話になってたぞ」
人々が家に入っていき、辺りは、やっと静かになった。
「・・・人騒がせな事するなよ」
僕は植木に注意したが・・・
「どうだ ? 凄かっただろ」
植木は、全く反省していない様子だった。
「どうやって、あんな物造ったんだよ」
「それは言えないよ」
「・・・」
「今度は、実物大の宇宙でも造ろうかな・・・」
「何者だよ ! お前」
 
 
 

隔世遺伝

 

 

ある日、50才になる田中さんが街を歩いていると、40年振りに小学校の同級生の山下さんに会った。
「田中 ?」
「・・・山下か !?」
「ああ・・・久し振りだな !」
「本当だな・・・40振りか」
「そうだな」
「おっさんになったな」
「そりゃまあな・・・子供が25だからな」
「へー・・・」
「お前は ?」
「いないよ」
「そうか」
「孫はいるけどな」
「えっ !? ・・・子供がいないのに孫 ?」
「ああ。隔世遺伝だよ」
「いやいや、隔世遺伝って、そういう意味じゃねえよ」
「えっ !? ・・・隔世遺伝って、子供がいないのに孫が生まれるっていう意味だろ」
「違うよ。おじいさんの才能や体格なんかが孫に遺伝するっていう事だよ」
「ああ、そういう事か」
「当たり前だろ。子供がいないのに、どうやって孫が生まれるんだよ」
 

提灯

 

 

今日、NHKの土曜スタジオパークを見ていたら、俳優の松田龍平さんが出ていて、番組の中で、松田さんが撮った写真を何枚か紹介していた。
その中に、火の点いていない提灯の下に夕日が写っている写真があった。
あれって、火が提灯を抜け出して夕日になったっていう意味で撮ったんだろうか・・・
 

双子

 

 

ちょっと変わった友人AとBの会話。
「先月、子供が生まれたんだよ」
「へえー、おめでとう・・・男 ? 女 ?」
「男の双子」
「双子 ?」
「ああ」
「双子っていうことは・・・三人で子作りしたのか」
「いやいや、双子は、そういうシステムで生まれる訳じゃねえよ !」

 

 

賞味期限が五年後の卵

 

 

昨日、スーパーで買い物をしていたら、不思議な光景を目にした。
卵売り場に行って、どれを買おうか考えていると、卵の賞味期限が五年後になっていた。
僕は、近くにいた店員さんに尋ねた。
「これ、賞味期限、間違ってますけど」
「ああ・・・それで間違ってないんですよ」
「えっ !! 五年後ですよ」
「ええ、その卵は有精卵で、まず、お客様に卵を温めていただいて、生まれてきたヒナを育てていただいて、で、成長した親鳥を美味しく食べられる期限なんです」
「ああ、なるほどね・・・」